第147話 解決
「遅い・・・何かあったか・・いや、まさかな・・あの人数と魔剣士がいれば・・・」
サルミド・スランバート子爵は地下室で用心棒達を待ちながら紅茶を傾けていた。
この地下室は緊急用に避難通路の入口がある。スランバート子爵はもしもの為にこの地下室に留まっていたのだ。
ガチャ・・ガチャ・・
「んっ!やっと戻って来たか・・・」
鍵が掛かった地下室の扉のノブを回す音を聞きスランバート子爵がカップを置くと階段を登って行く。
「ふん!遅かったな!合言葉を言え!!」
「・・・・」
「ん?どうした・・・」
スヒュン・・・
ゴゴンッ!ガラン・・ガラガラ・・・
「っ?!」
「合言葉は・・・”お前をぶっ飛ばす”だ!」
スランバート子爵が扉に近付こうとした瞬間、分厚い扉が四等分に崩れ去る。そしてそこには地下室に差し込む光を遮り仁王立ちで佇む豪剣ガインの姿があった。
「なっ?!き、貴様は!!豪剣ガインか!!ま、まさか・・・あいつ等が全員やられたのか・・・」
スランバート子爵はガインが近付く分だけ階段をゆっくり後退って行く。
「ふう・・やっと会えたな。貴様はスレイド国王の前に引き摺り出して罰を受けてもらうぞ!大人しくした方が身の為だが・・どうする?」
「な、何の事だ・・わ、私は知らん!何も知らんぞ!!こ、今回の事は全てメギルが独断でした事だ!!私は知らん!!」
スランバート子爵は震えながらも立ち止まって胸を張る。しかし明らかに嘘と誤魔化しと分かる言動であった。ガインは予想通りの答えに頭を掻く。
「あーー。メギルって俺達を付け狙ってた小物か!あんな奴とっくにシメたぞ!ふん!!そんな事もうどうだっていいんだよ!俺が来たのはな・・貴様達が攫って来た子供達の事で来たんだ!!」
スランバート子爵の背中に寒気が走る。
「な、な、何の事だ・・・し、知らんぞ!私は何も知らんぞ・・・」
「ほほう。知らん事ばかりだな?だがな。もう子供達が監禁されている施設で俺の仲間が暴れているだろうな!そこにはお前の悪事の証拠もあるんだろう?もう言い逃れは出来んぞ!」
(なっ?!まずいぞ・・な、何故そこまで知っている・・だ、誰が手引きしたな・・・チッ・・メギルか・・・使えん奴だ・・)
「ガ、ガイン殿!ち、違うのだ!!あ、あれは保護だ!!そう!保護しているんだ!!」
「あ゛っ?!」
目の前で必死に嘘偽りを垂れ流すスランバート子爵にガインのこめかみに青筋が浮かぶ。ガインは一瞬でスランバート子爵の胸ぐらを掴むと階段の手摺りの外に出した!
「ひ、ひぃ!!」
「保護だぁ?!貴様ぁぁぁ・・・子供達を憂さ晴らしの道具にするのが保護かぁぁぁぁぁ!!いいだろう。国王の前に引き摺り出す前に・・俺も貴様を保護してやろう・・・」
「や、やめろ!!は、放せ!!ふ、不敬だぞ!!」
「あぁ・・放してやる。・・ほら!」
「あっ!・・あぁぁぁぁぁ!!!!」
ガインが手を放すと階段の手すりの外に出されていたスランバート子爵が落ちて行く・・
どかしゃぁぁぁぁん!!!
「あぐあっ!!!」
スランバート子爵はテーブルや椅子を巻き込み床に激しく叩きつけられた!!
「くっ・・痛っ・・・く、くそっ・・ぼ、冒険者風情が・・・ちょ、調子に乗るなよ・・・き、貴族を怒らせたらどうなるか教えてやるぞ・・・」
スランバート子爵は腰を押さえながらよろよろと立ち上がると部屋の奥にある扉に向かった。
(そ、それにはこんな所で捕まる訳にはいかん!)
ガインは部屋の奥に消えるスランバート子爵を急ぐ事なく階段を一段一段降りて行く。
(ふん。避難通路でもあるんだろうが・・無駄だ・・・)
「はん!!何を余裕ぶってるんだ?!この扉は特別製だ!!お前の剣でも斬れんぞ!!お前とはここでおさらばだ!!お前等は貴族の屋敷を襲撃した罪人だ!!クククッ残念だったな!不敬罪でお前等は処刑されるんだ!!覚悟しておけよ!!」
スランバート子爵は捨て台詞をドヤ顔で吐き避難通路の扉を開き勢いよく扉を潜った。
ぽいん・・・
「わぶっ!!」
勢いよく進んだスランバート子爵は訳も分からず柔らかい何かに行手を阻まれた・・・
「な、何ぶぁ?!」
スランバート子爵は落ち着いてよく見ると、汚物を見る様な目で見下ろす真紅の髪の美しい女性の胸に自らの顔面を収めている事に気付いた・・・
「・・・き、貴様どさくさに紛れて何をしておる・・我が胸を好きにして良いのは主様だけじゃ・・・穢らわしい!!この変態が!!」
ずどおぉぉ!!
メルベリアの魔力の籠った膝がスランバート子爵の息子に直撃する!!
グチュ・・・
「ごぶうぇぇぇぇぇ!!!」
(あぁ・・あれは完全に・・逝ったな・・)
蹲るスランバート子爵を見ながらガインは男として同情する様に股間に手を添えるのであった・・・するといつの間にかメルベリアが艶かしい表情でガインの首に腕を回していた・・・
「主様ぁん・・穢らわしい男に妾の胸が穢されたのじゃぁん・・だ・か・ら・良いであろう・・・?」
メルベリアは答えを聞く前にガインの顔を自分の胸に埋めて抱きしめる!!
「うぶっ!!ま、まて・・こ、こんな所を・・・もし・・・」
ガインのその予想は悲しきかな・・・的中する。
「・・・ガイン・・あんたはこの薄暗い地下室で一体何をしているの・・・?」
見れば地下室の入口に立つアンリルとサリアのジト目と目が合うガインであった・・・
「ち、違うんだぁぁぁぁ!!!!」
スランバート子爵を他所に地下室にガインの叫びが木霊するのだった・・・
ガタンッ!!
地下室のテーブルで情報交換をしながらお茶をしていたアンリルが立ち上がる!
「な、何ですってぇぇぇ!!!魔剣ストームブリンガー?!あ、あの初代魔王シュライド・ゼラムの剣・・・初代スレイド国王にして勇者アルバート・スレイドが禁呪を使い命と引き換えに封印した魔剣・・・それがまさか・・・目の前にいるの・・・?」
「ふむ・・妾は魔王シュライド・ゼラムの一人娘なのじゃ。そして妾は約600年前の勇者との戦いで命を落としたのじゃ。父が妾の亡骸の前で悲しみに耽っていた時に魔王城奥深くで修行していた神鍛治士メギラスが進言したのじゃ・・・神鍛治士には武器に魂を宿す神技があると・・・」
アンリルはメルベリアの話を読み漁った文献と照らし合わせながら口をポカンと開けて聞いていた。
「あ、あんたが・・魔王シュライドの娘?!神鍛治士?!武器に魂を?!・・・面白いわ・・あんた面白いわ!!さあ!詳しく話を聞こうかしら・・・」
アンリルは椅子に座り直すとアイテムボックスからメモ帳を取り出した。
「おい!待て!アンリル!俺達は急いでいるんだぞ!!そんな事している場合じゃないぞ!!」
「そうですよ!アンリルさん!急がないと!」
ガインとサリアが立ち上がるとアンリルが渋い顔でメモ帳に目を落とす・・
「あうぅぅ・・・そ、そうだったわね・・わ、分かったわよ・・・でもこれだけは聞かせて。メルベリア・・あんたは私達人間に恨みは無いの?」
「ふむ・・・無いと言えば嘘になるのう・・。
しかし・・600年前は人も魔族も歪みあっていたからのう・・お互い様という事じゃ。
それに人間にも主様やお主等の様な人間もおる事が分かった。だから安心せい。人間を意味なく殺生する事はないのじゃ・・・」
メルベリアはガインの顔を見つめながら微笑んだ。アンリルはそのメルベリアの表情を見て肩の力を抜く。
「そう・・・ならあんたも私達の仲間って事でよろしく頼むわ!それじゃあ、さっさとこのクズを国王陛下に突き出し行くわよ!」
ロープでぐるぐる巻きにされる股間を濡らしたスランバート子爵を見下ろした。
「ふ、ふん!き、貴様等の言う事など・・信じる者などおらんぞ!!」
「それはどうかしらね?子供達が囚われていた施設にあんたの名前が書かれた書類がどっさり出て来たわよ?ほら!」
アンリルがアイテムボックスを手を入れると紙の束を片手で持てるだけ取り出す。スランバート子爵はアンリルの取り出した書類を見て驚愕し目を見開く!
「げっ?!そ、それは・・・お、おい!!や、やめろ!か、金か?!金なら貴様等が一生遊んで暮らせるだけの金をやるぞ!!どうだ!!悪くない話だろう?!」
すスランバート子爵がドヤ顔でアンリル達の顔を見回す。しかし誰一人としてその提案に頷く者はいなかった・・・・
そしてアンリルはスランバート子爵のドヤ顔を踏み躙るように悪い顔になる。
「ぷぷっ・・クズの典型的の発言ね・・・あんたは何か勘違いしているわ。私達はこの屋敷にある隠し部屋はもう分かっているのよ?そこにあんたが溜め込んだ物があるんでしょう?それを今から根こそぎ頂いてから言い訳が出来ない証拠と一緒にスレイド国王陛下の前にあんたを引き摺り出すのよ!つまり・・あんたは全てを失った後で国王からの地位も信頼も無くして罪に囚われるのよ?!分かっているのかしら?」
「くっ?!き、貴様ぁぁぁ!!!!この下民がぁぁぁ!!貴族のが困っていたら助けるのが下民の義務だろう!!!そんな事許さんぞぉぉぉぉぉ!!!」
「うるさい!そんな台詞聞き飽きたわ!!問答無用よ!!」
ごりぃっ!!
「ぐあっ!!な、何を?!」
アンリルがスランバート子爵の顔面を踏み躙る。
「さあ!!先を急ぐわよ!」
アンリル達はフェニックスの背中に乗り王都まで飛んだ。スランバート子爵は証拠の書類と共に王都警備隊に引き渡された後に爵位剥奪の上、離れ小島での強制労働に処されたの
だった。
「こ、ここは・・・くっ!な、何だこの匂いは・・・」
スランバートが眉間に皺を寄せていると案内人がスランバートの背中に蹴りを入れる!
どかぁ!!
「ぐはぁっ!!」
どしゃぁ・・・
「ふん!!降りろ!!今日からここがお前の住む所だ!!しっかりと自分の罪と向き合え!!これは陛下からの慈悲だ!!」
「くっ!」
案内人が小さな小袋を投げるとスランバートの頭に当たる。
「くそっ!!こ、こんな事してただで済むと思うなよぉぉぉ!!」
「ふん!まだまだ反省が足りないようだな。まぁ、その威勢がいつまで続くかなぁ?」
案内人は喚くスランバートを横目に息を大きく吸って声を上げる。
「集まれぇぇぇ!!」
すると案内人の声に100人程の厳つい男達が農工具を片手にゾロゾロと集まって来た。
「ひ、ひぃ!!」
「よし!貴様等に紹介する!今日から貴様等のお友達になるサルミド・スランバートだ!ここのルールを手取り足取り腰取り教えてやってくれ!分かったな?!」
「「「うーーーすっ!!」」」
「よし!以上だ!!・・・それでは仲良くな・・ククッ。」
「い、嫌だ!!」
スランバートは思わず案内人の足にしがみつく!
「ま、待って!!た、頼む!!置いて行くなぁぁ!!わ、悪かった!!は、反省する!!反省するからぁぁぁぁ!!」
「往生際が悪いぞ!お前等!連れて行け!」
「「「うーーーす!!」」」
「おい!諦めな!今日から仲良くしようぜ!ちゃんと優しくしてやるからよ?ククッ・・」
「や、やめろぉぉぉ!!放せぇぇぇ!!」
そして厳つい男達が叫ぶスランバートを案内人から引き離すと小脇に抱える。
「おおっと!大事な食料を忘れてるぞ!!」
案内人は落ちている小袋を拾ってスランバートに握らせる。
「それは芋の種だ。それを自分の糞尿で育てるんだ。それがお前の食料になるんだ。大事にしろよ。・・・まあ、頑張れ。」
「嫌だぁぁぁぁ!!!放せぇぇぇ!!置いてかないでぇぇぇぇ!!!」
サルミド・スランバートは男達に尻を弄られながら岸を離れる案内人の背中に手を伸ばすのだった・・・
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