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第125話 セルフィア王の5分

「陛下。ガルバン・エルバンス参上致しました。」

「陛下。サーシャ・エルバンス参上致しました。」


”スタ果て”が店頭に並んだ二日後、セルフィア王からエルバンス伯爵親子に召喚命令が下された。


「うむ。楽にせよ。」


「はい。」

「はい。」


エルバンス親子が立ち上がるとセルフィア王の顔が緩む。


「さて、ガルバンよ。この度の東の森でのスタンピードの迅速な行動のお陰で十分な準備が出来た。そのお陰でワイバーンや危険度Aクラスのコカトリスへの対処も出来た。民に代わって礼を言うぞ!」


「はっ!勿体なきお言葉!ありがとうございます。」


「うむ。今後もセルフィア王国の為に尽くしてくれ!」


「はっ!もちろんでございます。」


ガルバンはキレの良い礼をする。そしてセルフィア王はサーシャに視線を移す。


「うむ。さて、サーシャよ。お主には少々確認したい事があるのだ。良いか?」


「はい。私の事なら何なりと。」


するとセルフィア王は立ち上がり声を上げる。


「皆の者!!わしはサーシャと2人で話がしたい。暫しの間外してくれ!」


「へ、陛下!それはなりませぬ!どのような危険があるやも知れませぬ!せめて近衛兵だけでも・・・」


慌てて側近の男が割って入るが王は困った顔をしながら男を宥めるように掌を軽く挙げる。


「フェリルドよ。お前の言う事はもっともだ。しかし大丈夫なのだ。今ここでどんな暗殺者が来ようが、どんな魔物が来ようが大丈夫なのだ。だから5分で良い。暫し2人で話をさせてくれぬか?」


フェリルドは王の目の奥に柔らかい口調とは裏腹に威圧とも取れる眼光を見た。そして肩を落として頷くのであった。


「は、はい。仰せのままに・・・」


「うむ。」


王か頷くとフェリルドを始め次々と謁見の間を出て行く。しかし父ガルバンが跪きたまらず声を上げる。


「へ、陛下!お、恐れながら申し上げます。我が娘の事です!父親として同席をお許しください!」


「む、むう・・」


セルフィア王はサーシャに無言で目線を送った。


さすが王様ね・・もう分かっているみたいね。まあ、あの本を読めばこうなるか・・・まあいいわ!いい機会だしパパにも知ってもらおうかな。


サーシャはニッコリ笑って王の視線に応えると王も優しく頷いた。


「うむ。同席を許す。ただしお主は黙って口を挟むな。わしには5分しか無いからな!」


セルフィア王は玉座に収まりサーシャを見据える。


「さて、サーシャよ。まず『新・闇と光の物語り』と『スタ果て』はお主が書いたものだな?」


「はい。その通りです。」


「うむ。そしてこの二冊は実話に近いもので間違いないか?」


「はい。その通りです。」


そしてセルフィア王はこれが本題とばかりに目に力が入る・・・


「そうか。だが・・わしは『スタ果て』は事実とは少し違うと見ておる・・・この物語りに登場するラグと言う人物は冒険者達に力を与え鼓舞し戦ったとある。・・このラグはサーシャ、お主の事ではないか?」


(あぁ・・そういう事ね・・・)


「それは・・半分正解です。本当に支援特化の能力の冒険者はいました。その冒険者は危険を恐れず旅の冒険者にも関わらずヴィランダの街を命懸けで護っていました。傷だらけになっても立ち上がりドラゴニュートに向かって行きました。ウィランダの街の英雄と言っても過言ではありません。」


サーシャはセルフィア王の目をしっかりと見据えて答えた。


(ち、違がったか・・・しかし・・」


「そ、そうであったか・・ウィランダの街はその者によって護られたと言うのだな?」


「はい。その通りです。」


(ふむ・・その者は・・もしや・・)


「サーシャよ。その者に礼をしたいのだがどこにいるか心当たりはあるか?」


(そら来た・・・)


「・・いいえ。残念ですが分かりません。」


セルフィア王の眉が微かに動く。


(むっ・・今の間は・・サーシャ・・お主気付いておるのか・・・ふむ・・まあ良い・・時間も無い・・・)


「そうか。それは残念だ。・・・さて、時間も無い。これはわしの興味本意だ。・・サーシャよ。お主は光のメイシスの使徒か?」


(よし・・来たわね・・ここは格好良く行くわよ・・・)


「陛下。私の事をお話し致します。パパも聞いてね。」


ガルバンは初めて見る娘の真剣な眼差しに息を飲んだ。


「分かった・・・」


サーシャは父を見上げて頷くとセルフィア王に視線を戻す。


「陛下。私は光のメイシスの使徒が一人〈天界神の加護〉リナの生まれ変わりです。大天使ウリエル様がこの世界に危機が迫っている事を知り私達をこの世界に誕生させたのです。実は私は事情により皆と離れてここに留まる事になりましたが、今回のスタンピードを考えると大天使ウリエル様のご意志だったと考えます。ですから私はその運命に従ってここに留まりセルフィア王国を護る事にしました。ウィランダの街へはその初陣として駆けつけたとお考えください。」


サーシャは軽く会釈をして話を終えるとセルフィア王はワナワナと肩を震わせ静かに立ち上がった。


「よ、よう教えてくれた・・・わしの想像通りであった・・・サーシャよ。わしは嬉しいぞ・・・12歳にしてこの風格、考え方、言葉使い・・・ガルバンよ・・良くここまで育て上げたのう・・・もう何処に出しても恥ずかしく無かろう。・・うむ。この話はしばらく伏せておくとする。そしてこの本の関係者にも緘口令を出しておくぞ。」


「はい。ありがとうございます。」


王の言葉を聞きサーシャがニッコリ笑ってガルバンに振り向くとサーシャの目線にガルバンの顔があった。我が娘の想像を越える存在に理解が追い付かず思わず膝を付いてしまったのだ。


「サーシャ・・お前は・・その歳で何という運命を背負って・・・親として何も助けられずすまなかったな・・・」


ガルバンはサーシャの両肩に手を置いたまま項垂れる。


「パパ止めて。私は気にして無いわ!それに私はミハエル君に鍛えてもらって強くなったから大丈夫よ。それに今回のスタンピードはパパが私を引き止めたから解決できたのよ!パパが私を引き止めなかったら・・ウィランダの街はもちろんセルフィア王国も・・無くなっていたかも知れないわ。」


「・・・サーシャ・・お前って子は・・」


(んっ?!ミハエル?!)


セルフィア王はミハエルの名を聞いて思わず声を上げる。


「サーシャよ!今ミハエルと言ったか?!」


「は、はい。」


「も、もしや・・ミハエルも光の使徒なのか?」


サーシャは頬を綻ばすと王の質問に胸を張って答える。


「いいえ。ミハエル君は光の使徒ではありません。ミハエル君は〈光のメイシス〉の子孫でありながら〈闇のイルバス〉の子孫でもあるんです。私達はこの世界を護るために二人の加護を受けたミハエル君の元に集った使徒なのです。」


な、なんと・・・だから・・〈古代魔法〉を使えたのか・・・確かにあの強さ・・納得だ・・


王は肩を落とし表情が緩んだ。


「そうだったか・・・わしはとんでもない者に喧嘩を売ったのだな・・・」


すると約束の5分が経ち扉をノックされる。


「ふむ。時間のようだな・・・入って良いぞ!」


王の声が掛かり謁見の間の扉が待ってましたとばかりに開くと側近のフェリルドを先頭に皆が元の位置に次々と整列する。そしてガルバンも立ち上がり服装を整えた。


「皆の者。心配を掛けたな。サーシャには皆がおると答えづらい質問をしておったのだ。個人情報なのでな・・・」


セルフィア王はサーシャに目配せをして見せる。


「それと皆に報告がある!この度のガルバン・エルバンスによる東の森のスタンピードにおける働きをわしは重く受け止める!!よってガルバン・エルバンスを侯爵へ陞爵とする!!後日改めて陞爵の儀を取り行う!」


「・・・こ、侯爵?!」


突然の陞爵宣言にガルバンは目を見開き瞬きも忘れて虚空を見つめていた。


(ほら!!パパ!口開いてる!!)


「あ・・お、おう・・・」


サーシャがガルバンの袖を強めに引っ張ると慌てたように口を閉じて生唾を飲み込んだ。そしてまだ頭の整理が出来ていないが跪き頭を垂れた。


「陞爵の儀。謹んでお受け致します。」


ガルバンの心音はまるで耳元で脈打つかのように鳴り響き周りの驚きの声やざわつきが聞こえない程であった。


こ、この私が・・侯爵・・も、もう訳が分からん・・・心臓が口からはみ出そうだ・・・は、早く家に帰って・・エミリの胸に埋まりたい・・・


ガルバンは混乱する中辛うじて立ち上がり王に深々と頭を下げるとサーシャと共に帰路に着くのであった。



「パパ。良かったね!侯爵だって!!」


サーシャが並んで歩く父親を見上げて笑顔を見せるとガルバンも少し落ち着きサーシャを見下ろした。


「あぁ・・そうだな。だが侯爵ともなれば公の場に出る事も多くなる。これから公の場で恥をかかないように勉強しないとな!帰ったら早速特訓だぞ?!」


「うぇぇぇ・・・明日からにしようよぉぉーー・・・」


今までの軽い足取りが急に猫背になり足取りが重くなるサーシャであった。


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