第127話 ドルビナ帝国皇帝陛下
クラインド王国から西にあるスレイド王国から更に西に位置するのがドルビナ帝国である。
そして今、ドルビナ皇帝陛下の怒声が部屋中に響き渡っていた。
「レバイトはどうしたぁぁぁ!!奴等は何処へ行ったんだぁぁ?!まだ見つからんのか!あれから2ヶ月近くも経っているんだぞ!!
この役立たず共がぁぁぁぁ!!!ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・」
帝国斥候部隊副隊長リーゲルトが鼓膜に叩き付けられる怒声に顔を歪めながら頭を下げている。
「も、申し訳ございません・・・で、ですが・・・スレイド王国領内に入った所までは分かっておりますが・・・そこから忽然と痕跡ごと消えているのです。目的地のガルバン帝国にはもちろんの事、その付近にも現れた痕跡が無いのです。こ、これ以上は・・最悪の可能性を考えるしか・・・」
「そんな報告は何度も聞いておるわ!!もっと違う事を話せぇぇ!!!」
皇帝陛下がこめかみにはち切れんばかりの青筋を立てて怒鳴りつけていると入り口の扉が開き斥候部隊の男が飛び込んで来た。
「ほ、報告します!!スレイド王国領内に入った騎士団の足取りが一部掴めました!!」
「何?!本当か?!」
「はい!盗賊を捕らえた所、話が聞けました!・・・話しによるとレバイト団長は・・スレイド王国領内のメルト村と言う所を襲ったらしいのです。」
「何だと?!他国の村を襲った?!何故だ!!」
斥候部隊の言葉に皇帝陛下の表情が歪む。
「・・・は、はい。盗賊の話ではレバイト団長は遠征に行く度に・・その・・あの・・」
斥候部隊の男は言いづらい事実に言葉が詰まっていると皇帝陛下が苛つき声が上がる。
「なんだ?!さっさとはっきり言え!!」
皇帝陛下の怒声に男の肩が跳ね上がり恐る恐る口を開いた。
「・・は、はい・・レ、レバイト団長は遠征に行く度に目ぼしい村を襲って金品を奪っていたそうです。その上・・・証拠隠滅の為に村を壊滅させ、時には火を放っていたとの事です・・・」
話を聞きながら皇帝陛下の顔が段々と鬼の形相に変わって行く・・・
「な、なな、何だとぉぉぉ!!わ、我が誇り高き帝国騎士団が金品の為に他国の村を襲っただとぉぉぉ?!あ、あの馬鹿共がぁぁぁぁ!!!我がドルビナ帝国に泥を塗りよってぇぇぇ!!!おいぃぃ!!奴等は何処だ?!何処へ行ったのだ?!」
男はまたもや言葉を詰まらせながら口を開く。
「・・・は、はい。・・は、話しよると・・・レバイト団長達は・・・そのメルト村に返り討ちになり団員の1/3を失った上に村から叩き出されたと・・・」
「な、何だと?!我が帝国騎士団300人がたかが村一つに惨敗したと言うのか?!」
「は、はいその通りです・・・なんでもそのメルト村は子供から大人まで規格外の強さで盗賊や山賊も避けて通るそうです・・・」
「くっ・・何という事だ!恥晒し共が・・・それで奴等は何処へ行ったのだ?!」
「は、はい。・・その盗賊が言うには・・・帝国騎士団は逃げるように森に入り、まるで森に飲み込まれたように消えたと言っていました・・・」
「何?!森に飲み込まれた?!どう言う事だ?!」
「わ、分かりません・・・ですが恐らくそのメルト村の者が何か知っているものと思われます・・・」
斥候部隊の男は皇帝陛下の顔色を伺いなから意見を述べた。すると皇帝陛下は男の意見に一理ありと思ったのか考えるように玉座に身を委ねた。
「むうぅ・・メルト村・・か。」
恐らく調査団を送ったとしても警戒されて話にならんだろう・・・今の話しからすると相当危険な相手だ。こちらから手を出してしまった以上慎重に事を進めんといかんな・・・それでもし使える奴等なら・・・ふふっ・・
皇帝は心の中で細く微笑む・・・
「よし。リーゲルト!お前はわしが今から書く書状を持ってメルト村へ行け。恐らく相手は警戒しているはずだ。とにかく刺激するな!!また詳細は説明させる!!良いな!?」
「はっ!仰せのままに!!」
リーゲルトは立ち上がり部屋を出て行く。
(あぁ・・皇帝陛下に目を付けられたな・・・可哀想な奴等だ・・・)
「おい!奴等は乗ってきたか?」
「ばっちりですぜ!メルト村の事教えてやったら俺が逃げ出しても追い掛けもせずに一目散に帰って行きやしたぜ!」
「ククッ・・俺の思惑通りだ。あいつらはあの帝国騎士団を探しているんだ。まあ、奴等が何処へ行ったか知ねぇがな・・・さあ!これで第2ラウンドが始まるぞ!次は負けねぇからな!!」
盗賊の頭ドランゴは前回の負けを取り戻すべく拳を握るのであった。
数日後・・・メルト村の前には黄金の馬車を引いた同じ制服を着た10名の男達が馬を降りて開け放たれた門の前に横二列に整列する。
そして先頭に立つリーゲルトが一歩前に出て門番のデイルに一礼した。
呆気に取られて目をパチクリさせるデイルがつられて一礼すると恐る恐る口を開く。
「あっ・・う・・・こ、ここはメルト村だ。ご、御用向きは何ですか?」
「わ、私はリーゲルトと申します。我々はドルビナ帝国皇帝陛下の命の下、先のここメルト村襲撃の件で参りました。皇帝陛下直筆の書状をお、お持ちしましたのでそ、村長様にお、御目通り願います。」
リーゲルトは皇帝に言われた通り出来る限り丁寧に対応していたが何故か膝をカクカクと震わせながら額に汗を浮かべていた。
な、何だこの纏わりつくような重い空気は・・・ふ、震えが止まらん・・・
するとそれを聞いたデイルは表情が豹変しリーゲルトを汚物を見るように睨みつける。
「何っ?!あいつらの仲間か!!ふん!今度は何だ?!そんな態度で来ても騙されないぞ!!とっとと帰れ!!」
デイルの身体から闘気が溢れるとリーゲルトの全身から嫌な汗が吹き出した。
こ、これは・・と、闘気か・・・も、門番ごときが・・・これほどの力を・・・・んんっ?!な、なんだ・・・あいつは・・・ま、待てよ・・何処かで・・
リーゲルトが見たものは周りの空気を歪める程の闘気を纏った男がこちらに向かって来る光景であった。
デイルがリーゲルトを締め出そうと門の扉に手をかけると不意に背後からドスの効いた声を掛けられる。
「待てデイル。俺が話す。」
デイルが振り向くとそこには怒りを滲ませ闘気を溢れさせた村長ガインがリーゲルトを睨み付けていた。
リーゲルトは膝を付くつもりは無かった。しかしガインの闘気に当てられて立って居られずに崩れ落ちて膝を付いてしまった。そして部下達も同じく崩れ落ちてっいた。
「ぐっ・・・うっ・・・」
こ、これは・・まずい・・・このままだと・・・死ぬ・・
ペチンッ!!
「こら!ガイン!!話をするんじゃなかったの?!」
突然現れたアンリルが呆れた顔でガインの頭を引っ叩いた。
「あうっ!な、何をするんだアンリル!!」
「”何をするんだ”じゃないわよ!!あれじゃ話しどころか死ぬわよ?!」
ガインは頭をさすりながらアンリルの指差す方を見るとリーゲルトとその部下達がへたり込んで肩で息をしているのが目に入った。
「あ・・・しまった・・つい加減が出来なかった・・・」
「はあ・・しっかりしてよね!・・・で?あんた達は何しに来たの?皇帝陛下の書状とか言ってたけど。」
アンリルが肩で息をしているリーゲルトに話し掛けるとヨロヨロと立ち上がり懐から筒状に丸めた紙を赤い紐で止めた書状を取り出した。
「ごほっ・・こ、これはドルビナ帝国皇帝陛下直筆の書状だ・・・う、受け取ってくれ・・」
「ん?どれ・・・」
アンリルは差し出された書状を受け取るとその場で解いて読み出した。ガインも慌てて横から覗く。
(・・・・・・ふーん。)
「なるほどね。ドルビナ帝国騎士団のメルト村襲撃は団長のレバイトの一存でやった事で皇帝は知らなかったと・・・だけどドルビナ帝国の騎士団がした事だから、その謝罪をしたいからドルビナ帝国まで来いって事ね。」
アンリルはガインの顔を意味ありげに見るとガインも頷きリーゲルトを睨む。
「おいお前ら!そこで待ってろ。仕方ないから検討してやる。・・・おっと、そうだ警告しておくがお前らがそこで俺達に悪意を持つと・・・大変な事になるから気を付けろよ・・・」
そう言い残してガインとアンリルは村の中へ消えて行った。そして残されたリーゲルトはどう言う事か分からないまま呆然と立ち尽くしていた。
(一体どう言う事だ・・・悪意とは・・し、しかし・・・あの闘気・・確かに規格外だ・・・んっ?!・・・待てよ?!あの女・・アンリルと言っていたな・・・あぁっ!!〈真実の剣〉賢者アンリルか!!じゃあ男の方は豪剣ガインだ!!・・・ど、通りで・・・S級冒険者が村長の村・・それがメルト村の正体か・・・それなら納得だ・・)
「・・・と言う訳でドルビナ皇帝陛下からの招待状が来たけど・・・十中八九罠よ!あの皇帝が頭を下げる為だけに呼びつける筈が無いわ。確実にメルト村に興味を持ったのよ。帝国騎士団300人を打ち負かしたメルト村をね。」
アンリルが机の上に書状を投げ置いて背もたれに身体を預ける。すると珍しくサリアが口を開いた。
「その通りよ。ドルビナ帝国は奴隷制度が当たり前の国よ。私の居たサリドルの街はドルビナ帝国寄りにあるの。施設の子供達はドルビナ帝国に売られて行っていたのよ・・・」
サリアが当時の事を思い出して唇を噛んで少し俯く。
「なるほどね・・・ドルビナ皇帝はメルト村を奴隷にしたいって事かな?」
ミハエルは呆れた顔でアンリルを見るとその通りと頷きながら組んだ足を戻してテーブルに近づく。
「そうね。まず品定めって所かしらね・・・まあでも皇帝に目を付けられたって事は、ここで断ってもしつこくちょっかいをかけて来るわ。それなら・・・・」
「・・・こっちから行ってやろうって事だな?本当に謝罪ならそれで良し!メルト村に喧嘩を売るなら・・・・」
「「全力でぶっ飛ばす!!」」
アンリルとガインがまるで夫婦のように息の合ったやり取りでニヤリと笑う。ミハエル達もドルビナ皇帝の末路を想像して苦笑いをするのであった。
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