第19話 ミハエルが村を出ると 1
『お母さん!行って来ます!!』
馬車の窓から手を振るミハエルを精一杯の笑顔でソフィアが手を振って見送っている。
あぁ・・・これから寂しくなるわね・・・でもいずれミハエルも一人立ちする時がくるのよ・・・その時の予行練習よね・・・。
ソフィアは想いを馳せながら小さくなっていく馬車を遠い目で見送るのだった。
そしてこの日を嬉しく思う者達が居た・・・
それはソフィアに想いを寄せる村の男達であった。
以前メルト村に立ち寄った男3人の冒険者達が宴の席でついふざけてソフィアにちょっかいを出した事があった。
男が嫌がるソフィアの手を掴んだ瞬間・・・ミハエルのアッパーカットが男の顎に炸裂し村長の家の天井に突き刺さったのだ。
男は一命は取り止めたものの顎は砕かれ喋る事も食べる事も出来ずに村を逃げるように去って行った。
天井からぶら下がる男を見ながら村の男達は戦慄したのだった。
ソフィアに不快な思いをさせたら・・・ああなると・・・男達は思うように言い寄る事が出来ずに毎日悶々としていたのだ。
そしてミハエルがクラインド王国へ旅立つと知った男達は密かに歓喜した。
そしてその日がやってきた。男達はミハエルを見送った後一斉にソフィアを見るとそこには村の女性達がソフィアを護るように立ちはだかる姿だった。
『ミハエル君から頼まれたのよ。お母さんを頼むってね!
あんた達の下心なんかミハエル君はお見通しよ!!
もしくだらないちょっかいを出したらミハエル君に報告するからね!!』
男達は一瞬で思惑が崩れ去り無言で項垂れるのであった・・・。
そしてこの様子を見ていた男がニヤリと笑い森の木々を器用に足場に使い消えて行った。
『頭ぁぁぁ!!!朗報ですぜ!!!』
先程の男が満面の笑みで飛び込んでくる。
『どうした?!何があった!?』
山賊団の頭グランが目を丸くして身を乗り出す。
『チャンスですぜ!!メルト村の化け物2人が村を出て行きましたぜ!!
襲うなら今しか無いですぜ!!!』
『なんだと?!あの化け物2人が出て行った?!確かなんだろうな?!』
グランが笑みを溢しながら舌なめずりをする。
この約2年の間にメルト村を襲った山賊は全てミハエルとアンリルによって蹴散らされてきたのだ。
いつの日か2人はメルト村の化け物と恐れられていた。
グランが勢いよく立ち上がる!
『よぉぉぉぉし!!化け物が居なけりゃなんとかなるぞ!!
こっちには〈神の使人〉が3人も居るんだ!
直ぐに用意しろ!!』
しかしグラン達は知らなかった・・・メルト村はミハエルによって以前とは比べ物にならない程に強化されている事を・・・
『おっ!ミハエル達が居なくなった途端においでなすったな!!・・・ふん!馬鹿な奴らだ・・・』
ガインの手首に光る腕輪に付与された〈悪意感知〉と〈索敵〉が山賊の接近を知らせる。
ガインは屋敷を飛び出して訓練通り鐘を鳴らすと村の男達が一斉に集まって来る。
ガインは男達を前にして声を張り上げる!
『山賊の襲撃だ!!数は150人程だ!2人は〈神の使人〉と思われる!!気を引き締めろ!
ミハエルは居ないがミハエルのお陰で俺達は強くなった!!奴等の好きにさせるな!!奴等にメルト村の恐ろしさを叩き込んでやるぞ!!』
『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』』
ガインが剣を掲げると男達のテンションが上がる!
『訓練の成果を見せてやるぜ!!今から腕がなるぜ!!!』
『ふふふふふ・・・ソフィアさんに良い所を見せるチャンスだ・・・やってやるぜぇぇぇ!!!』
『その通りだ!!・・・俺の活躍をソフィアさんに見てもらうんだ!!!・・・そして・・・そして・・ふふふ・・・』
何やら邪な思惑が見え隠れする男達の様子を村の女性達は目尻を引き攣らせながら見るのであった。
ガインが男達に指示を飛ばす!!
『よし!!山賊共を村の外で待ち伏せて迎撃するぞ!!
万が一に備えて20人は村の守りを頼む!!
みんな〈索敵〉を使える様にしておけ!
〈神の使人〉共のスキルが分らん以上慎重に行動してくれ!!いいな!!』
『『『『おう!!!!』』』』
ガインは男達の顔が真剣になり気合が乗っているのを確認してその場を離れようと歩き出す。
すると視界の隅で村の子供達6人が円陣を組んでいるのが見えた。
その時は気に止めなかったが・・・数十分後にその意味を知る事になるのだった。
ニーナが皆んなの顔を見渡して口を開く。
『みんな!気付いているよね?〈索敵〉には反応が無いけど1人村に入って来たよ!!
こいつは私達で倒すのよ!!
この日の為にミハエル君に鍛えて貰ったんだからね!!・・・さあ!!狩の時間よ!!』
『『『『『おーーーー!!!!』』』』』
ニーナ達は村に忍び込んだ悪意に向かい走り出すのだった。
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