第150話 神鍛治士メギラス
アンリル達はサリドルの街を出て帝国領内にに入った。そして帝都まで約半日の所まで来ていた。
アンリルはメルベリアの話にペンを走らせている。
「ねえ。その〈神鍛治士〉は今でも存在しているの?」
興味深く質問するアンリルの言葉にメルベリアは心なしか寂しい顔で俯く。
「・・ふむ。メギラスはもうこの世にはおらん・・妾を剣に宿すために〈神鍛治士〉の禁呪『魂の刻印』を使ったのじゃ。」
「・・魂の刻印・・?」
「そうじゃ・・・『魂の刻印』は其方の使った〈リウエインド〉と同じ様に膨大な魔力を必要とするのじゃ。しかし『魂の刻印』はこの世界に存在するのじゃ・・・其方の言う異世界の技術ではないのじゃ・・・だから魔力切れを起こしても溜まった魔力が暴発するだけなのじゃ。じゃが・・・メギラスは長年の研究で生命力を魔力に変える〈命の輪〉を創り上げたのじゃ・・・」
メルベリアの言葉を一言一句逃さずメモを取るそしてアンリルのペンを持つ手が震えた。メルベリアの言わんとする事を理解し衝撃を受けた。それは〈神鍛治士〉メギラスの忠誠心であった。自分を犠牲にしても主人の為に命を投げ出す覚悟・・・今の世界の人間にそんな真似が出来るのかと葛藤する自分がいた。
「・・・凄いわ・・神鍛治士メギラス・・尊敬に値するわ。主の為に命を投げ出す研究・・・それを躊躇なく使う忠誠心・・・同じ研究者として敬意を払うわ・・・」
アンリルは胸に手を当ててメルベリアに頭を垂れた。するとメルベリアはアンリルの手を取る。
「・・・アンリル殿よ。素直に言おう・・・ありがとう・・我が忠臣メギラスが冥界で微笑んでいるであろう。其方とは良き友となろう。」
「そうね。私の事はアンリルで良いわ。これからよろしくね。」
アンリルとメルベリアは手を取り微笑み頷き合うのであった。
馬車の中が落ち着き皆の心が落ち着いた時、メルベリアが一番気になっていた事をアンリルに聞いた。
「ところでアンリルよ。主様の〈魔装剣〉じゃが・・あれは誰が作ったのじゃ?闘気を神力に変える鎧など〈神鍛治士〉でも簡単には作れはせんぞ?それにその他にも〈魔装剣〉には幾つも魔法付与がされているであろう?そもそも〈神鍛治士〉は武器や鎧の基本の能力の大幅な向上と付与魔法は魔力にもよるが三つが限界なのじゃ。だがしかしメギラスは例外じゃった。魔族の中でも魔力がずば抜けて高くての四つの〈魔法付与〉を可能にしたのじゃ。・・その事を考えると主様の〈魔装剣〉は規格外にも程があるのじゃ・・・」
アンリル達は同時にミハエルを思い出していた・・・メルト村に来て強さの基準がミハエルになっていた。そしてミハエルが作る道具に最初は驚くがそれに慣れてしまっている自分達がいたのだ・・・
ガイン達は苦笑いを浮かべながら肩を落とす。
「ま、まぁ・・確かにミハエルと比べたら・・なぁ・・」
「そうよね・・ミハエル君は別格と言うか・・次元が違うと言うか・・・」
「メルベリア。百聞は一見にしかずよ。直接本人に聞いたら良いわ。一緒に付いて来れば会えるから。」
「ふむ・・・何度も話に出て来た光と闇の子孫ミハエルか・・ふふ・・楽しみじゃのう。さて・・・もう見えて来たのう・・・」
メルベリアが馬車の窓から外を見るとアンリル達も窓の外を覗き息を飲んだ。高台から見下ろす帝都は近寄りがたい巨大な権力の塊の様な刺々しい城の元に皇帝を崇めるかの様に街並みが見渡す限り広がっていた。
「さすが・・・帝都・・ここから見ているだけでも圧倒されるわ・・・」
「あぁ。今から俺達はあそこの最高権力に会いに行くんだな・・・」
「ふふ。面白いじゃない。一体どんな歓迎をしてくるのかしらね?腕が鳴るわ・・・」
「アンリルよ・・程々にのう。お主等が手加減しても相手には致命傷じゃからの。さて・・魔族の妾がおっては都合が悪かろう。暫く剣に戻るとするかの。」
そう言うとメルベリアが深い紫のオーラに包まれ〈魔剣ストームブリンガー〉が専用の鞘に収まりガインの目の前に浮いていた。
「へぇー!本当に剣なんだ!面白いわね!」
「凄ーい!剣だって事忘れてました!」
「「・・・っ?!」」
(さあ!主様。妾を帯刀するだけで主様のステータスが底上げされるのじゃ!さあ・・早う・・・)
「そ、そうなのか?!どれ・・・」
ガインは恐る恐る手を伸ばし紫のオーラが立ち登る剣を掴んだ・・・
(・・んふっ・・)
ガインが〈ストームブリンガー〉を掴むと立ち昇っていた紫のオーラが腕を伝いガインの身体を包んで行く。そして身体の底から力が湧き出る感覚に拳を握った。
「お、おぉ・・・確かに凄いな・・これでは模擬刀をもっと重くしないとな。」
(うふ・・やはり主様の闘気は心地よいのじゃ・・・それに・・ただ生きるだけではなく守るべき者がおると言うのは嬉しい事じゃ・・・)
メルベリアは数百年誰とも接する事もなく只々寂しく過ごしていたのだ。そしてそこに現れた人間、魔剣士サーベルトに内心歓喜した。しかしサーベルトとその仲間達は同族の子供を攫い私利私欲の為に痛め付け売り捌いていたのだ。その姿はメルベリアが想像していた人間像そのものであった。
そしてそれを払拭するかの様に現れた強く真っ直ぐな豪剣ガインにメルベリアは心躍ったのであった。
(な、なあ・・カトプレパス。目の前で凄い事が起きていると思うのだが・・・主様達は何故あんなに平然としているのだ?ま、魔族が人間と一緒にいる事も驚いたが・・・その魔族が剣になったのだぞ?)
(う、うん。話によれば剣が魔族なんだよね・・・それに僕達の存在も・・自分で言うのも何だけど・・僕達がこんな風に人間といる事自体凄い事だと思うんだよね・・だから・・・もっとこう・・興味を持って欲しいよね・・・)
幻獣二人は存在薄く馬車の片隅で寂しく膝を抱えるのであった・・・
皆様の評価感想をお待ちしております。
よろしくお願いします。




