第149話 大いなる力の副産物
草木の香りが吹き抜け木漏れ日が子供達の瞼をくすぐる。
「ん・・・ここは・・?」
「・・・どこ?ここ?」
「・・なんか気持ち良いい・・・」
柔らかい草の上で子供達が目覚め身体を起こすと二人の綺麗な女性が目に映った。
「え・・・お、おねぇちゃん達は・・誰?」
「ここはどこ?」
「あれ?服が違う・・なんで?」
「お母さんは?・・お父さんは?」
子供達が周りを見渡し不安な声を上げる。
「ふふ。私はエント。心配ありません。あなた達は私達の森に迷い込んでしまったのです。」
「・・迷った?私達・・迷子なの?」
「そう。だから今からあなた達のお家へ送って差し上げます。」
「えっ!本当に?」
エントが優しく語りかけると子供達が顔を見合わせてコクコクと頷く。
「それではメルベス村の子達は私と行きましょう。オルベリー村の子達はそこに居るクラーケンが送ります。それと着ていた服は汚れて破れていたので新しい服に着せ替えました。それは我らの主様からの贈り物です。・・・それでは行きましょうか。」
「「「うん!!」」」
子供達はエントとクラーケンの後に付いて森の中へ吸い込まれるように消えて行くのだった。
今メルベス村の村長の屋敷で子供達の捜索の話し合いが行われていた。
施設に居た子供達はサルミド・スランバード子爵が用心棒に村を襲わせ攫って来たのであった。
「村長!!子供達を攫った山賊共の足取りは分かったのですか?!」
「・・・残念ながら未だ分からんのだ・・・あの身なりは・・もしや山賊ではないのかも知れん・・・」
「そ、そんな呑気な事を言ってる場合じゃない!!くそぉぉ!!・・マリー・・・無事でいてくれよ・・・」
「・・・うぅぅ・・・エルナ・・・今どこにいるのぉぉぉぉ!!!」
子供を攫われた親たちが頭を抱えながら肩を震わせていた。
「・・だが・・ザーク。攫われてから5日目だぞ・・もう子供達は既に・・・」
「メルゴてめぇぇ!!他人事みたいに言うんじゃねぇ!!!」
どばぁぁぁぁん!!
ザークがメルゴの胸ぐらに掴み掛かったその時、勢いよく寄り合い場の扉が開き若い男が転がり入って来た!!
「こ、こ、こ、子供達がぁぁぁ!!こ、こ、子供達がぁぁぁぁぁ!!!」
ザークが子供達と聞きメルゴの胸ぐらか手を離し男に駆け寄る!!
「おい!!アル!落ち着け!子供達がどうしたんだ!!」
「か、帰って来たんだよ!!!皆んな無事に!!マリーもエルナもレイグもミトも無事に帰って来たんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」
ザークは飛び込んで来たアルの言葉を頭の中で咀嚼すると鼓動が昂る!
「な、何ぃぃ?!ほ、本当か?!そ、それでマリーは今どこに?!」
「お父さん!!」
突然ザークの耳に聞き慣れた我が娘の声が響く・・もう会えないかも知れないと諦めかけた愛娘の声・・・ザークが込み上げる熱いものを抑えながら寄り合い場の入口に目を向けた・・・するとそこには屈託の無い笑顔で小走りで向かって来る愛娘マリーの姿があった。
ザークの頬には堪えきれない熱いものが停めど無く流れていた・・・
「マリーィィィィィ!!!!マリーィィィィィ!!!」
ザークは膝を付き愛娘マリーを深く抱きしめた。他の親達も同じく我が子を抱きしめ涙を流していた。
「良かった!!良かった!!無事で良かった!!!!心配したぞ!!!」
ザークは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔でマリーの顔に頬擦りをする。
「あうぅぅ・・お父さん!!お髭が痛いよー!!」
「お、おぉ・・・悪い・・マ、マリー・・お前大丈夫なのか?!痛い所はないか?」
ザークは頬擦りからマリーを解放すると娘の身体をペタペタと確認するように触りだす。
「お父さんくすぐったいよ!!私は大丈夫だよ!・・・でもごめんなさい・・森で遊んでたら迷子になっちゃって・・・」
他の親達とザークは眉を顰める・・
「マ、マリー・・・一体何を・・・それに・・その服は・・」
ザークは目の前で自分の娘が山賊に攫われるのを見ていた。それは娘のマリーも知っているはずであった・・・するとその場の大人達の頭の中に美しい声が響いた・・・
(・・・皆様。初めまして私はエントと言います。今、貴方達の頭の中に語りかけています。そのままお聞きください。)
「な、なんだこの声は・・・」
「ふ、不思議だ・・・頭の中に声が・・」
(・・・貴方達の子供達は確かに攫われました。そこで子供達は語るのも辛い程の暴力を受けていたのです。その光景を目にした我が主様達が子供達の将来を痛みました。そして奇跡の魔法で子供達が攫われた日までの記憶を消し身体も元通りにしたのです。ですから子供達に攫われた時の記憶はありません。)
(な、なんだって?!じゃあ、あんたは誰が攫ったか知っているのか?!)
(えぇ・・知っています。・・ですがそれを知ってもその者達はもうこの世に存在しません・・・首謀者も王国で処分を受ける事でしょう。ちなみに子供達の服は主様達からの贈り物です。)
(そ、そうか・・・だがエント殿・・・俺達はあんたの主の・・子供達を助けてくれた恩人の名前を知りたい。どこに行ったら会えるんだ?俺達の宝である子供達を護ってくれた恩人に直接礼をしたいんだ!)
(そうだ!この村に招待して宴を開こう!恩人様を讃えるんだ!!)
(そうよ!直接会ってお礼をしたいわ!)
(そうですか・・・いいでしょう。子供達の為に奇跡の魔法を放ったのは・・・我が主〈神精霊使い〉サリア様のご友人〈大賢者〉アンリル様です。しかし・・・もう二度とこんな奇跡は起こらないと胸に刻みなさい。大切な者は命懸けで護りなさい。主様達は・・他人の子供達の為に命を懸けたのですから・・・。貴方達の要望は主様達に伝えます。主様達は忙しい身なのです。追って連絡を待ちなさい。)
すると村人の頭の中からエントの気配が消えた。
「あぁ・・もちろんだ。もう絶対に離さないぞ・・・」
ザークはエントの言葉を噛み締め愛娘マリーを抱きしめるのだった。
そして村長が目を見開き立ち上がる!
「皆!聞いてくれ!今の御仁はエントと名乗った。となれば・・・森の精霊エント様に間違いない!そしてエント様を使わせてくださった神精霊使いサリア様と大賢者アンリル様を祀るのだ!!すぐに祭壇の用意をしろ!!急げ!!」
「「「「おう!!!」」」」
村人達が勢いよく立ち上がり寄り合い場を出て行くのだった。
エントはクラーケンと合流し大きな木の枝に腰かけ村の様子を眺めていた。
「・・・本当にアンリル様は無茶をしますね。危なく主様まで危険に晒してしまいました・・・。」
「エント・・・それが主様達なのです。弱き者に手を差し伸べる慈悲の心を持っているのです・・・そこに理由は無いのです。」
「えぇ。そうですね・・・分かっています。」
言われずともエントは分かっていた・・・アンリルに限らず光の使徒達の力有る者の理想的な姿を・・・エントはそんな主に使える事を誇らしく思うのであった。」
「時にクラーケン。あの子達の魔力・・気付きましたか?」
「・・はい。やはりエントも気付きましたか。あれは・・・神力に近い魔力ですね。」
「えぇ・・・恐らく魔力形成前の幼い身体に主様達と私達の凝縮した神力を受け続けた事で魔力形成に神力が混ざったのでしょう・・」
「・・・異世界魔法で強大な神力を受け続けた子供達・・・大いなる力の副産物ですね。ですが・・・その力を主様達のように真っ直ぐ使ってくれれば良いのですが・・・」
「ふっ・・・それはあの子達次第です。歪んだ者には歪んだ末路が待っているのです。それに気付いた時にはもう遅い。あの子達がどう生きるかは私達の知るところではありません。」
「そうでした。考え過ぎですね。私も少し主様達に影響されてますね・・・」
そして最上級精霊エントとクラーケンは肩をすくめながら森へ消えて行った。
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