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第142話 神界獣

森に踏み入った冥界蛇イグは予想を遥かに凌ぐ雰囲気に驚きを隠せず興味深く辺りを見渡した。


・・・なんなの・・この森は・・神力が溢れている・・・一体この森の奥には何があるの・・・


神界では最強と謳われた自負のあるイグはこの世界を取るに足らないものだと思っていた。しかしその世界に降り立ちその考えは一瞬で覆された。神力が溢れる森、そして森の奥から溢れ出る神力の源の存在に冥界蛇イグは警戒すると共に好奇心が溢れるのであった。



森が大きく騒めく・・・明らかにこの世界の者ではない途轍もない存在が森に踏み入ったのを感じて精霊達が騒いでいるのだ。


「これは・・神力・・主様達以外に使える者が・・・一体何者でしょうか・・・」


エントが気配の方向に目を向けて森に溶け込こむ。


「むう・・この気配・・悪意はないものの捨て置けんな・・・」


ベヒモスが気配の元に向かうべく大地に消える。


「この膨大な魔力・・嫌な感じはしないけど・・・危険だわ。」


クラーケンが水面を歩きながら森の中へ消えて行った。




(うん?・・・やっぱり・・この気配は・・・)


ミハエルが朝ごはんを食べる手を止めて気配のする方に目を向けて首を傾げる。


「ミハエル君どうしたんだい?」


ライナードが声をかけながらソーセージを口に運ぶ。カリンも不思議そうな顔でコップをテーブルに置いた。


「・・・うん。今、大きな力を持った何かが真っ直ぐメルト村に向かって来ているんだ・・・今は悪意はないから良いけど・・・確かめに行く必要があると思う・・・」


ミハエルの真剣な面持ちにライナードの表情が引き締まる。


「・・ミハエル君が警戒する程なんだね・・・もしかしてガインさん達に付いて行かなかった理由って・・・」


「うん・・確信は無かったんだけど・・・何か大きな力を感じたんだよね・・・だからサリアさんが手を上げなくても僕はサリアさんに行ってもらうつもりだったんだよ。」


ミハエルは頷くと少し笑いながら頭を掻く。カリンが椅子の背もたれに身体を預ける。


「はぁ・・ミハエル君はなんでも分かっちゃうのね・・・だけど・・悪意は無くてわざわざ向かって来るって事は・・・ただの冒険者か、ミハエル君に興味を持った何者かって事かな?」


「うん・・だけど冒険者とは違うと思う。とにかく行ってみよう。」


「そうだね。行こう!」

「うん。行ってみましょう。」


何か悪い前兆でなければいいけど・・・



イグが溢れる神力をそのままに森の中を進むと森の精霊達が騒ぎ出す・・・


(ふむ・・この騒きは精霊ね・・・しかしこの森の精霊は下級精霊と言えども侮れないわね・・・むっ?!・・・何か来る?!)


イグが強力な魔力を感じて警戒態勢を取り立ち止まる。


(こ、この魔力・・ち、違う・・これは神力・・・ま、まさか精霊が神力を?・・むんっ!・・そこか・・)


目の前の神力が溢れる大木を凝視すると大木の中からすり抜けるように森の精霊エントが姿を現す。


(な、何んなの・・これは・・上級精霊の力を遥かに超えている?!ま、まさか・・・な、何故・・こんな地上に最上級精霊がいるの?!この森は一体・・・)


イグはエントを見て驚愕する。それもそのはずイグは神界でしか最上級精霊を見た事がなかったのだ。こんなとるにたらない世界に最上級精霊が居るのが信じられなかった。


イグの声が震える・・


「あ、貴女程の者が・・・何故こんな所にいるの?!本来なら神界にいてもおかしくないのに・・・」


するとエントはイグの賛美の言葉に微笑み一礼する。


「お褒めの言葉ありがとうございます。それはさて置き、今の言葉からすると貴女は神界から来た”神界獣”ですね?」


エントの迫力にイグの背中に寒気が走る。


「そ、そうよ・・ある者の依頼で地上の調査をしているの。貴女と事を構える気は無い・・・んむっ?!」


イグが気付くともう2つの神力の塊が現れた・・・


「そうか・・それならば問題はあるまい・・・気が済むまで存分に調査するがいい・・・この世界最強の森を・・・」


ベヒモスがイグの背後に現れる。


(なっ?!こ、この私がこの距離まで気付か無かった?!)


「やっぱりね・・・貴女には悪意は無かった・・・だけど・・貴女には少し事情があるみたいね。」


クラーケンがイグの数メートル前に現れた。


イグは目を見開き冷静さを保っている余裕も無くなった・・・


「ま、待って!待って待って待ってぇぇぇ!!最上級精霊が3人?!神級に近いとも謳われた精霊が3人も?!貴方達は一体・・こんな森で・・こんな世界で何をしている?!何故?!何故?!」


驚愕して冷静さを失うイグにエントが優しく声を掛ける。


「落ち着いてください。私は森の精霊エントと申します。貴女の名前を教えて頂けますか?」


「・・・イ、イグよ。神界では”冥界蛇イグ”と呼ばれている・・・」


エントは笑みを浮かべて微笑む。


「そうですか・・イグ様。私達は主様のためにこの森と村を見守っているのです。特に難しい理由はありません。それが私達の意思なのです。」


エントの言葉に息を詰まらせる。


「なっ?!あ、主様?!ま、待て?!あ、貴方達を行使している者が居ると言うの?!神級に近いと言われる貴方等を束ねる者が居ると?!」


エントは予想していた質問に満足気な表情を浮かべてイグを見る。


「その通りです。私達の主様達は私達の力等遥かに凌駕しております。私達は主様の為に森と村を守る事が使命なのです。それ以上それ以下でもないのです。」


「うむ。」

「えぇ。」


なんだか嬉しそうに話すエントに同調するかのように2人もが頷く。

するとイグはエントの言葉に引っ掛かり眉間に皺を寄せる。


「あ、主様・・達?!まさか、こ、ここには・・お前達を行使出来る者が何人も居ると言うの?!」


エントは当然のように頷く。


「えぇ。いらっしゃいます。私達の直属の主様と尊敬と敬意の元に敬愛する主様です。・・・ふふ・・どうやら主様も貴女の事が気になったようですね・・・」


エントが微笑みながら跪く。


「なっ?!な、何・・・を・・・」


イグは突然跪くエントを訳も分からず見ていた。するとまるで何かを迎え入れるかのように森の騒めきが止むと、全身を強大な神力に包まれイグの全身に鳥肌が立った。


「な、な、な、何?!こ、この馬鹿げた神力は・・・な、何なの?!」


エントの隣にいつの間にかベヒモスとクラーケンが並び道を開けるように跪いた。そして

森の奥からミハエルが軽く手を上げながら笑顔で現れた。


「やあ!皆んなおはよう!」


「「「おはようございます。主様。」」」


最上級精霊達の声が揃いミハエルに声をかけられ嬉しそうに頭を下げて挨拶をする。しかしイグはミハエルの圧倒的な存在感に声も出せず身動きも出来なかった。



あ、あ、あの暗黒神ドルゲルが懸念していた地上の異変て言うのは・・・こ、この事だったのね・・・あの神獣八岐大蛇が地上で倒されたのは・・・ほ、本当だった・・・それに多分本当の力はこんなものじゃないはず・・何か意図的に力を抑えているように感じるわ・・・それに・・後ろの2人も相当の使い手ね・・何か別格の加護を感じる・・・でも何故・・・



イグが瞬きも忘れて固まっているといつの間にか目の前でミハエルがイグを見上げて首を傾げる。


「おはようございます。ここに何か用ですか?」


「へっ?」


突然声を掛けられ何気なく下を向くとミハエルと目が合ってしまう・・・


「ひいっ!!ひゃうわぁぁぁぁ!!」


イグはいきなり自分が神力の本流に飲み込まれたような感覚にびっくりして飛び退き身構えてしまった。


「な、なに?!何を?!」


すると3人の最上級精霊達の顔色が変わりエントの声に怒りが滲む・・


「イグ・・・様・・主様が挨拶をされているのに・・・その態度はどういうつもりですか・・・?」


「えっ?!・・あ・・うぅ・・お、おはよう・・・ございます・・・」


イグはエント達の膨れ上がる神力を感じて慌てて頭を下げる。

カリンはその姿を見て小声でライナードに話し掛ける。


(ね、ねえ・・・あの人の魔力って・・神力よね?)


(あぁ・・そうだね・・本来なら地上の人間ではどうする事も出来ない存在だったんだろうね・・・)


(うん・・・可哀想に・・・いきなり会ったのがミハエル君だなんて・・・)


(そうだね・・・ミハエル君だからね・・)


イグは神界の森最強の冥界蛇と呼ばれていたがそれがミハエルの前ではなんだか恥ずかしく思えた。そしてイグは神界獣という名のただの着物姿の女性のようにぎこちなくミハエルに笑顔で答えるのであった・・・

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