第139話 召喚士
ナルミはアンリルの両手に魔力が集中するのを逸早く察知する!
(い、いきなりかよ!!や、やばっ!!)
「ふふっ!良い反応ね!行くわよぉぉぉ!!〈アイスストーム〉!!!」
「くっ!!こ、殺す気か?!・・い、出よ〈サラマンダー〉!!!」
アンリルが放った極太の氷点下の竜巻がナルミ達に迫る!そして対抗するように巨大な炎の渦が現れドラゴンと思える程の巨大なトカゲが這い出すと氷点下の竜巻に獄炎のブレスで対抗する!!
(へー!これが召喚士の力なのね!)
ぶおぉぉぉぉぉぉ!!!!
目の前で氷点下の竜巻と獄炎のブレスが激突し、その衝撃で辺りに衝撃波とも思える水蒸気が猛威を振るう!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
「熱ぢぃぃぃぃぃ!!!し、死ぬぅぅ・・」
「な、何だぁぁぁぁ!!この戦いはぁぁぁ・・・」
男達は水蒸気の嵐に巻き上げられ叫びながら高い塀を飛び越え建物の敷地へと飛ばされて行った・・・アンリルとナルミは魔力障壁を展開しその場に留まるのであった。
(主様・・・大丈夫でしたか?相変わらず無茶な方ですね・・・)
(うん・・・私は貴方のお陰で大丈夫よ。ありがとう・・ジン。でも・・ここからが正念場よ・・アンリルさんを止める為にね・・・)
(は、はい・・・あ、主様の命ならばこの命掛けても止めて見せます!!)
(あ・・・でもね無理はしないでね。アンリルさんは魔力だけならミハエル君に迫る勢いだからね・・・)
サリアは覚悟を決めて指輪を一つ外した。
(は・・・はい・・・ま、まさか敵ではなく味方が脅威とは・・・)
流石のジンも声が震えていた。ジンもアンリルの魔力の脅威は知っていた。自分だけではどうにもならないと分かっているのだ。自分が主と決めたミハエルに迫る程の魔力の持ち主アンリル。もしアンリルが指輪を全て外して全力で魔法を放てばそれが例え初級魔法であっても国一つが余裕で消し飛ぶ威力である事を知っているのであった・・・
(・・・ア、アンリル殿も少しはミハエル様の落ち着きを学ばれれば良いのだが・・・)
ジンは心の声を放ちながら念の為に仲間達に念話を送るのであった。
ナルミは肩で息をしながらアンリルを睨み付ける!
「はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、あんた何なんだよ!!突然っ!!!!いきなり殺す気なの?!頭おかしいんじゃないの?!話し合いとか考えないの?!意味分かんないし!!!」
ナルミは死ぬ思いをした苛々を勢いに任せて言い放った!!しかしアンリルは自分の信念の元にナルミを見下す!!
「はんっ!自分達が何をしているか分かっているんでしょう?それを止めて子供達を解放しろと言って素直に従うの?無理でしょう?なら話し合う時間は無駄よ!!それなら問答無用であんた達をぶっ飛ばして、子供達を助けて、馬鹿な領主を国王に突き出す!!これが最善最短の方法じゃないの?!違う?!」
「うっ・・そ、それは・・」
ナルミは余りの正論に言葉が出なかった。地下牢に閉じ込めた子供達。毎日粗末な生活を強いていた。満足な食事も与てない。毎日不自由な生活を強いていた。それは分かっていた。でもそれは自分ではないと開き直っていたのだ。只々面倒臭い仕事だと思ってやっていたのだった。しかしナルミはアンリルの言葉に納得出来なかった。
「だ、だって仕方ないじゃないか!!それが僕の仕事なんだからぁぁ!!それで給料をもらってるんだから!!言われた事をして何が悪いんだぁぁぁ!!」
今度はナルミがなりふり構わず魔力を集中して先制を取る!!
「はぁ・・まるで子供の言い訳ね・・」
「うるさい!!行けぇ!!サラマンダー!!!奴らに僕の力を見せてやるんだぁぁぁぁ!!!」
「ぐるるぅぅ・・・」
しかしサラマンダーはその場から動く事はなくゆっくりとその巨大な身体を地面に伏せるのだった。
「・・・ん?・・あ、あれ?サ、サラマンダー!!どうした?!僕の言う事を聞けぇ!!」
しかし・・・召喚されたサラマンダーはナルミの言葉に従う事はなくまるで何かに怯えるように地面に伏せていた。
アンリルは身構えながらその様子を見ているとサラマンダーの目線が自分の背後に向いている事に気付いた・・・
「・・あっ・・・そう言う事か・・・!幻獣と言ってもサラマンダーは・・・精霊だわ・・・ご愁傷様・・」
アンリルが声を上げると同時にサリアが前に出でた。そしてサラマンダーの鼻先にしゃがんでサラマンダーに手をかざした。
「ふふ・・良いのよ。あなたは呼び出されただけなんだから・・・さあ、ここは危ないからお帰り。」
「ぶるぅぅぅ・・・」
サラマンダーは神精霊使いのサリアの許しを受け安心したような顔で炎の渦の中へ帰って行くのであった。
ナルミは自分が召喚したサラマンダーが自分の言う事を聞かずに勝手に帰って行くのを呆然と見ていた・・・
「な、な、なんでだよ・・・ぼ、僕が召喚したんだぞ・・・くそっ!役立たずなやつだ!!・・・それにしても・・ど、どうして・・・お、おいっ!!お前!!何をしたんだぁぁ!!」
「・・役立たず?!」
サリアはゆっくりと立ち上がり手をパンパンと払うとナルミを見据える。
「んふふふ・・どうしてしょうねぇ・・幻獣さん達への愛が足りないようね?召喚士さん?」
「な、なんで・・それを・・・ま、まさか・・お、お前も召喚士か?!・・・お前みたいなちんちくりんの何も取り柄が無さそうな子供が?!ぼ、僕の憧れの職業に?!そんな・・・そんな馬鹿なぁぁぁぁ!!!」
ピシッ・・・
「んっ?!」
その時ナルミは自分の身体を何かが通って行った感覚がした・・・そしてどこからともなく怒りと魔力の籠った重低音の声が響いた・・
「おい貴様・・・今、我が主を侮辱したな・・許さんぞ・・・」
「な、何だよ!!何なんだよ!!誰なんだよ・・・あ、あれ・・・」
ナルミは自分の身体に違和感を覚えた。何故か右腕の感覚が無いのだ・・・恐る恐る自分の右腕を見ると肩から腕がズレてゆっくり落ちて行った・・・
「うわぁぁぁぁぁ!!!ぼ、僕の腕ぇぇぇ!!うぎゃぁぁぁぁ!!痛いぃぃぃ!!!」
ナルミは腕が無くなったショックと激痛にのたうち回る!!
「ふん!我が主様とお前のような召喚士ごときと一緒にするな!・・・先程の言葉を取り消さなければ次は脚を斬り飛ばすぞ!」
怒りを露わにしたジンが虚空に浮かび魔力を垂れ流していた。
「あーー!!ジン!私がやるって言ったじゃ無い!!」
ジンはのたうち回っているナルミを見据えながら口を開いた。
「アンリル殿・・・この男の処分・・譲って頂きたい。主を侮辱され黙っている訳にはいかないのです。」
ジンの怒りにアンリルが気圧され肩を落とす。
「・・・あっそう・・仕方ないわね・・だけど殺しちゃ駄目よ!お仕置きだけよ?」
「アンリル殿。ありがとうございます。」
そう言うとジンはナルミを見下ろす。
「くそぉぉぉぉ!!!やったなぁぁぁ!!こっちも本気で行くぞ!!来い!!〈フェニックス〉!!僕を治せぇぇぇ!!!」
なりふり構わずナルミが叫ぶと虚空に巨大な炎の塊が現れる!!そして炎の塊が左右に孔雀のような炎の翼を広げる!
ピィィィィィィィィィィ!!!!!
幻獣フェニックスが大きく翼を広げ声を上げると翼から放たれた炎の本流がナルミの腕と肩に集まり斬り飛ばされた右腕が元通りに治っていた。
「ふ、ふん!どうだぁぁ!!僕の切り札!不死身の幻獣フェニックスだぁぁ!!これで僕に負けは無いぞ!!覚悟しろよ!」
(チッ!まさかフェニックスを召喚する羽目になるとはね・・・魔力の消費が半端ない・・早く片を付けないと・・・)
ナルミは舞い降りた幻獣フェニックスの後ろに隠れながらひょっこり顔を出す。
「うはぁ!!凄い!!!あれがフェニックスかぁ・・・初めて見たわ!!文献でも伝説の魔物としか書いてなかったのに実際にこの目で見れるとはね!」
「ふぇぇ・・綺麗な鳥さんだねぇ!これが幻獣かぁ・・・流石にこの子は純粋な幻獣みたいね。」
アンリルとサリアは幻獣フェニックスを見上げて見惚れていた。
「ふふん!凄いだろう?!だけどこれで終わりだよ!!行けぇぇぇ!!フェニックス!!」
ピキィィィィィィィ!!!!
ナルミの呼びかけにフェニックスが大きく翼を広げ一気に翼をはためかせると無数の羽根を模った炎がアンリル達に襲いかかった!!
「サリアちゃん!来るわよ!!」
「ええ!!」
「お任せを!!」
アンリルとサリアが身構えるといち早くジンが目の前に立ちはだかった!
「ふん!させるか!!」
ジンが風を操り目の前に強烈な上昇気流を作り出した!!フェニックスから放たれた無数の炎の羽根は上昇気流に触れると一気に方向を変えて空へと打ち上げられた。
「そら!!返すぞ!!」
更にジンは打ち上げられた無数の炎の羽根を風に乗せフェニックスに向かって放った!すると炎の羽根がフェニックスを貫通してナルミに降り注ぐ!!
ズドドドドドドドドドォォォ!!!!
「うわぁぁぁぁ!!!危ないぃぃぃ!!」
ずざざぁぁぁぁぁぁ!!
ナルミは着弾の瞬間ヘッドスライディングで攻撃を回避する!!そして埃塗れの身体を起こしてアンリル達を指差す!
「お、お前らぁぁ!!ず、ずるいぞ!!正々堂々とフェニックスと戦えぇぇぇ!!僕を狙うんじゃない!!」
「あっ!・・その手があったわ!!いくら幻獣が強くても召喚士自体を倒せばいいのよね・・だから広範囲の超強力な魔法を一撃・・・」
「アンリルさん!!駄目ですよ!!そんな一撃をアンリルさんが撃ったらこの辺り一帯が死地になります!!」
サリアが慌ててアンリルの前に出る。
「ここは私が行きます。幻獣さんへの愛が足りないお馬鹿さんにはお仕置きが必要ですから。」
珍しく苛ついているサリアにアンリルは肩をすくめて後ろに退がった。
「はい。はい。分かったわよ・・・その代わり早くしてよね。」
アンリルはアイテムボックスから椅子とテーブルを取り出すと高級宿エデンで頂いたワインとおつまみを取り出して寛ぎ始めた。
「あとは・・〈フォースフィールド〉!!これでよし!!それじゃあよろしくねー!!」
アンリルは自分の周りだけに防御魔法を展開するとワインを傾けて手を振っていた。
「お、おい!!あいつは何をしているんだ?!何故寛いでいる?!」
「・・・あなたの言いたい事は分かるわ。だけどね・・これで少なくともこの辺りの安全は確保されたのよ。・・・でもあなたの安全が確保された訳じゃないからね?さあ!見せてあげるわ!精霊達の力を!!」
微笑むサリアの周りに光の粒が舞い始めるのであった。
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