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第121話 英雄

スタンピードの危機が去り日が傾きかけたウィランダの街のギルドでは大宴会が始まっていた。


ゴルドがジョッキを片手に持ち、嫌な顔をするログの肩に手を回して冒険者達の前に立つ!


「聞いてくれぇ!!今、ギルドマスターはセルフィア王国へ援軍を要請にいっている!!まあ・・無駄に終わったがな!!!はーはっはっはぁ!!!だが!!俺達がこんな風に笑っていられるのは皆も知っているように!ここにいるログのお陰だぁぁぁ!!この街の英雄を讃えて乾杯だぁぁぁ!!!」


「うぉぉぉぉぉ!!!英雄ログ!!最高だぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「この街にずっと居てくれよぉぉぉぉ!!」


「ログ様ぁぁぁ!!結婚してぇぇぇぇ!!」


先程からこのくだりが三回も繰り返されていた。流石にログもうんざりし始めていた。そしてこのくだりはまだ続きがある・・・。


(そら来た・・・・)


「そーしーてぇぇーーー!!!戦場の英雄がログならぁぁぁぁ!!癒しの女神はぁぁぁぁ!!皆んな一緒にぃぃぃぃ!!!!」


「「「「ロゼリアァァァァァ!!!」」」


「わあっはっはっはっはっはーーー!!!」


ロゼリアは冒険者達の注目を浴びて顔を真っ赤にしていた。


「あうぅぅぅぅ・・・だからあれは・・ログさんの力で・・・私じゃ・・・」


しかし酔っ払ったルミヤがロゼリアに抱き付いて頬擦りしまくっている。


「ロゼリアちゃぁぁぁん!!ありがとうぅぅぅぅぅぅ!!!」


ぐりぐりぐり・・・


「あうぅぅぅぅ・・飲み過ぎでずよ・・・」


ロゼリアの周りには瀕死の重症から助けられたルミヤを始めコカトリスの猛毒から助けられた冒険者達に囲まれて揉みくちゃにされていた。


そんな歓喜の宴を隅のテーブルからサーシャはジュースの入ったコップを傾けながら眺めていた。


(ふふふ・・これでいいのよ。皆で協力して護った街。冒険者達の絆も深まる!英雄、女神も誕生して笑顔が絶えない平和な街になるのよ!・・・いいわ・・・ふふふ・・・)


そのサーシャのニヤついた顔がログの視界に入った。ログは妙に気になりゴルドに声を掛けた。


「ゴルドさん。あのニヤついてる女の子はこの街の子か?」


「んー?あーー!あの子はセルフィア王国からこの街に来たらしいぞ。この騒ぎが終わってからここに着いたらしい。皆に色々と聴き回っていたぞ。」


ログは眉を顰める。


「女の子が1人でセルフィア王国からここまで来たのか?!どう見てもまだ未成年だろ?」


「お、おう・・そう言われればそうだな・・」


ゴルドはログのツッコミに頭を掻いていた。酒が入っているので考えが纏まらないようだった。


(なんだ・・・この感覚は・・・ん?待てよ・・)


ログの頭の中でバラバラのピースが繋がろうとしていた。


「ゴルドさん!あの子はいつからここに居たんですか?」


「お、おう・・確か・・オロチを倒した時にはここに居たってゼイルが言ってたな・・」


ログは目を細めてサーシャを見た。


(おかしい・・・その頃は街の全ての門は閉め切っていた筈だ・・どうやって中に入ったんだ・・・んん?!待てよ・・・そもそもどうやってこの街に来たんだ?!馬車なんて来てないぞ・・・まさか未成年の女の子が1人でこの街まで歩いて来た?!馬鹿な・・・馬車で飛ばしても1日の距離だぞ?!・・なんだ・・この違和感は・・・よし・・失礼して・・)


ログは悪いと思いながらも好奇心と違和感の誘惑に負けてサーシャを〈鑑定〉した。


サーシャ・エルバンス

Lv 10

【称号】魔法使い


攻撃力 267

防御力 358

素早さ 464

魔力  365

魔法力 578


【加護】〈魔法の加護〉


【スキル】〈四属性魔法〉


(ほう・・レベル10で神の加護も無いのにこのステータスは優秀だな・・ん?サーシャ・エルバンス・・・どこかで・・・)


ログがサーシャのステータスを見ていると目を細めたサーシャと目が合ってしまった。ログは咄嗟に目を逸らして明後日の方を見た。


(気付かれたか?!いや・・・所詮未成年の女の子だ・・・あうっ!)


サーシャはいつの間にかログの目の前に来て無言で足を踏み躙ってすれ違った。


(ふん!女の子のステータスを盗み見るなんて最低ね!!まあ、擬装してあるから良いけどね・・・)


ログは折れたかと思った足をプルプル振りながらサーシャの背中を見送った。


(俺の鑑定が気付かれた!?レベル10の女の子に?・・・まさかな・・でも話をする価値はあるな・・・)


ログはギルドを出て行くサーシャを〈索敵〉で追おうとしたが・・・そこに居るはずのサーシャが〈索敵〉に反応しなかった。


(馬鹿な?!〈索敵〉に反応しない?!何故だ?!・・・スキルか・・・いや待て・・〈鑑定〉ではスキルは一つだけだった筈・・・となれば・・・俺の〈鑑定〉は上位の〈看破〉だ・・それで見抜けなければ・・はは・・・なんて事だ・・・やられた・・)


ログは急いでサーシャを追いギルドを飛び出した。そしてサーシャの後ろ姿を捉えると全力で駆け出すのだった。


「待ってくれ!!」


サーシャは分かっていたとばかりにニヤリと笑らうと立ち止まり後ろを振り返った。


「あれ?さっきの覗き見英雄さんじゃないですか。何か御用ですか?」


意地悪く首を傾げる。


ログは軽く息を弾ませながらサーシャに追いつくと息を整える。


「ふう・・・さっきは悪かったよ。俺は人探しをしていてな・・”ついっ”てやつだ許してくれ。お詫びに何か奢るよ。ご飯でもどうだ?」


「えーー・・未成年をナンパするんですか?やっぱり変態英雄なんですね?」


サーシャが意地悪く上目遣いで覗き込む。


「いやいや!!違うぞ!!あくまでお詫びだ!!お・わ・び!・・それに君はセルフィア王国から来たんだろう?実は俺も行こうとしているんだ。色々と聞かせて欲しいんだ。」


慌ててふためくログを見て軽く笑う。


「ふふ。そうね・・この先に私の知ってる食堂があるからそこなら良いわよ。」


(私も聴きたい事があるしね・・・)


「よし!決まりだ!!早速行こう!」




『冒険者御用達食堂 夢見亭』


サーシャが元気よく手を上げる!


「おばちゃん!とりあえず特製肉盛り定食と串盛り大とフルーツ盛り合わせ特盛で!!」


「あいよーーー!!そっちのお兄さんは?」


サーシャの豪快な注文に呆気に取られていて

突然声を掛けられて我に返った。


「あ、あぁ。この、おすすめ定食を頼む。」


「あいよ!!少しだけ待っておくれよ!」


割腹の良いおばさんが小走りに厨房へと消えて行った。


そしてログは座り直して口を開いた。


「さて、君は・・」


しかしログが話し出すのを被せるようにサーシャが前のめりになる。


「ねえ!!皆んながあなたの雰囲気が突然変わったって言ってたんだけど何があったの?!」


(くっ・・先手を取られたか・・・)


「あ、あぁ・・俺もよく分からないんだ。表現するなら身体の中で別の人格が目覚めて記憶を引き継いだ・・・そんな感じだ。」


「へぇーーっ!!凄い!凄い!!そんな事があるの?!あの時人格が目覚めたから神力が使えるようになったのね!!」


サーシャが身を乗り出して足をバタつかせていた。


「んっ?!ちょっと待・・・」


「じゃあ、じゃあ!ログさんは生まれた時から別の人格を持っていたって事よね?!」


ログが口を挟もうと思うがまたもやサーシャに遮られる!!


「そ、そう言う事になるな・・・それはそうと・・・さっき・・」


「じゃあ!!目覚める前の人格はどうなったの?!ねえ?ねえ?ねえ・・・」


ログの目尻が痙攣し我慢の限界がやって来た・・・


「待てぇぇい!!!俺のターンを無視するなぁぁ!!次は俺のターンだ・・・いいな?」


突然声を荒げたログに食堂内に静けさが漂った・・・


サーシャはポカンとして口を開けていた。


「ふう・・さて君には聴きたい事が幾つかある。さっき君はあの時俺が神力を使えるようになったと言ったな?あの時とはいつの事だ?」


「えっ?!あっ・・・そ、それは・・・」


サーシャはしまったと思い斜め上の天井を眺めた。そしてなんとか捻り出した言い訳を並べた。


「えっと・・そ、それは・・そう!皆んなが戦っている時よ!!ログさんだって戦いながら目覚めたんでしょう?!」


ログが目を細めてサーシャを見据える・・


(・・・あやしいな・・・それなら・・)


「ほう。そうだな・・・ところで君はステータスを擬装しているな?俺の〈索敵〉に君の反応が無いんだよ・・君のステータスにその類のスキルは無かった。見せれない理由があるのかい?」


ログはこれならどうだとサーシャに揺さぶりを掛けたつもりだったが逆に窮地に陥る事になる。


サーシャはログの秘密に気付いていた。ここぞとばかりに目を細め悪い顔になる。そしてテーブルの中央まで顔を突き出し小声で反撃に出る。


「ふふふ・・ログさん?貴方こそステータスを擬装してるよねぇ?」


(なっ?!何故・・・まさか・・俺の擬装を・・〈看破〉か?!)


ログの顔が一瞬で曇る・・・目の前の少女を甘く見たと後悔の波が押し寄せる・・・


「なっ・・そ、それは・・・」


サーシャは悪い顔のまま少しだけ大きな声になる。


「レベル436。〈伝令神の加護〉・・・別名〈豊穣と冒険の神〉・・凄い加護よねぇ?」


ログは慌てて目を見開いてテーブルに突っ伏し声を上げる!!

〈伝令神の加護〉は国レベルでの加護であり他の国に知れれば戦争すら危惧されるのである。


「わーーー!!分かった!!!分かったから!!駄目だ!!それ以上は駄目だ!!お願いだから!!!」


ログはテーブルに突っ伏したまま両手を合わせて固まっていた。ログの完全敗北であった・・・


すると食堂のおばちゃんが料理を両手に持って厨房から現れた。


「はいはい!!決着は着いたようね!!これでも食べて元気出しな!!」


おばちゃんは笑いながらテーブルに料理を並べる。テーブルの上には今までの雰囲気を一変される程の美味しそうな料理が並べられた。


「わぁーーー!!美味しそう!!!」


サーシャが思わず笑顔で声を上げる!


「さあ!!ご飯食べる時ぐらい仲良くしな!冷めないうちに食べなよ!!」


おばちゃんは屈託のない笑顔で再び厨房へと消えて行った。


「いっただきまーーーす!!」


サーシャは目の前の料理に問答無用で襲い掛かる!!うちでは行儀が悪いだの作法だの煩く言われている反動が今ここで爆破していた。

右手のフォークには肉を、左手のフォークにも肉を突き刺し口の中も肉でいっぱいにして肉の大渋滞となっていた。

サーシャは口の中いっぱいに肉を頬張り首を縦に振りから噛み締めていた。


「ふん!ふん!ふん!・・・」


ログはフォークに刺した肉を弄びながら肉を貪るサーシャを眺めてフッと笑ってしまう。


(まぁ・・いいか・・・街は無事だった・・皆んな無事だった・・死者も出ずに・・・はぁ・・まぁいいか・・・)


ログは複雑なため息を吐くのであった・・・



翌日サーシャは乗り合い馬車に乗り込もうとしていた。


(走った方が速いけど仕方ないよね・・・)


馬車に皆が乗り込み最後にサーシャが乗り込もうとすると後ろから声をかけられた。


「サーシャ!・・・ありがとう。」


ログは色々と頭の中で言葉を選び全てを含めて出た言葉がそれであった。


サーシャはそれを察して真っ直ぐログを見る。


「貴方は正真正銘ウィランダの街を救った英雄よ!!それを忘れないでね!」


「あぁ!そう言う事にしといてやる!!またな!!」


ログは自分だけが知る本物の英雄に大きく手を振るのであった。

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