第186話 レオガルドの妄想
レオガルド達は人目が付かない森の中を早馬に乗り馬を乗り継いで龍峰山にあるアジトに向かっていた。ミラジリアはスピードを上げてレオガルドと並走する。
「レオガルド様。あの者は来るでしょうか?」
「うむ。あの者の口ぶりではアグニシア様の目覚めに何か秘密があるようだった。恐らくそれを確認する為に姿を現すに違いない。それはそれとして我らはアグニシア様との謁見の為に作業を急ぐのだ!」
「はっ!!」
ミラジリアは短く返事をすると前傾姿勢を取り更にスピードを上げるのだった。
ガーゼイドの街から龍峰山までは通常半日は掛かる距離だが早馬で飛ばしたレオガルド達は半分ほどの時間で到着する事が出来た。馬を降りたレオガルドが大きく立ちはだかる岩肌に手を翳し魔力を流すと大きな岩肌に大きな両開きの鉄の扉が現れる。
「・・・お前達!急いで準備に当たれ!」
「「「はっ!!」」」
部下達は分かっていたかのように大きな鉄の扉を開けて中へ吸い込まれて行く。
「ミラジリア。作業の進行を急がせろ!!私も後で行く!」
「はっ!」
ミラジリアもレオガルドに一礼して扉の奥へ消えて行った。レオガルドはミラジリアの後ろ姿を見送ると肩を落として想いに耽ながら扉を潜る。
(・・・ふむ。あの男は一体何者だ・・・古文書にも謳われていない赤龍様の名を知る者・・・あの男が赤龍様の化身でなければ・・・一体・・・はっ・・待てよ・・あの規格外の力・・そしてアグニシア様を呼び捨てにする言動・・・そ、そうか・・・なるほど・・・それなら納得が行く・・・あの男はこの世界の管理者・・・すなわち神の化身・・・いや・・神の使徒・・くくくっ・・そうに違いない!!あの男をを取り込めばアグニシア様も私の思うがまま!!くっくっ・・・そして私の願望を叶える事が出来る!!いいぞ・・・神の使徒様との謁見か・いいだろう。必ず取り込んで見せるぞ・・)
レオガルドは妄想を膨らませ細く微笑む。レオガルドには理には常識の壁が存在しない。常識を越え迷信さえも自分の都合の良いように信じるのである。この〈赤龍教〉もレオガルドの妄想から立ち上げられた教団であった。しかし今回だけはレオガルドの妄想が真実とはズレているものの少なからず当たっていたのであった。
扉を潜り〈赤龍教〉のアジトの中へ入ると魔灯に照らされた幅5メートル程の通路が続き奥からひんやりとした空気が流れてくる。
10mほど通路を進むと奥の広場から光が差し込み金属が擦れ合う音や話し声や怒鳴り声が段々と大きく聞こえてくる。そのまま通路を抜けるとそこはドーム状にくり抜かれた巨大な部屋になっていた。そこには数百人の獣人達が慌ただしく行き来していた。
(ふむ。順調のようだな・・後もう少しで最深部に到達する・・・この15年・・長かった・・遂に悲願が達成されるのだ・・・)
レオガルドは慌ただしく筋骨隆々の獣人達が出入りするトンネルの出来栄えを誇らしく眺めていた。するとトンネルの前で話をしていたミラジリアがレオガルドに気付き早足で寄って来る。
「レオガルド様!報告です・・・」
しかしその瞬間!周りの温度が急激に上昇し全身に突き刺さるような殺気がばら撒かれレオガルド始め獣人達が膝を付き地面に這いつくばる。
「ぬがぁぁぁ!!な、なんだ・・何が起こった?!」
「あうっっ!!うぐっ・・・」
(こ、これは・・・ま、まさか・・アグニシア様が・・・め、目覚めたのか・・?!・・な、何重にも結界を張っているはずだぞ・・・そ、それを持ってしても・・こ、これほどの力とは・・ぐっ・・)
この赤龍教のアジトはアグニシアの熱対策や外敵からの攻撃を想定し耐熱、耐衝撃、対魔法結界が幾重にも展開してあった。今、レオガルド達が生きているのはその結界があるからであった。
「レ、レオ・・ガルド様・・・こ、これは一体・・・」
ミラジリアが震える声を絞り出す。
「・・くっ・・恐らく、ア、アグニシア様が・・目覚めたのだ・・・だが・・こ、このままでは・・・」
レオガルドが立ち上がろうと踠いていると入口の方から何者かが近付く足音がする。
ざっ・・ざっ・・ざっ・・・
「・・ふん!この俺でさえきついのに・・まさかこの中で生きている奴が居るとはな・・・」
(ふう。転移陣を張っておいて正解だったな・・かなりの魔力を使ったが流石に俺でもこの中を移動するのは骨が折れるからな・・・)
通路から姿を現したのは小脇に赤い箱を抱えたドルゲルであった。ドルゲルは龍峰山を出る時に転移陣を残して行ったのだ。神界の力があれば思い描いた場所に転移出来るが、今のドルゲルの魔力では転移陣が精一杯であった。
「あ、貴方様は・・・」
「ふん!これは・・・結界か。脆弱な結界も数張ればマシになるって発想か・・・まあまあ頭は使っているようだな。」
ドルゲルが這いつくばるレオガルドに近付き見下ろした。すると部屋の温度が下がり激しい殺気が嘘のように消えた・・・
(むっ?!熱気と殺気が消えた?!何故だ・・・まさか・・・アグニシアが・・・)
「お、おぉ!!・・・う、動ける!さっきまでの重圧が嘘のように消えた・・・これは・・・」
レオガルドが身体を確認するように身体を起こすとドルゲルを足元から崇めるようにゆっくりと見上げる。
「こ、この力・・やはり貴方様は・・神の使徒様なのですね・・・我等を助ける為に駆け付けてくださったのですね!」
「レ、レオガルド様!か、神の使徒様とはどういう事ですか?!」
動けるようになったミラジリアがレオガルドの側にやって来る。
「ミラジリアよ。私は間違っていたのだ。赤龍様の名を知り、アグニシア様を呼び捨てに出来る者!そして先ほどの重圧をものともせず打ち払ったお力・・・このお方こそこの世界の管理者・・神の使徒様なのだ!」
「えぇ?!こ、この方・・が?!」
レオガルドはドルゲルから視線を外す事なく跪き光悦な表情で見上げる。
(ん?こいつは何を言っているんだ?俺が神の使徒だと?!ちっ・・馬鹿が・・・)
ドルゲルがこめかみを震わせレオガルドを見下ろす。
「おい!貴様!この俺が神の使いっ走りだと?!よく聞け!!俺は神そのもの!!暗黒神ドルゲルだ!!俺がこれから支配するこの世界をアグニシアから守る為に来たんだ!!神の使いっ走りと一緒にするな!!」
ドルゲルの言葉にレオガルドの黒目が段々大きくなって行く・・するといつも間にかミラジリアを始め作業をしていた獣人達も集まり同じようにドルゲルの前に跪いていた。
「おぉ・・・暗黒神ドルゲル様!大変失礼致しました。まさか神が我等の味方をして頂けるとは!!感激至極で御座います!!」
(おぉう・・・こいつら・・あっさり信じやがった・・・まあいい・・こっちの方がやり易い。)
「・・ふん!所で貴様等はここで何をしている?」
「はっ!私達は赤龍・・いえ、アグニシア様と謁見する為に龍峰山の最深部へとトンネルを掘っているのです!!」
「はぁ?!アグニシアと謁見?!トンネル?!・・・貴様、何を馬鹿な事を言っているんだ?お前ら獣人如きに世界に影響を及ぼす炎帝龍アグニシアが会う訳ないだろう!?そもそも龍峰山の最深部に到達したってアグニシアには会えんぞ?!」
「えっ?!そ、それはどういう事ですか?!」
レオガルドの背筋に寒気が走る。人生を捧げて15年掛けてここまで来たのだ。アグニシアに謁見する為にここまで信じて来たのだ。他の教団員もざわつき出す。
「ど、どういう事だ・・・」
「・・そ、そんな・・」
「お、俺達の時間は・・・無駄だったのか?!」
「ふん!はっきり言って無駄だったな!そもそも炎帝龍アグニシアは炎の化身だぞ?!貴様等が想像していような龍ではないんだ!アグニシアは炎の最上位幻獣だ。形があって形が無いんだよ!奇跡でも起こらない限り会える事は無い!!」
レオガルドがガックリと肩を落とす。部下達もざわめき声を上げる。
「ど、どうなってんだよ!!俺達は一体何をしてたんだよ!!」
「こんな無駄な事に・・・時間を使っていたのか・・・」
「おい!レオガルド様!!なんとか言ってくれ!!」
(そ、そんな・・・わ、私達の15年は・・む、無駄だったのか・・・い、いや・・・そんな事は・・・断じて・・断じて無い!)
レオガルドは歯を食い縛り顔を上げる!
「お前達!!狼狽えるな!!我等の行動に無駄など無い!!現にアグニシア様が目覚めたではないか!!先程の重圧がその証拠だ!!そして暗黒神ドルゲル様によって我等はその重圧から救って頂いたのだ!!我等の行動は全てが繋がっているのだ!!アグニシア様に謁見出来るように運命が動いているのだ!!我等は奇跡を起こすのだ!!その為には作業を続けるのだ!!きっと我等の行動は報われる!!信じるのだ!!」
レオガルドの言葉に不安だった獣人達の目に輝きが戻ってくる。
「・・そ、そうだ。あのままだったら俺達はどうなっていたか・・・ドルゲル様がここに来たのは運命なんだ!」
「・・・そうだ!!俺達は奇跡を起こす為にここにいるんだ!!」
「よし!!そうと決まれば作業開始だ!!あと少しで開通する!!気合い入れて行くぞ!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」
獣人達は一斉に立ち上がり持ち場に戻って行く。今までよりも気合いが入り動きにも勢いが乗っていた。
(・・こ、こいつ・・なんて諦めの悪い奴なんだ・・・ま、まあ確かにアグニシアの分体が現れたのは事実だ・・・それより・・分体からの熱気と殺気が消えたのは何故だ・・・)
再びドルゲルが索敵を展開すると絶句して固まる。
(・・な、何だ・・この馬鹿げた神力は・・ふ、二つの神力も馬鹿げているが・・こ、この化け物級の神力・・・アグニシアの分体が力を収める程の力・・・まさか・・・)
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