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第169話 森の主人

赤いフードを被った者が魔灯が灯る薄暗い通路を通り突き当たりの両開きの扉を開ける。中には同じく赤いフードを被った者達が跪き祈りを捧げていた。


「龍峰山に住まう我等が守護神〈赤龍〉様!誇り高き我等獣人族を導き給え!この荒廃した世界に蔓延る人間族を一掃し我等獣人族の理想郷を創造するのだ!!」


先頭に立つ者が両腕を広げて真っ赤な龍の像を見上げる。するとフードが外れて獣の耳が露わになる。


「レオガルド様。報告致します。」


「ミラジリアか。うむ。進捗は順調か?」


レオガルドは身体は逞しく人間族のような目鼻立ちはしているがライオン特有の立派なたてがみと獣の耳があり口元からは白く鋭い牙が突き出している。


「はい。予定通り一週間程で火口深部への道が開ける予定です。」


頭の両側に巻角を生やしたスタイルの良い羊の獣人が一礼する。


「そうか・・他に変わった事はないか?」


「はい。今、山頂付近に生息しているファイヤーリザードやレッドサーペント、ヘルスパイダーなどの強力な魔物が麓に降りて来ています。更には外気温も上昇しているようです。もしかすると赤龍様の目覚めが近いと思われます。」


「ふむ・・・やはりそうか。我等の火口深部付近での行動が影響しているのだな・・・仕方あるまい・・作業を急がせるのだ。赤龍様が完全に目醒める前に我等が赤龍様に謁見しなければならん!」


「はい。了解致しました。直ぐに作業に移ります。」


ミラジリアがキレ良く一礼するとそのまま踵を返し部屋を出て行くのであった。




ミハエルとライナード、カリンはセイル達が乗って来た馬車でスレイド国王王都へ向かっていた。イグは三人の乗る馬車の中は息苦しいとリベルト王子が乗る馬に乗せてもらっていた。


「悪いわね・・・あの中にいたら息苦しくてどうかなりそうなの。」


「あ、い、いや・・いいんだ・・お、俺は全然構わないぞ・・・」


(はふぅぅ・・・せ、背中に・・背中に・・何かが当たって・・・い、いかん!!俺は護衛でここに居るんだ!・・・で、でも・・なんか柔らかい物が・・・はっ!駄目だ・・・でも・・・)


リベルト王子の腰にイグの腕が回され胸が押し当てられていた。女性慣れしていないリベルト王子は至福と緊張の連続で全身に力が入りっぱなしになっていた。




「王都まではここから走り続けても2日は掛かります。しかしこの森の深部での野営は危険です。少し無理をしてでも付近の村まで行こうと思います。」


セイルが力説するがミハエルとライナード、カリンは気付いていた。セイル達が最上級精霊エントの力に守られている事を。


(ねえ。ミハエル君。セイルさん達ってエントさんの祝福を受けてるわよね?)


(うん。そうだね。村に来た時から気づいていたよ。だから道中は魔物に襲われる事はないと思うけどね・・・)


(だよな?この森のど真ん中で大の字になって寝てたって安全なのにな・・・)


三人はそう思いながらもセイルの意見を尊重して指示に従う事にするのだった。



そして森の中を半日程走った頃、ミハエル達の索敵に反応が出る。


(ん?これは・・・冒険者じゃ無いね。統率が取れた軍隊みたいだ・・・だけど少し押されているみたいだね・・・)


(二人共気付いてる?)


ミハエルが小声でカリンとライナードの顔を覗き込む。


(えぇ。これは多分戦ってるのは軍隊よ。約100人規模でもう半数以上やられてるわね。」


(そうだな。ちょっとヤバくないか?大分押されてるぞ?)


ミハエル達が小声で話しているとセイルが三人の雰囲気に気付いて首を傾げた。


「ミ、ミハエル君。何か問題でもあったのかな?」


「・・・はい。約1キロ先で魔物に襲われている人間の集団がいます。かなり危険な状況です・・・」


「な、何だって?!それはいかん!護衛のリベルト王子に相談しよう。」


セイルが馬車の窓から顔を出すがライナードが立ち上がり全身に風を纏う。


「いや!それじゃあ遅い!俺が行って来る!!〈疾風迅雷〉!!」


「お兄ちゃん!私も行くわ!!暗黒魔法〈シャドールーク〉!!」


ライナードが馬車の扉から外へ飛び出すとカリンは後を追ってライナードの影に吸い込まれるように消えた。そしてライナードはスキルを発動すると音を置き去りにして一瞬でその場から消え去った・・・


・・・・ばびゅんっっっ・・・


「きゃぁ!!」


「な、なんだ?!何が起こった?!セイル!!何があった?!」


リベルト王子が突風に煽られ馬上でイグと共にバランスを取りながら馬車から顔を出したセイルに話しかける。


「あぁ・・・は、はい。ここから1キロ先で人が魔物に襲われているらしいのです。ですからライナード君とカリンちゃんが向かったのです。」


「な、なに?!・・・そ、そうか。俺はあの二人が戦っている所を見た事が無いが・・・大丈夫・・だよな?」


「ふふっ。もちろん大丈夫です。私もライナード君がミハエル君と模擬戦をしているのを見た事がありますが・・・いえ、正確に言うと見え無かった・・・と言うのが正しいですね・・・」


セイルが肩をすくめて冗談ぽくリベルトを見る。


「ぶるっ・・わ、私には分かるわ。この森であの二人に勝てる魔物など居やしないわ。この先にいる魔物に同情すらしてしまうわ・・・」


目にも止まらぬ速さでその場から消え去ったライナード兄妹の魔力を感じながら身震いするイグであった。




「くっ!危ない!!」


ガギィィィィィィィン!!


「ぐはぁぁぁ!!!」


ずざぁぁぁぁぁぁ・・・


レッドオーガの拳を盾で受け止めるが勢いを殺せずに吹き飛ばされる!


「ごふっ・・・レザルト様・・・ここは撤退を・・・」


「馬鹿か!!そんな簡単に逃がしてくれると思っているのか?!ちっ!!く、くそったれがぁぁぁぁ!!何故こんな所にオーガロードが居やがる!!周りのオーガ共も半端なく強い!!この森はどうなってやがるんだ!!」


男達の周りにはオーガロード率いるレッドオーガ、ブルーオーガ、ブラックオーガ50体が牙を剥いていた。誰が見ても絶体絶命の危機に瀕していた。


「おい!一点集中で突破する!正面のオーガに魔法をありったけ撃ち込め!!」


「はっ!!大地の力よ集いて敵を撃ち抜け!ロックバレット!!」


「流るる激流よ我に集え!ウォーターウェイブ!!」


「大気よ集え!刃となりて敵を切り裂け!エアカッター!!」


突破口を切り開くべく残り少ない魔力を掻き集め魔法を撃ち放つ!そして渾身の魔力で放たれた魔法がオーガ達に降り注ぎ着弾する!


ズドドドドドドドドド・・・・


「今だ!!突撃ぃぃぃぃ!!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


レザルト達は魔法攻撃の後を追うように決死の突撃を試みる。・・しかし・・・先頭を走るレザルトが見たものは魔法の激しい弾幕から極太の赤い腕が現れ凶悪な鋭い爪を振り下ろされる瞬間であった・・・


「なっ?!なにぃぃぃぃぃぃ!!!」


振り下ろされた剛腕がレザルトは咄嗟に剣を翳して受け止めるがそのまま吹き飛ばされ大木に激突する!


べきゃぁぁぁぁぁ!!!


ずどぉぉぉぉん!!


「くぶっ・・・な、何故・・だ・・なっ?!」


全身を激しく打ち付けられたレザルトが辛うじて顔を上げた。するとオーガ達の身体から身を守るように激しく闘気が立ち昇っていた・・・


「な、何だと・・・と、闘気を障壁代わりしたのか・・・ぐっ・・くそっ・・・」


そして一体のレッドオーガかゆっくりとレザルトに近付いていく・・・


ずぅん・・・ずぅん・・・


レザルトは全身を激痛に襲われて動く事が出来ずに項垂れた。それを見た部下達も魔力切れと疲労困憊で心が折れ膝を付いた。


「レ、レザルト様・・・こ、ここまでか・・・」


「くそっ・・・援軍を待てばよかったんだ・・」


「こ、こんな所で死ぬのは嫌だ・・・誰か・・・助け・・・」


皆が諦めかけたその時一陣の風が吹き抜けレザルトの前で腕を振り上げていたレッドオーガの身体がくの字に折れ曲がる・・・


どめきぁぁぁぁぁぁぁ!!


「ぐぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


ベキベキバキバキバキィィィィィ・・・・


そしてレッドオーガは森の中へと吹き飛ばされ消えていった。何が起こったのか分からずその場にいる者達全員が唖然としていた。


「ふう。・・・間に合った・・・とは言えないか・・・」


レッドオーガを蹴り飛ばしたライナードが頭を掻きながら周りを見渡すと大勢の男達が血を流して倒れていた。

するとライナードの影からカリンが顔を出して飛び出て来る。


「よっと!でも全滅してないなら間に合ったと思うわよ。」


「あぁ、そうかもな。なら取り敢えず・・・天空魔法〈フェザーヒール〉!!」


ライナードが両手を空にかざして魔法を発動させると倒れている男達に純白の羽根が降り注ぎ次々と傷を塞ぎ千切れ飛んだ腕や足までも元通りになっていく。更に死を待つばかりの者まであっという間に癒して行った。


「こ、これは・・身体が・・動く・・」

「き、傷が・・・無くなって・・」

「う、腕が・・あ、あるぞ?!」

「た、助かったのか・・・うぅ・・」


男達が起き上がり自分の身体を動かしながら歓喜し涙を流す者もいた。


「ふう。これでよし!あとは・・・あいつらをどうするかだな!」


ライナードは一仕事終わったとばかりに腰に手を添えていると後ろからカリンが服の裾を引っ張りながら指を差していた。


「ね、ねえ・・お兄ちゃん・・あれって・・・」


「ん?なんだ?なにが・・・うぇぇぇっっ?!」


ライナードがカリンの指差す方を何気に見ると先僕まで殺気立っていたオーガ達がオーガロードを先頭に50体のオーガが跪いて頭を下げていた・・・


「・・・な、何だよこれ。一体どうしたんだ・・・」


「分からないわ・・・でも何となく分かる気がする・・・」


ライナードとカリンは恐る恐るオーガ達の前に立つとオーガ達は緊張の為か更に身体を縮こませて頭を下げる。


「・・・オ、オマエタチカラ・・ワレラノ・・・イダイナオカタ・・・ミハエルサマノチカラ・・・カンジル・・・」


カリンは予想が当たり肩をすくめながらライナードを見るとライナードも納得したと肩の力を抜く。


「・・・やっぱりね。多分だけど・・・ミハエル君の名前を知っているって事は・・・エント達の仕業ね・・・」


「・・・ソウダ・・エントイッタ。オレタチツヨクナッタ・・・イダイナオカタ・・ミハエルサマ・・オカゲ・・・タタエヨ・・ト」


「ははっ・・・それじゃあ・・まるでミハエルはこの森の主人だな・・・」


ライナードの言葉にオーガロードが首を傾げる。


「モリノ・・ア、アルジ・・・?ワレラノ・・アルジ・・・ワレラノアルジ!ミハエルサマ・・・ッ?!」


ドドドドドド・・・・


「おっ!来たな!意外と早かったな!」


ライナードが馬車が近付く音に振り返ると先頭を走るリベルトの合図で馬車が止まる。そしてリベルトが振り向くといつの間にかオーガ達が馬車の入口の前で正座をし手を膝に置き頭を下げていた。


「な、なな、何事だこれは?!オーガか?!そ、それも上位種だと・・・ま、まさか・・・」


「ほう。オーガロードか!珍しいわね。」


馬車の扉が開きミハエルとセイルがギョッとする。セイルは声も出せずに口をパクパクさせていた。


「な、何?!この状況は?!」


「ワレラノアルジ!ミハエルサマ!タタエヨ!!」


正座をした50体のオーガが達は驚くミハエルを他所に綺麗に地面に頭をつけてミハエルを出迎えた。


「・・・ど、どう言う事?」


ミハエルは状況を理解出来ずにどうして良いかも分からず立ち尽くすのであった・・・


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