第165話 邪神落ち
「も、申し訳ありません・・・」
漆黒の騎士二人が跪いて項垂れる。
「なんですって?!ドルゲルが封印の宝玉を使って逃げた?!・・・全く・・どこまで面倒を掛ければ済むのかしら・・・」
大暗黒神ラルフェラが漆黒の騎士の報告を受けて頭を抱えていた・・・
(でも・・転生は使えないのよ・・・どうするつもりなの・・?・・転生以外で神界から出るなら・・・あっ・・まさか・・でもそれしかない・・・だとすると・・ああっ!!!」
ラルフェラは跳ね上がるように立ち上がる!
「宝物庫よ!!宝物庫に急いで行きなさい!!ドルゲルはそこに居るわ!!急いで!!」
「「は、はっ!!」」
漆黒の騎士二人は失態を払拭するように部下を連れて部屋を出て行った。
(ドルゲル・・転移門を使うつもりね・・)
神界では元暗黒神ルビラスの一件で対策を講じていた。〈転生〉を封印して許可制とした。さらに神界にある地上への転移門にも制限を掛けた。神界から無闇に地上の世界に降りられないように神の称号を持つ者が転移門の鍵を管理する事とした。もし許可無く転移門を使えば転移門に神界の力を奪われ強制的に地上に転移されるのだ。
(暗黒神の称号を剥奪したとは言えドルゲルはまだ鍵を持っているわ。だけど神界の力を纏った物は転移門に持ち込む事は出来ない・・でも・・例外がある。封印の宝玉だけは神界の力を纏わず封印する物・・あれだけは転移門から持ち出す事が出来る・・・封印の宝玉を地上に持ち出せば地上は壊滅的被害を受けるわ・・・ドルゲルはクズだけど悪巧みに関しては頭が切れるわ・・・間に合えば良いけど・・・)
ドルゲルは宝物庫の中に滑り込むと早足で部屋の奥の壁に手を当てる。
(ふん・・・転生が使えなければ転移門を使うしかない・・・だがな・・このドルゲル様はこんな事もあろうかと準備はしてあるんだよ。)
ドルゲルが手を当てた壁が四角く凹むと目の前の壁が正方形型に消えて中から両手で抱えられる程の鍵の掛かった赤い箱が現れた。その箱に魔力を流し開くと中には真っ黒な漆黒の宝玉が光っていた・・・
「・・今の俺が転移門を使えば神界の力は奪われる・・だが封印の宝玉に暗黒神の力の一部を封印して持ち込んだらどうだ?クククッ・・俺ってやっぱり天才だな・・・備えあれば憂なしってやつだ。まぁ・・本来の力からは程遠いが地上の奴等にとっては絶望的な力だ・・・ルビラスが覚醒する前に俺が地上を蹂躙してやるぞ!」
ドルゲルは宝玉の入った箱に宝物庫に保管されている封印の宝玉を詰め込めるだけ詰め込んだ。
「・・・これでよし。ふん・・あの大暗黒神も意外と勘がいいからな・・もう勘づいているかもな・・・直ぐに出発だ!」
「報告します!中には誰も居ません!!それと封印の宝玉が無くなっています!」
漆黒の騎士達が宝物庫の前で部下の報告を聞いていた。
「何ぃぃ?!一歩遅かったか・・・ドルゲルめ・・・一体何をしようとしているんだ・・・」
ドルゲルは黄金の転移門の前に立ち懐から刀身が複雑に入り組んだデザインの黄金の短剣のような物を取り出した。
(よし・・・まだバレてないようだな・・・ふう・・・この扉を開けばもう戻っては来れない・・覚悟を決めろ・・・ふん・・例え神界で力があっても使えない力は無意味だ。力は使ってこそ意味があるんだ。見てろよ・・地上が蹂躙される様を指を咥えて見ているがいい!!)
ドルゲルが転移門の窪みに短剣型の鍵を嵌め込むと大きな黄金の扉が輝き出しカキンッと小気味良い音が辺りに響いた。しかしその時、背後から聞き慣れた声がドルゲルの鼓膜を震わす・・・
「ドルゲル!!やめなさい!!そんな事をしても何の意味もないわ!!このまま地上に降りても邪神として地上の勇者に討伐されるだけよ!あなたは知らないでしょうけど今地上には・・・」
「五月蝿い!!もうお前の説教なんか聞きたくないんだよ!!誰が何と言おうと俺は地上で好き勝手やってやるって決めたんだよ!!その力も既にここにある!じゃあな!!」
ドルゲルはラルフェラの言葉を遮ると転移門を開け放ち飛び込んで行った。そしてラルフェラは肩を落とし開け放たれた転移門を見つめていた・・・
「・・・馬鹿な事を・・ドルゲル・・あなたの力は磨けば私の後継者になり得る存在だったのに・・・最後のチャンスをみすみす捨ててしまったのよ・・・それに地上に力の一部を持ち込んだとしても・・・残念ね・・・」
ラルフェラはゆっくりと首を横に振りながら踵を返す。それと同時に転移門がゆっくりと閉まりガチャリと鍵が掛かる。まるでもう戻る事の無いドルゲルを決別するかのように・・・
深い森の空間に白く大きな穴が現れた。その中から赤い箱を抱えたドルゲルが飛び出して来た。
「うおっっとっとっ・・・うぐっ・・重っ!!」
ドルゲルは身体の重さと箱の重さに耐えられずその場に尻餅を付いた。
どさっっ!!
「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・くそっ!地上に来たのはいいが・・・やたらと身体が重いし力も出ねぇ・・・やっぱり神界の力が無くなったか・・・」
ドルゲルはそのまま新鮮な土の匂いと深緑の空気の中で大の字に倒れ込み木々で覆われた空を見上げ深呼吸をした。勢いで転移門を潜り神界の力を失った自分のこれからの行く末に想いを馳せるのであった・・・
「ふん・・・来ちまったもんは仕方がない!この地上にドルゲル様の王国でも作ってやるか!!ククッ・・さて、その前に早速箱を開けて・・・開け・・・くっ、くそっ・・あ、あれっ・・・?!」
ドルゲルは神界から持ち込んだ赤い箱の蓋を必死に開けようとするがびくともしなかった。
「何故だ!何故開かない?!俺の魔力で・・・・ん?・・・あぁぁぁ!!!し、しまったぁぁぁぁ!!!神界の力・・無くなったんだったぁぁぁぁ!!!!ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!やらかしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう・・ドルゲルは自分にしか開けれないように神界にいる時の魔力で箱の鍵を掛けていたのだった・・・
「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!はぁ、はぁ、はぁ・・・ま、待て!お、落ち着け俺!何か方法があるはずだ・・・考えろ・・考えろ・・神界の力・・神界の・・・はっ!!そうだ!イグ!!冥界蛇イグ!!あの蛇女がまだ地上にいるはず!!あいつの力を使えば・・・・よ!よし!!善は急げだ・・・くっ!よっと・・」
ドルゲルは急いで箱を必死で持ち上げ辺りを見回した・・・
暫しの沈黙・・・
「・・・・ってか・・ここどこなんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
森の木々で覆われた空を仰ぎドルゲルの行き場のない悲痛な叫び声が深緑の中にいつまでも響き渡るのであった・・・
〈世界神の部屋〉
「ゼムス様・・申し訳ありません。まさかドルゲルがあそこまでの強行に出るとは思いもしませんでした・・・」
ラルフェラが力無く深々と頭を下げる。
「ふむ・・・邪神落ちとは愚かな・・・だが仕方あるまい。それに大天使メリエルはルビラス復活の為に光の使徒を集めたのだ。恐らくドルゲルはさほど地上の運命には影響が無いのだろうな。知っての通り神の称号を持つ者は神託以外直接地上に干渉は出来ない。ここから行末を見るしかないな。」
「そうであれば良いのですが・・・ドルゲルは封印の宝玉を持ち出しております。それが気掛かりです。」
「確かにな・・・だがドルゲルの今の力では封印の宝玉を使ったとしても制御出来ずに暴走するだけだ。彼奴もそう馬鹿では無いだろう。それに地上には光の使徒が居る。いざとなったら彼らが何とかしてくれるだろう。」
「・・・はい。そう願うばかりです・・・はぁ・・私は少し疲れました・・・ゼムス様・・暫くここにお世話になってもよろしいでしょうか?」
「ふっ・・もちろんだ。共に地上の行末を見守ろうではないか。」
「ラルフェラ。君はそもそも働き過ぎだ。ここで暫く休暇を取れば良い。」
「そうね。たまにはそういう時間も必要よ!そうだ!闇属性の私の部下を何人か貸してあげるわ!」
黙って聞いていた太陽神アラフと大精霊神ユラミスがラルフェラに微笑み掛ける。
「ありがとうございます・・・それではよろしくお願いします。」
ラルフェラは肩を落とし全てを諦めたような顔で大きなテーブルに着くと頬杖付きながら地上の様子を見下ろすのであった・・・
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