第130話 サリドルの街
日も落ちかけ明かりが灯り始めた街並みを漠然と見渡す。
あれからもう7年経つのね・・・街並みが変わって当然か・・あの頃の面影はほとんどないわね・・・
サリドルの街は国境の街として数多くの商人や冒険者、旅人などの国越えの中継役として栄えていた。当然の事ながらサリアがいた頃とは比べ物にならない程街は大きくなり外壁を始め建物も大幅に建て替えられていた。
サリドルの街を懐かしげに眺めているとそんな想いを打ち破るかのように苛ついた声が響いた・・・
「あんた!もちろん宿の手配はしてあるんでしょうね?お腹も空いたわ!!もう限界ギリギリよ!!」
アンリルが魔力を滲ませながらリーゲルトを睨みつけていた。その迫力に怯えながらリーゲルトがコクコクと頷く。
「も、もちろんだ!この街の最高級の宿を取ってある。食事も最高級の物を用意してある筈だ。今から案内する。」
「ふん!よろしい・・・とにかく早く案内しなさい!さもないと・・・ここで魔力全解放するわよ?!」
「あぁ・・わ、分かった。こっちだ。」
リーゲルトが怯えながら宿に向かい足速に歩き出した。
はあ。アンリルさんは相変わらずね・・お願いだからアンリルさんにちょっかい掛ける人が居ませんように・・・
サリアは懐かしむ暇さえなく不安を胸にアンリル達の後をついて行くのであった。
コンコン。
「入れ。」
「はい。失礼致します。」
執務室の扉が開けられ執事服に身を包んだ背が高く眼光鋭い男が入って来た。男は口元をいやらしく歪める。
「サルミド様。情報通り例のメルト村の者達が街に入りました。」
「ふっ・・そうか。やっと来たか・・何人だ?」
「はい。3人でございます。その内2人はS級冒険者の豪剣ガインと賢者アンリルです。もう1人は世話役の小娘だと思われます。」
「何?!賢者アンリルだと?!豪剣ガインだけじゃ無かったのか・・・ふ、ふん・・・まぁいい。儲けが増えるだけだ。」
このサリドルの街は国境の街として発展してしているが反面奴隷商を生業としている一面もあった。しかし領主サルミド・スランバード子爵は合法なものより違法な奴隷を多く扱っていた。
ミハエルがクラインド学園に通っている頃、成長を続けるメルト村に目を付けあの手この手とちょっかいを掛けたが全て無残な結果に終わった。気付けば100人以上いた手下が側近の2人だけとなっていたのだった。
サルミドは今までの損害を思い出し口角が引き攣る。
どれだけの手下が再起不能にされた事か・・この借りは纏めて返してもらうぞ・・・くくっ・・
「ふん。メギル、手筈通りに進めろ。」
「はい。かしこまりました。お任せください。」
メギルは悪意のある笑みを零しながら一礼すると部屋から出て行った。
サルミドは1人椅子の背もたれに身体を埋めた。そして成功の二文字を確信しながら口角を上げるのであった。
リーゲルトを先頭に宿屋に向かって行くと前方に石造りで一際大きく神殿のような建物が見えて来た。
「ねえ・・もしかしてあれが宿屋なの?」
「あぁ、そうだ。〈高級宿エデン〉だ。見ての通り貴族御用達の宿だ。」
アンリルは周りとは不釣り合いな違和感を醸し出している宿に半ば呆れていた。
「ここの領主はどんだけ貴族贔屓なの?この宿を見ただけで低度が知れるわ・・・」
「ふぇぇ・・・なんて入りずらい宿なの・・逆に落ち着かないよ・・・」
「確かにそうだな・・・それに中には貴族様が泊まってるんだろ?トラブルの予感しかしないぞ・・・」
ガイン達は聳え立つ〈高級宿エデン〉を見上げて苦笑いするのだった。
「ま、まぁ・・そう言わないでくれ皇帝陛下のご指示なのだ・・・話は通してある。何でも好きに頼めばいい。私達は領主に報告に行ってくる。先に入って寛いでくれ。」
リーゲルトは入口の前に立つボーイにチップを握らすとそのまま領主の家へと歩いて行った。ボーイは一礼すると入口の扉を優雅に開ける。
「いらっしゃいませ。中へどうぞ。」
ガイン達は開けられた豪華な扉を恐る恐る潜り〈高級宿エデン〉のエントランスに踏み入ると息を呑んで固まった。
目の前に広がる空間は一目では見渡せない程広く目を覆うばかりの煌びやかな金銀の装飾で飾られた壁に石造の床は顔が映る程に磨き込まれ、天井を見上げれば遥か上空から吊るされた巨大なシャンデリアがこれ見よがしに輝きを放っていた。
「うはぁぁぁ・・・もうここまで突き抜けると清々しいわね・・・」
「い、一泊いくらなのかな・・・聞きたく無いけど・・・」
「俺も生まれて初めての体験だ・・・一体どうしたらいいんだ・・・」
ガイン達が入口で固まっていると受付カウンターから青と白を基調としたやたらと胸を強調した制服に身を包んだ綺麗な女性が優雅にガインの前にやってきて一礼する。
「本日はご利用ありがとうございます。ガイン様ご一行様で予約を承っております。
湯浴みとお食事の御用達が整っておりますがどの様に致しますか?」
「お、おう・・・し、食事にしてくれ・・」
「はい。かしこまりました。」
ガインは今までされた事のない対応と女性の胸元に目を奪われ浮き足立っていた。
すると緩んだガインの顔を見て横からアンリルの平手打ちが飛んで来た。
ペチンッ!!
「あうっ!何をするんだ?!」
「あんたはどこに話しかけてるの?!恥ずかしいわ!」
「し、仕方ないだろう!目の前にあるんだから!」
ガインとアンリルのやり取りを見ていた案内役の女性が少し困った顔でニッコリ笑う。
「あ、あの・・ご案内してもよろしいですか?」
「あ・・あぁ・・悪い・・頼む。」
ガインがバツが悪い顔で頭を掻く。しかし視線はやっぱり胸元に釘付けであった・・・
「こちらでございます。」
女性に案内されて中に入ると目に飛び込んで来たのは金銀の装飾が施された部屋に豪華な4人掛けのテーブルのセットが数え切れないほど綺麗に並んでいた。そのテーブルの上にはどうやって折ったか分からないような真っ白い布が人数分立てられフォークやナイフが何本も置かれていた。
「あー・・予想通り・・苦手なやつだ・・本当に何であんなにもフォークやナイフを使うのかしら・・・意味が分からないわ・・・」
アンリルがうんざりしていると案内役の女性が椅子を引いてくれる。
「こちらへどうぞ。お食事はコースで承っておりますので順番に出て来ます。フォークやナイフは好きにお使いください。それでは失礼致します。」
「あ・・あぁ・・ありがとう・・・」
女性はガイン達を座らせると一礼して帰って行った。ガインは少し名残惜しそうに女性のお尻を見送るのであった。
「ちょっとガイン!どこ見てるのよ!鼻の下が伸びてるわよ!」
「お、俺は、な、何も見てないぞ・・・そ、それより気付いてるか?」
「もちろんよ!清々しいぐらいの悪意をひしひしと感じてるわよ。」
アンリルが他の席に座る貴族達を見渡すと案の定、貴族達の熱い視線を集めていた。するとサリアは厨房の方を見据えていた。
「この悪意の数はここに居る人達全員からですね・・・それに一際強く感じる悪意があります。これは警戒が必要ですね・・・」
「おい!なんか臭わないかぁ?!ゴブリンでも迷い込んだのかぁぁ?!」
「そうだなぁ!臭えなぁ!!」
そしてお約束通り酒が入ったほろ酔いの2人組の男達が立ち上がった。
ガイン達は予想通りの展開に頭を抱えるのであった・・・
(はぁ・・・勘弁してくれ・・これだから貴族って奴は嫌いなんだよ・・・取り敢えずアンリルだけは抑えておかないと・・)
そう思いガインが顔を上げるがそこには既にアンリルの姿は無かった・・・
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