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第158話 戒めの間

ドルビナ帝国帝都は魔人ドラガベルと五人の忠臣により壊滅状態であった。怒りにより解放されたドラガベルの一撃は城壁に付与された障壁をいとも簡単に破壊し帝都の街並みの大半を一瞬で瓦礫の山に変えた。立ちはだかる千を数える帝国自慢の騎士団もドラガベルの闘気を纏ったハルバートの一振りでなす術もなく千切れ飛んだ。五人の忠臣達も群がる兵士達を者ともせずに薙ぎ払い、焼き尽くし、無人の野の如く城を目指して歩を進めて行った。


「・・・よ、よもや魔族の力がこれ程とは・・・」


王宮の大きなテラスから皇帝を始め重臣達が肩を震わせながら王都の惨状を見下ろしていた。


「・・・たった六人で・・この惨状か・・・もし・・魔族が本気で攻めて来ていたのなら・・・くっ・・あの女魔族の言っていた事は本当だったのか・・・」


(我等は無駄な殺生はしたくないのじゃ。魔王軍が本気になれば人間族が多くの犠牲を払う事になる。その前に、お互い種族は違えど言葉を理解し話合えるのじゃ。争うより手を取り合い助け合い共存の道を歩もうぞ・・」


ドルビナ皇帝の頭の中に首を傾げるメルベリアの美しい笑顔と言葉が蘇る・・・


皇帝は内心では後悔と罪の意識に苛まれていた。敵である魔族であるから何をしても良いと・・・取るに足らない意地で感情的になりその場の空気に流され早まった事を・・しかし今更どうする事も出来ずに破壊されて行く帝都を見下ろす事しか出来なかった・・・


「陛下!!早く避難を!!奴等はこの城を目指しています!!」


「陛下!!地下の〈聖域〉に入れば奴等は手出しが出来ない筈です!!それに対抗策もあります!!さあ!早く!!」


重臣に促されるがドルビナ皇帝は自分が招いたこの惨事にこの場を去る事に躊躇していた。


(わ、私の失態で・・・我が民を犠牲にしてしまった・・・私はどう償ったら良いのだ・・・いっその事・・彼奴に・・・)


ドルビナ皇帝が困惑し俯いて立ち止まると重臣達が背中を押す。


「陛下!!お気持ちはお察し致します!しかしここに居ても何も変わりません!!」


「その通りですぞ!まずは奴等を止める事をお考えください!!さあ!こちらへ!」


「む、むう・・・わ、分かった・・・行こう。」


ドルビナ皇帝は後ろ髪を引かれながらも重臣等に促されるまま地下へと向かった。




「むうぅぅん!!!」


どごぉぉぉぉぉぉん!!!


ドラガベルの闘気が篭った斬撃がさっきまで皇帝等が居たテラスを跡形もなく粉砕し向こう側の景色が見える程の風穴を開けた。


「奴等は何処へ行った?!」


「はい!城に居た奴等は地下に逃げ込んだようです!・・・恐らく罠を張っていると思われます・・・」


跪く部下の1人が索敵を展開し聖属性の魔力を探知していた。


「ふん!罠が何だ!!メルベリア様の無念を思えば突き進むしか道は無い!!例えここで倒れようとも人間共に我等魔族の恐怖を刻み込むのだ!!」


「流石・・ドラガベル様!きっとそう言われると確信しておりました!我等の命!メルベリア様の為に!ドラガベル様に預けます!!我等は冥界の底までお供致します!!」


五人の忠臣がドラガベルの元に跪いた。


「お前達・・・この我を試しおって・・・ふっ・・我が忠臣達よ!お前達の命!確かに預かった!共に行くぞ!!」


「「「「「はっ!!喜んで!!」」」」」


魔人ドラガベルは忠臣達に唇を一瞬綻ばすと全力の闘気を込めた巨大なハルバートを上段に振りかぶった。ドラガベルの身体とハルバートが闘気により一体となり今にも爆発寸前の闘気をハルバートの先端に集中する!


「ぬうぅぅぅぅん!!!喰らえぇぇぇ!!」


ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!


ずずぅぅぅぅぅ・・・ん・・・ががががんっっ・・・ずずぅぅぅぅぅん・・・


ドラガベルが渾身の力で放った一撃は巨大な闘気の刃が王宮をまるでパンでも切るかのように縦に両断しその勢いそのままに大地にまで深々と切り裂いた。そして遅れてやって来た衝撃波により王宮は両断された事を思い出したかのように砂埃を撒き散らしながら崩れ去って行くのだった。




「さあ陛下!中へどうぞ!」


「う、うむ・・・」


王宮の地下に向かう階段の先にある赤く頑丈そうな扉を側近の男が鍵を開けて扉を押し開けるとドルビナ皇帝が〈聖域〉と呼ばれる部屋へと入って行く。


聖域の中は円形に広がる空間で裕に100名の収容が可能な広さがあった。対魔族用に造られた部屋で壁一面に聖属性魔法の付与がされ部屋の四箇所には魔力を循環し貯める事が出来る魔高炉が置かれていた。その為に聖域の中は空気が澄んでおり不安や恐怖の感情が和らぐのであった。


ドルビナ皇帝は用意された玉座に沈痛な思いで身体を預けると重々しく口を開いた。


「皆の者・・・この度の事・・この私の失態だ。多くの民を犠牲にしてしまった・・私はどう償えば良いのだ・・・」


皇帝の言葉に重臣や側近、護衛達が跪き言葉もなく俯いていた。すると護衛の男が部下からの報告を思い出し口を開いた。


「恐れながら陛下・・・」


「・・・何だ?」


「はい。部下からの報告によりますとあの魔族共は向かってくる者だけを相手にして女子供や非戦闘民には一切手を出していないとの事です。それに瓦礫で怪我をした子供の治療をしていたとの報告も受けております・・・」


「な、何だと?!それは本当か?!帝都の民は無事と申すのか?!」


「はい。その通りです。」


ドルビナ皇帝は安堵と共に魔族の意外な行動を思い虚空に目線を泳がせて玉座の背もたれに身を任せる・・・


どすっ・・・


(な、何という事だ・・・怒りに任せて皆殺しにするのが魔族ではないのか・・・弱者を気遣う事などあるわけ無いと思っていた・・これでは平和を思い危険を省みず単身敵地へ赴いた者を殺めた我が・・我が思う魔族ではないか・・・くっ・・・)


ドルビナ皇帝は自分を恥じた。人間として魔族にも劣る非道な振る舞いを。そしてそれを魔族から気付かされた事を。


(私は・・・あの者達と・・話さねばならぬ・・・っ?!)


ずごががががががががががっっっっ!!!


ドルビナ皇帝が決意を決めたその時!!地震と轟音と共に天井が裂けドルビナ皇帝の目の前に闘気の刃が突き立てられた!


「ぬおぉぉぉ!!な、何だ!!何が起こった?!」


部屋が揺れ瓦礫が降り注ぐ中ドルビナ皇帝は玉座に張り付いたまま動けないでいた。そして闘気の刃が消えると恐る恐る皆が天井を見上げた・・・


「なっ?!そ、空が・・・空が・・・」


「ま、まさか・・・大地を・・斬ったと言うのか・・・」


「い、いや・・違う・・ここは城の真下のはず・・・空が見える筈がない・・・」


「・・・し、城ごと・・・斬ったのか・・」


「ば、馬鹿な・・・・」


皇帝を始め皆が唖然として天井を見上げていると裂け目の先に六つの影が空を遮り迫ってくるのが見えた・・・


「まずい!!奴等が来るぞ!魔法隊!!準備をしろ!!」


護衛隊長が部下に指示を飛ばすと魔高炉へと部下達が急いで移動する。


「ま、待て!!出来るなら彼奴等と話がしたいのだ!暫し待て!」


「へ、陛下!危険でございます!!奴等にはもはや敵意しかありません!!すぐに対処しなければなりません!お許しください!!」


「陛下!!ライド殿の言う通りでございます!!あの殺気からすれば話し合いなど出来る状況ではありません!!」


「だが・・・」


ドルビナ皇帝が声を上げようとすると目の前に殺気の塊のような影が降り立った。


ずずぅぅぅぅん!!

どんっ!どどどどんっ!!


降り立ったドラガベルと部下五人は殺気を漲らせて玉座に張り付いているドルビナ皇帝を見据えた・・・


「貴様等だな・・・メルベリア様に剣を突き立てたゴミ共は・・・許さんぞ・・・メルベリア様の無念!今晴らしてくれる!!」


ドラガベルが青紫のオーラが立ち昇るハルバートを振り上げる!


「ま、待て・・・」


「問答無用ぉぉぉぉぉ!!」


ハルバートに力を込め持ち手を握りしめた瞬間・・・部屋の四隅から眩い光が放たれドラガベル達に襲いかかった!


「聖属性最上級魔法!!〈インテグネーション〉!!!」


四台の魔高炉に貯めた魔力を利用して最上級魔法を一度だけ放つ一撃必殺の切り札であった。


「むっ!!」

「まずい!!」


五人の部下達は思うより早くドラガベルを中心に護るように布陣すると闇のオーラを放出し〈インテグネーション〉の光を抑え込む!ドラガベルもオーラを全方位に放出する!!しかし闇属性の天敵である聖属性最上級魔法〈インテグネーション〉の光は絶大であった。六人の闇のオーラを打ち消しながら迫って来る!!


「くっ!ぬかったわ・・・お前達・・すまぬな・・・」


「何を言われますか!!我等の命はドラガベル様に預けたのです!!この命!今ここで使う時!!お前達!!やる事はわかっているな!!」


「おう!!」

「もちろん!」

「分かっている!」

「ドラガベル様!ご武運を!!」


部下達は闇のオーラの放出を止めると目を瞑り魔力を集中すると部下達が闇のオーラに包まれた。


「お前達!!まさか!!!くっ・・・」


ドラガベルは最後を悟りドルビナ皇帝を見据える。


「ふん!!今日は貴様等の勝ちだ!だが貴様等だけは何百年経とうが許さん!!いつの日か我が復活するその時を怯えながら生きるがいい!!」


ドラガベルは天井の裂け目から見える空を仰ぐ。


「メルベリア様・・・申し訳ありません・・いつの日か・・必ずや無念を晴らして見せます・・・」


そのまま聖なる光にドラガベル達が飲み込まれて行った・・・ドルビナ皇帝は目の前の一瞬の出来事になす術なく頭を下げるのであった。


「す、すまぬ・・・」


光が収まるとそこには大きな魔石に囲まれた空を仰ぐドラガベルの姿があった。〈インテグネーション〉により五人の部下は消滅したが自らの魔石に魔力を込めて五つの魔高炉のようにドラガベルへ魔力の循環を行っていた。ドラガベルは部下達の魔力により護られ肉体は消滅する事はなかった。しかし闇のオーラを浄化され生命活動が停止していた。


「な、何と!!〈インテグネーション〉を受けて消滅しないだと?!」


「だ、だが・・・動かないぞ・・・よし!い、今のうちにとどめをさすのだ!」


「はっ!!」


重臣達の言葉に護衛の男達が剣を抜くとドラガベルに駆け寄る!!


「止めろ!!手を出す事は許さん!!!」


ドルビナ皇帝の檄に全員の動きが止まり皆が恐る恐る皇帝陛下に振り向くと皇帝陛下は立ち上がり動かないドラガベルの前に立つ。


「この部屋を〈戒めの間〉と命名する!!この者は我等の戒めとしてこの場所に祀るのだ!!」


重臣達はドルビナ皇帝の鶴の一声で首を縦に振るしかなかった・・・

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