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第166話 通行手形

カーン!カーン!カーン!


メルト村の門番担当の男が鐘を鳴らす。鐘三つはクラインド王国からの使者を伝える鐘である。


クラインド王国の紋章を刻んだ馬車が護衛を伴い西の大森林を静かに駆け抜ける。


「セイル、あの鐘の音は何だ?」


メルト村へ行くと聞きセイルの護衛を買って出たクラインド王国第一王子リベルトがセイルに話し掛ける。


「はい。あれはメルト村の者がクラインド王国の馬車を目視した合図です。」


「そうか!あの鐘は俺達を出迎える準備をする合図か!」


「はい。その通りです・・・そうでないと・・ふっ・・・」


セイルが何とも言えない複雑な表情で苦笑いをする・・・



カーン!カーン!カーン!


「おおーーい!!クラインド王国の馬車が来るぞ!!!急げぇぇ!!!」


見張り台の男が勢いよく鐘を鳴らし声を張り上げる!!


「ほらっ!!クラインド王国からのお客さんよ!早くしなさい!!」


「はーい!」


「そうだね・・この前みたいになっちゃうもんね・・・」


村の子供達が鐘の音を聞いて急いで指輪や腕輪を取り出して装備する。この指輪や腕輪は魔力と闘気を抑える物である。メルト村の大人達は力を抑える術を知っているのだが子供達は抑える事が出来ない為にマジックアイテムで抑えるのである。半年前にセイルが久しぶりにメルト村に訪れた時に馬車の馬がメルト村から溢れる魔力と闘気に当てられて倒れてしまい乗っていたセイルと護衛の騎士達もその場から動け無くなってしまったのだった。その為にこの対策が取られたのであった。


リベルト王子が馬車の窓から静かに流れ見える木々を眺める。


「それはそうとこの森に入ってから気になっていたんだが最近この西の大森林で強力な魔物が増えて交易の物流が困難になっていると聴いていたがこの二日間で野営の時も魔物の気配すら感じられなかった。不思議だとは思わないか?」


「はい。私も何度かメルト村に来ていますがが一度も魔物に遭遇した事はないのです。運が良いのか・・・それとも・・・」


セイルが目を細めて意味ありげにリベルト王子を見るとリベルト王子の口元が緩む。


「・・・ふっ。もしかしたらあの鐘か・・・」


そう・・あの鐘の音は森の精霊達も聴いているのである。ここ数年の間に爆発的に上がったメルト村の魔力と闘気が森に流れ込み魔物達がメルト村の力に慣れ始めたのだ。その為に強力な魔物や上位種の魔物が生まれていた。その中には到底普通の冒険者では太刀打ち出来ない魔物もいた。そこで森の最上級精霊エントは主と崇めるミハエルの関係者が森を通る時には上級精霊達に命じて魔物達を遠ざけるようにしていたのである。・・・しかし時には上級精霊の包囲網をすり抜ける魔物もいるのである・・・




「グガァァァァァァァァ!!!!!」


ベキベキベキベキベキッ!!


ヒヒーーン!!



突然前方の木々が騒めき大きな人影のような物が姿を現した・・・


馬が驚き急停止すると馬車のなかのセイルとリベルトが倒れまいと足を踏ん張る!


「な、なんだ?!どうした!!報告をしろぉぉぉ!!!」


「は、はい!!左前方から数十体のトロールの集団です!!それも普通ではありません!!上位種と見られます!!」


リベルト王子が叫びながら馬車の窓を覗くと絶望的状況に言葉を失った・・・


それは身長3メートルはあるトロールの集団であった。その中にはトロールジェネラルを始めトロールマジシャン、トロールファイターが多数おり、その先頭に居るのは体格も二回りも違う最上位種であるトロールキングであった。


「お、おい・・な、何なんだよあれは?!トロールの上位種オンパレードじゃないか?!セイル!ここからは護衛の仕事だ!!出てくるなよ!」


「王子!!無理は禁物です!!」


「大丈夫だ!俺だってレベル800を越えているんだ!そうそうにはやられん!行ってくる!!」



そう言うとクラインド王国第一王子リベルトが馬車から飛び出して剣を構える。


「お前ら!!気を抜くなよ!!訓練を思いだせ!!」


「「「はっ!!!!」」」


リベルトが護衛隊に檄を飛ばし身構えるとそれと同時にトロール達が一斉に襲い掛かって来た!!


「グゴォォォォォォォ!!!」


「ふん!!来やがれでくの棒共ぉぉぉぉ!!」


襲い掛かるトロールキングの棍棒を闘気が籠った剣で逆袈裟斬りで迎え討つ!しかしその時!森の木々が激しくざわつきトロールキングの全身から無数の尖った枝のような物が飛び出し動きが止まった・・・


「ぐぼぉぉぉぉぉ!!!」


「何っ?!」


そしてリベルトの勢い余った切先が動きの止まったトロールキングの手首を斬り飛ばした・・・


すぱんっ・・・・どさっ・・・


「な、なんだ?!い、一体なにが起こったんだ?!」


見れば数十体のトロールの上位種が同じように串刺しになり呻きながら立ち尽くしていた。トロール達は自らの自己治癒能力で辛うじて生きている状態であった。


「うぶぶぶ・・・・」

「あぶぶぶ・・・・」

「おごごご・・・・」


すると森の中からどこからともなく美しい声が響き渡る・・・


「私はこの森の精霊エント。この度はミハエル様のご友人に失礼致しました。後で言って聞かせますのでお許しください。」


「・・・エ、エント?!森の精霊エントか!ま、待て・・ミハエル様?ミ、ミハエル殿は一体どういう存在なんだ?!」


護衛兵達が唖然と立ち尽くす中リベルトが虚空に向かって声を上げる。


「ふふ。ミハエル様は大精霊使いサリア様と並ぶ我等精霊の主様と崇めております。ですのでミハエル様の敵は我等の敵、ミハエル様のご友人は我等の友人でございます。ですがこの度はメルト村の力が弱まり抑制から解放されたこの者達が暴れてしまったのです。・・時に・・・貴方は初めてお見かけ致しますがお強いですね。レベル2800のトロールキングの腕を斬り飛ばすとは・・・」


「あぁ。俺はクラインド王国第一王子リベルトだ!俺はミハエル殿の指導を受けて強くなったんだ。ミハエル殿は俺の師匠だ!」


(それにしても・・・ミハエル殿が精霊の主?!一体どうしたらそんな事になるんだ?)


「ふふ。やはりそうでしたか。・・・ではこの度のお詫びとして貴方達にこの森の最上級精霊エントが祝福を致しましょう。」


「・・・祝福?!」


リベルトは剣を収め辺りを見回していると突然、全身に分厚い毛布を掛けられたような感覚を覚えた。


「何だ・・・この感覚。それにこの魔力は・・今まで感じた事が無い力だ・・・凄い・・」


「・・何だか暖かい・・・」

「何かに護られているようだ・・・」

「おぉ・・これは神の御技か・・・」


護衛兵達も今までの緊張感から解き放たれ空を仰ぎ不思議な力に身を任せる者や手を組み祈る者もいた。


「これでこの世界の何処の森に入ったとしても森に住まう精霊達が手を貸してくれるでしょう。それではご機嫌よう・・・」


「ぐもぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ぐぶぅぅぅぅぅっぅぅ!!!」


ざざざぁぁぁぁぁ・・・・


エントの声が途切れると目の前で串刺しになっているトロール達が森の中へと引き摺り込まれて行った・・・・



「こ、これは・・・」


馬車の窓から様子を見ていたセイルも自分の身体の異変に気付き馬車から降りて来る。


「リベルト王子!一体何が起こっているのですか?!」


リベルトはセイルの声に振り向き頭を掻く。


「・・・よく分からんが・・世界の森への通行手形を貰ったって・・事か・・」


「えっ?!通行手形?」


セイルがキョトンとした顔で首を傾げるとリベルトが肩の力を抜いて馬車へと戻って来る。そしてすれ違いざまにセイルの肩に軽く手を置く。


「ふっ・・簡単に言うとミハエル殿が凄いという事だ!」


「えっ?どういう・・・あっ!待ってください!!」


リベルトはセイルの言葉を受け流し口元に笑みを浮かべる。


「さあ行くぞ!メルト村へ!」


「「「はっ!!」」」


護衛兵達の声が揃い再びメルト村へと向かうのであった。

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