第134話 反撃開始
ガインが部屋で出発の準備をしているとボロ雑巾のようになったメギルの首根っこを掴んだジンが現れた。
「村長様。此奴が食事に眠り薬を盛った張本人です。」
「んっ?!お、おう・・・こ、こいつか!一体何者だ?」
突然現れたジンに驚きつつもメギルに近付いて顔を覗き込む。すると自分の意思で指一本動かせないメギルが震え出した。
「あ・・う・・・も、もう・・ゆ、許して・・・」
メギルは相当お仕置きされたらしく全身の骨も心も隈なくへし折られていた・・・
「此奴の話しではこの街の領主サルミド・スランバード子爵と言う者が黒幕だそうです。事もあろうに主様達を奴隷にするつもりだったようです。」
ジンは話しながら怒りを滲ませ腕に力が入る。
「このクズが・・・」
ミシッ・・・
「あぶっ・・や、やめ・・し、しぬ・・・」
ガインはもがく力も無いメギルを怒りを滲ませ見据えるとメギルの鼻を極太の指で摘んでこれでもかと捻る。
メキメキメキッ・・・
メギルは捻られる鼻と同じ方向に首を捻りながら苦悶の表情を浮かべて涙を流す。
「あぐっ・・・ぐっ・・や、やべで・・・」
「ふーん・・俺達を奴隷にねぇ・・・ふっ。それじゃあ出発前にその領主様とやらに挨拶に行かないとなぁ?」
ガインは涙を流すメギルを睨み口角を上げるのであった。
「な、なな、何だこれは・・・」
サルミド・スランバード子爵が部屋の窓から庭を見下ろし困惑していた。その目線の先には自分がガイン達に差し向けた男達が両手両足をあらぬ方向に捻られ呻きながら転がっている光景であった。
(メ、メギルの奴・・・失敗したのか・・・あいつらがここに居るって事はこの俺の事もバレているって事か・・・これは・・まずいな・・・)
スランバード子爵は苦虫を噛み潰したような顔で足速に部屋を出て行くのだった。
ガイン達は朝ご飯を食べる為にテーブルを囲んでいた。
「サルミド・スランバード子爵・・・やってる事は私がいた頃と全く変わってないわ。多分郊外に奴隷にする為に違法に集めた子供達を補助金目的で監禁している場所があるはず・・・」
サリアは身体から今にも吹き出しそうな魔力を抑えつけ目を細めてゆっくり立ち上がる。
「ガインさん・・私、子供達を助けたいです・・・大人達のお金儲けの為に自由を奪われている子供達を助けたいです!!」
サリアの思い詰めた顔を見たガインとアンリルは顔を見合わせ笑みを浮かべる。
「ふう・・・サリア。駄目だと言っても行くつもりだろう?・・・だけどな俺もサリア同様腹に据えかねているんだ。だから奴等にメルト村に喧嘩を売ったらどういう事になるか教えてやろう!」
「ガインさん・・・」
「そうね。サリアちゃん。私も一緒に行くわ!ガインは親玉を頼んだわよ!さっさと片付けて先を急ぐわよ!」
「アンリルさん・・・」
サリアは当然のように賛同してくれる二人に笑みが溢れ深々と頭を下げる。
「はい!ありがとうございます!」
「そんな事良いわよ。もしここにミハエル君がいたら同じ事を言うわ。さあ。朝ご飯食べたら行くわよ!」
「はい!」
サリアは笑顔で座りパンを頬張るのであった。
スランバード子爵が屋敷の一階の奥にある扉を開けると地下に続く階段が現れた。中はほのかに明るく階段の下からは男達が談笑する声が聞こえて来る。
スランバード子爵が階段を降り出すと男達が気付き談笑をやめてスランバード子爵を見上げる。
「子爵様。何事ですかい?」
用心棒リーダーのダイゲルがゴツい手に持ったカードをテーブルに伏せて面倒臭そうに椅子の背もたれに身を任せる。
スランバード子爵は階段の途中で止まると手すりを掴み声を上げる。
「ふん!仕事だ!全員屋敷を固めろ!」
「ちょっと待ってくれ。俺達全員ですかい?一体相手は何人なんだ?」
ダイゲルの言葉に34人の男達もざわつく。
「そうだぜ!俺達は全員〈神の使人〉なんだぜ?!それ相応の相手なんだろうな?」
スランバード子爵はダイゲルの目を見据えて口を開いた。
「メルト村の奴等だ・・・それも三人だ・・・」
スランバード子爵の言葉にダイゲルを始め34人の男達が一瞬言葉を失い静寂が漂う・・・
「「「「ぶふっ!!!ぶわぁっはっはっはっはっはぁぁぁぁぁーーー!!!!」」」」
「勘弁してくれよ!!ぶふっ・・・たった三人かよ!!」
「じょ、冗談はよしてくれ!!たかだか村人三人ごときで俺達全員を相手するのか?!笑わせんなよ!!!」
しかし男達が笑い転げる中ダイゲルだけは違う意味で黙っていた・・・
メルト村か・・・盗賊や山賊が避けて通る村・・・だったか・・・子爵様も何度かちょっかいを掛けて前任者が再起不能にされたとか・・・確か・・村長がS級冒険者の豪剣ガインだったか・・・それに・・・あいつがいたら・・・まずいぞ・・・
ダイゲルは真剣な顔で勢いよく立ち上がった。
がたん!
「黙れぇぇ!!お前ら!メルト村の奴等を甘く見るな!」
ダイゲルの怒声に男達がビックリして静かになった。
「子爵様。そいつらは豪剣ガインと賢者アンリルか?」
「・・・あぁ、そうだ。」
「何だって?!あの歩く災害アンリルか?!」
「盗賊や山賊が避けて通るあのアンリルか・・・」
先ほどまで笑い転げていた男達が揃って真剣な顔になる。
やっぱりか・・・賢者アンリル・・・厄介な奴がいるな・・・
「・・・子爵様。三人と言ったな?もう一人はどんな奴なんだ?」
「ふむ。報告では黄色い髪の女のガキらしい。二人の世話役のようだ。」
・・・油断は出来んな・・・
ダイゲルが作戦を構築しようと考え込むと慌ただしくメイド長が地下へと駆け込んで来た!
「だ、旦那様!!!今、お屋敷の門を壊されました!!!」
スランバード子爵の顔が一瞬で曇る。
「何っ?!くそっ・・・もう来たかっ!!お前ら!!行けぇ!!!ここから生かして帰すなよ!!!」
用心棒達は立ち上がり無言で階段を駆け上がって行った。
スランバード子爵はその姿を見送ると部屋の隅で一人ジョッキを傾ける紫髪の若い男に目をやる。
「何をしている?!お前も行け!!高い金を払っているんだ!!」
「はぁ・・へいへい・・・〈神の使人〉でも無い奴相手に出張る事になるとはね・・」
男は両手を頭の後ろで組みながら怠い足取りで階段を上がって行くのであった。
「ガイン殿。おはようございます!もう出発しますか?」
リーゲルトがガイン達に笑顔でキレ良く頭を下げる。
「リーゲルトさん。もう少し待ってくれ。俺達はこの街の領主に挨拶に行って来るからしばらく寛いで居てくれ。」
「そ、そうか!それなら私が案内しよう!」
リーゲルトが前に出るがガインがリーゲルトの肩に手を置くと少しだけ力を込める。
「いや。いいんだ。俺達だけで行って来るからここで待っていてくれ。」
「あ、あぁ・・・分かった・・りょ、領主の屋敷はここを出て西に向かって行けば直ぐに分かる・・・」
リーゲルトはガインの目力と肩に圧力を感じて首を縦に振るしか無かった。
「あぁ。分かった。それじゃあ行って来る。」
ガインはリーゲルトの肩を解放すると踵を返して開けられた扉を潜り消えて行くのだった。
その背中を見送ったリーゲルトは胸の奥に詰まる物を感じていた。
(な、なんだ・・・この胸騒ぎは・・・)
宿の階段を降りるとアンリルとサリアが待っていた。
「ガイン!油断は禁物よ!こっちが片付いたら駆けつけるわ!」
「あぁ。だがそっちはやり過ぎるなよ?!街が無くなったら元も子もないからな?!」
「そんな事分かってるわよ!!」
「まあまあ・・アンリルさん・・・お互い気を付けて行きましょう!」
サリアはほっぺを膨らますアンリルの背中をさすりながら宥める。
ガインは背筋を伸ばすと二人を目を見る。
「よし!それじゃあ反撃開始と行くか!!」
「「うん!!」」
三人は笑みを浮かべながら頷くのであった。
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