第187話 現実になる妄想
「あ、あの・・・使徒って・・どういう事?」
ミハエルが目の前で跪くアグニシアの分体に問い掛けると不思議そうな表情でアグニシアが顔を上げる。
「・・・も、もしかして使徒様はご自分の本当の称号をご存知ないのですか?」
「えっ・・ほ、本当の・・称号?」
「はい。・・・ふむ。理由は分かりませんが使徒様の称号は隠されているようです。私の鑑定によると使徒様の称号は〈創造神の使徒〉でございます。ご存知の通り我らは創造神様により召喚されこの星を見守っております。所で使徒様のこの度のご訪問はどのようなご用向きなのでしょうか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・ツッコミ所があり過ぎて考えが纏まらないんだけど・・・ミハエルが創造神の使徒?!闇と光の末裔じゃないのか?!」
熱気と殺気が消えて魔法を解除したライナードが前に出るとアグニシアの目が光る。
「ほほう・・お前も中々の力を持っているな・・・〈大天空神の加護〉か。そっちは〈大冥界神の加護〉・・・ふむ・・・そうでしたか・・使徒様は光の使徒として生を受けたのですね。・・・なるほど・・我もはっきりとは言えませんが・・・恐らくは創造神様の思惑があるのでしょう・・・それはそうと話が逸れましたがご訪問の理由をお聞かせ願いますか?」
ミハエルはまだアグニシアの話が飲み込めずに困惑していた。その上アグニシアを起こしたのは自分が原因でありその調査に来ているのだ。3人の中で何とも気まずい空気が流れていた。
「・・・あ・・うん。えーと・・・あのね・・ア、アグニシアさんが・・早く目覚めた理由をね・・・調査しに来たんだよ・・・アグニシアさんが完全に目覚めると・・世界が焼け野原になるから・・・」
ミハエルへもじもじと目を泳がせながらアグニシアの反応を待っているとアグニシアが肩を震わせながら顔を上げた。
「ふふふふ・・・ふっ・・ふわっはっはっはっはっはーーー!!!先程から使徒様の様子がおかしいと思っていたのです!!なるほど!なるほど!!ふふふっ・・くくっ・・わ、我が目を覚ましたのは使徒様の強大な神力であり、それを気付かずに調査に来たのですね!ふふふ・・・んっ?」
(くっ・・・笑い過ぎだよ・・・)
アグニシアがひとしきり笑いミハエルの顔を見ると口をへの字に曲げてムッとするミハエルと目があった。
「・・ふ・・はっ!・・し、使徒様・・こ、これは失礼致しました・・・あ、あの・・この世界にどう伝わっているか解りませんが、我は自分が見護るこの世界を焼け野原にするつもりはありません。・・ただ・・一度だけ・・1200年ほど前にここを拠点としようと魔族共が押し寄せた時に・・・苛ついて蹴散らした事があります・・その時に力の加減が分からず・・・この辺り一帯が・・少しだけ焼け野原に・・・なったような・・・」
アグニシアが目を泳がせミハエルの反応を伺うようにチラリチラリとミハエルの顔を見る。
「えっ・・・1200年前・・・?それってもしかして・・・」
話を聞いていたカリンが〈シャドームーン〉を解除してミハエルの元へ駆け寄る。
「ふ、ふむ。そうだ。お前たちの先人達が戦った闇光大戦の最中だった。我も世界の行く末を観ておったぞ。だから我が目覚めたとしても世界が終わる事はない。恐らく龍峰山で生き残った魔族がかなり誇張して世に広めたのだろうな・・本当に迷惑な事よ・・・」
「・・そうなんだ・・・という事は・・アグニシアさんは僕のご先祖様を助けてくれたんだね・・・」
「・・・結果的にはそうなりましたが我等は地上の事象には手を出さない事になっております。ですが創造神様の使徒様なら話は別です。お望みとあらばこの世界を焼け野原に・・・」
アグニシアがニヤリと笑い目を細める。
「駄目だよ!それを止めるために来たんだから!」
「ふふ・・失礼致しました。冗談が過ぎました・・・それはそうと・・せっかくここまで来て頂いたのですから我が本体に会って行ってください。」
「えっ?!本体に?!だ、大丈夫なの?!」
「えぇ!!」
「な、何っ?!」
カリンが声を上げた瞬間、全員の足元に巨大な魔法陣が現れ問答無用でミハエル達がその場から光と共に消えたのであった・・・
赤龍教のアジトで元暗黒神ドルゲルが魔力を展開して様子を伺っていた。
(・・アグニシアが大人しくなる存在・・・イグでも無理だろう・・となると・・創造神か・・・多分、アレは使徒だ・・チッ!この世界はどうなってやがる・・・噂では光の使徒共も誕生しているんだぞ?!もし奴等が手を組んだら・・・厄介だぞ・・・)
今までレオガルドが座っていた大きく座り心地の良い椅子に座り一点を見つめるドルゲルの前にレオガルドが跪く。
「ドルゲル様。いかがされましたか?お加減が優れぬようですが。」
「むっ・・・ふん・・何でもない・・・んっ?!」
ガタタッ!!
気怠くレオガルドを見下ろしたドルゲルが弾けるように突然立ち上がった!!
(や、奴等の気配が消えた?!こ、これは・・転移か!!・・・て、転移先はどこだ・・・そんなに遠くには・・・・)
「ど、どうされたのですか?!」
ドルゲルは焦るレオガルドの問い掛けも無視して魔力を展開する!
(・・い、居た!!・・・な、何?!ま、まさか・・そこは・・)
ドルゲルは目を丸くして固まるレオガルドをゆっくりと見下ろした・・・
「・・・お前、レオガルドと言ったな?」
「はっ!名を覚えて頂き感激でございます!」
「ふん!そんな事はどうでもいい!最下層へのトンネルは何処まで出来ている?!」
「は・・はっ!あ、あと・・2日程で最下層へ到達出来る予定です!」
「駄目だ!!遅い!!今すぐ行くぞ!!案内しろ!!」
「え、あ・・・ド、ドルゲル様・・・な、何故・・突然・・・」
ドルゲルがトンネルには興味が無いとレオガルドは思っていた。しかし突然トンネルに興味を示したドルゲルに理解が追いつかず困惑しながらゆっくりと立ち上がる。
「ふん!喜べ!!貴様の妄想が現実になるかも知れんぞ!!」
「えっ?!」
呆けるレオガルドの横をドルゲルが足早にすり抜ける。
「お前!炎帝龍アグニシアに謁見したいんだろう?!今すぐ最下層へ急げ!!」
「えっ?!あっ!は、はっ!!!こ、こちらです!!」
レオガルドは半信半疑であった。しかしドルゲルの慌てようにレオガルドは何かが起きると期待に胸を膨らませる。そして慌てて扉を開けるとドルゲルと共に最下層へのトンネルへと急ぐのであった。
ここは魔王城。
ここにもう1人炎帝龍アグニシアの目覚めを知った者がいた・・・元暗黒神ルビラスが転生した魔王ベルモスの子供ゼルビスである。ベットの上で目を閉じて魔力の鍛錬をするゼルビスが突然目を見開く。
(な、何?!こ、この波動は・・・まさか・・・炎帝龍アグニシアか?!おいおいおい!!ま、まずいぞ・・このままだと俺がこの世界を支配する前に焼け野原にされるぞ・・・それにしても何故だ・・龍峰山で何が起こっているんだ?!・・・どうする・・どうしたら・・・よ、よし・・・)
そしてゼルビスは暫く考えるとメイドを呼ぶ為のハンドベルを全力で振るった。
チリン!チリン!チリン!チリン!チリン!
するとただ事ではない空気を感じ取りメイド達か慌てて部屋に殺到しゼルビスを取り囲んだ。
「ゼ、ゼルビス様!!どうされたのですか?!」
「お、お加減が悪いのですか?!」
「・・・それとも・・・おっぱいですか?」
するとゼルビスの動きが一瞬止まってサキュバスのメイドの豊満な胸元に釘付けになる。
(うっ・・と、取り敢えず・・・)
「・・う、うむ・・・」
「うふっ・・寂しかったのですね・・・」
思わず頷いたゼルビスをメイドの1人が愛しげに抱きしめてゼルビスの顔を胸に埋め頭を撫でる。
「よしよし・・・」
(・・うぶっ・・・こ、これが終わったら・・・考えよう・・・)
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