第112話 帝国騎士団の末路 1
今回2話分飛ばしてしまいました。
大変失礼致しました。
下界を覗いていた暗黒神ドルゲルがわなわなと肩を揺らしていた。
「こ、古代魔法だと?!そ、それも精霊共を進化させる程の威力・・・あ、あのガキは・・光の末裔か・・こんな所に・・そ、それにしても・・あ、あの魔力は異常だ・・一体どうやってあの力を・・・かつての光のメイシスが霞んで見えるぞ・・・こ、これは少し探ってみるか・・・」
山賊の頭が打ち上げられたゼガルを望遠鏡で捉えて笑っていた。
「見ろよ!!馬鹿が飛んでるぜ!!」
「あぁ・・やっちまったな!・・きっとあいつ村の女子供を人質に取ろうとしたんだぜ!!馬鹿な奴だ・・・あの村は特にガキの強さがヤバイのにな・・・でもまあ、俺達も最初は・・・くっ・・」
盗賊の頭は過去の惨劇を思い出して目尻がヒクついていた。そして山賊の頭も苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あぁ・・・そうだな・・ま、まあよ!それは置いといてだ!
賭けの開始はアイツが地面に落ちた所からでどうだ?」
昔の事は忘れようと言わんばかりに盗賊の頭の肩を叩く。
「お、おう!!いいじゃねぇーか!!お前ら!!早く時計を用意しろ!!しっかり計れよ!!!」
「へい!!任せてくだせぇ!!!」
盗賊と山賊の部下が懐中時計を取り出して真剣な目で構えた。
そして放物線を描いて村から大きく外れた所へ落ちてくるゼガルを望遠鏡で追いながら時計を見る。
「もうすぐ・・・あと少し・・・今だ!」
手下がゼガルが顔面から地面に着陸したのを見たその時!
遠く離れた山賊と盗賊達の耳にもメルト村から男達の断末魔の悲鳴が聞こえたのであった・・・
「も、もう始まってやがる・・・」
「あぁ・・・そうみたいだな・・・」
頭達を始め手下達も生唾を飲み込み全身に鳥肌を立てながら望遠鏡を食い入るように覗くのであった。
メルト村の南。正面入り口を包囲する帝国騎士団の前に胸を強調した緑のドレスをはためかせて最上位精霊となったエントが男達を見下ろしていた。
「お、おい・・・あ、あれは何者だ・・?」
「そ、それより・・なんて美しいんだ・・」
エントは光悦な表情で見上げる男達を他所にミハエルの言葉を脳裏で反復していた。
ミハエルからの初めて命令を遂行する事が嬉しくてたまらなかったのだ。エントは男達の言葉など気にぜずに口元を緩ませる。
「ふふ・・・我が主の住まう村を襲う愚か者達よ!我が主ミハエル様の命によりお前達を排除する!!!」
「えっ?!・・今、なんて言ったんだ?」
男達がざわつき動揺する中、エントは満面の笑みで両手を広げ魔力を解放する。すると森が騒めき鋭い木の枝や草木の蔓が目にも止まらぬ速さで男達を鎧ごと貫いて行った・・・
「ぐがっ!!何だ?!い、痛てぇ!!!」
「ぐぶっ!!な、何だ?!た、助けて・・・」
「がはぁぁぁ!!た、助けてくれぇぇぇ!!」
男達は身体中を貫ぬかれ激痛に顔を歪めてもがいていた。
「ふふ・・お前達はこれまで犯してきた罪をこの森の中で骨の髄まで償うのよ・・・人の罪人とは比べ物にならないくらいの罰が待っているわ!!覚悟しなさい・・・」
男達を串刺しにした枝や蔓は躊躇なく次々と男達を森へ引き摺り込む!
「や、止めてくれぇぇぇ!!助けてぇぇ!」
「も、森がぁぁぁぁ!!何で森がぁぁぁ!」
「助けてくれぇぇ!!嫌だぁぁぁぁ!!」
森へと引き摺り込まれた男達の叫び声は数秒後にはパタリと止みいつもの静けさが訪れた。
「ふふ・・排除完了です。さあ、ミハエル様にご報告致しましょう。」
エントは笑みを浮かべながらミハエルの元へ向かうのであった。
メルト村の東。男達の目の前に現れたのは逞しい上半身に白く分厚い布を両肩に袈裟掛けにし腰で布の両端を結んだ出で立ちの最上位精霊ジンであった。
ジンもミハエルの命令を心の底から嬉しく思い口元が緩む。
「くくく・・主様に仇なす貴様等を排除する!!」
「何だこいつは?!村の用心棒か!?」
「はん!帝国騎士団の俺達を排除だと?!たった1人でどうするつもりだ?やれるものならやってみろ!!」
男達が馬上で余裕を見せながらニヤついていた。
「くくっ・・いいだろう。やってやろう。・・・ふんっ!」
ジンが目の前の男達に軽く微笑むと軽く手をかざした。
ヒュンッ!!
帝国騎士団の男達は何かが身体を通っていたように感じ自分の身体を見るがなんとも無いように見えた。
「ん?今何かしたのか?痛くも痒くも無いぞ?!」
どさっ・・・
「ん?・・な、何だ・・あれは・・・うえっ?!・・う、腕?!」
男は地面に落ちた腕を見て全身に鳥肌がたった・・・恐る恐る腕を動かそうとするが全く感覚が無かった。
「ま、まさか・・・まさかだよな・・・」
男達は自分の腕があった所に目をやると最悪な予感が当たった。
どさっ!どさっ!どさどさっ!!
「ぎやぁぁぁぁぁぁ!!!俺の腕がぁぁぁぁ!!」
他の男達も同じように腕や脚が地面に転がっていた。
「俺の腕がぁぁぁぁ!!!脚がぁぁぁぁ!!」
「うげぇぇぇ!!助けてくれぇぇぇ!!」
「どうしてだぁぁぁぁ!!何でだぁぁぁ!!・・・くぼぉぉぉぉ!!」
男達が絶望感に押し潰され泣き叫んでいると突然口の中に鉄っぽい味がして大量の血を口から噴き出した・・そして・・・男達の身体が斜めにズレるのであった。
「ふん!馬鹿な奴等だ・・・おっと!村の周りを汚してはまずいな!・・・よっと!!」
ジンが空に手をかざすと風が渦巻きながら降りて来た。
そして男達の身体を巻き上げ飲み込むとそのまま森へ消えて行くのであった。
そしてその場には主人のいない馬だけが残されていた。
「馬に罪は無いからな。さて!ミハエル様からの初仕事は完了だな!報告に戻るか!!」
ジンは風に乗って村へ戻って行った。
メルト村の西。上半身が褐色に光り筋骨隆々の男・・・最上位精霊ベヒモスが帝国騎士団の目の前に現れた。
「ふははは!!!我が主が住まう村を襲いし愚か者共よ!!このベヒモスが粉砕してくれようぞ!」
突然現れた最上位精霊ベヒモスに馬達が動揺して暴れ出した。
「くっ!お前等!!馬から降りろ!!一体どうしたんだ・・・」
男達は半ば馬に振り落とされてよろよろと立ち上がった。
「た、隊長!!こ、こいつ・・・今、地面から出て来ました!!」
「あぁ・・俺も見ていた。多分こいつは・・精霊だ・・む、昔団長と見た事がある・・・だが・・あれは人間が勝てる相手じゃ無かった・・」
隊長が昔の苦い出来事を思い返してベヒモスを見据えて冷たい汗か頬を伝う。
(・・ま、待てよ・・”我が主が住まう村”って言ったな・・・そ、そうか・・この村に精霊使いがいるのか・・・まずいな・・)
隊長は近くにいる部下の耳元で囁く。
(おい。いいか・・俺が奴と話す。その隙に気付かれ無いように魔法詠唱を始めろ。俺が合図したら魔法攻撃と剣技で波状攻撃だ。皆に伝えるんだ。)
(は、はい。皆に伝えます。ご武運を!)
隊長は覚悟を決めて頷くとベヒモスの前に進み出た。
隊長の心拍数は自分でも心臓の鼓動が聞こえるぐらいに跳ね上がっていた。部下からの準備完了の合図を待つ間、目の前の化け物を引きつけなければならないのだ。
「ベヒモス殿!私は帝国騎士団騎馬隊隊長アンカルスと申す!貴方はかなり上位の精霊とお見受け致す!!聞いて頂きたい!!」
アンカルスの言葉にベヒモスはニヤリと笑う。
「ふははは!!!貴様は我ら精霊を舐めているのか?!くくっ!貴様等の作戦・・・上手く行けばいいな?」
「し、しまった!!」
ベヒモスの言葉に背筋に冷たいものが走りアンカルスの全身の毛穴から嫌な汗が噴き出した・・・
「ま、待ってくれ!!!ベヒモス殿・・・」
アンカルスが手を伸ばした瞬間・・・無情にも今まで立っていた地面が消え底が見えない暗闇が広がった。
「な、何ぃぃぃぃぃ!!!」
「うがぁぁぁ・・・」
「助けてぇぇぇぇ・・・」
「ぎゃぁぁぁ!!死にたくないぃぃぃ・・・」
男達は恐怖に顔を歪めて底が知れない大地の裂け目に落ちて行くのだった。
精霊達は空気、大地、水などの振動に敏感なのである。人間の声等どんなに小さくても聞こえてしまうのである。
「ふふん!馬鹿者共め!・・さて!ミハエル様に報告だ!!!」
ベヒモスは大地に溶け込み消えるとミハエルの元へ急ぐのであった。
メルト村の北。最上位精霊クラーケンが美しい身体のラインに流れるような水のドレスを身に纏い見上げる男達を冷たい目で見下ろしていた。
「う、美しい・・・」
「一体何者なんだ・・しかし・・美しい・・」
クラーケンは男達を虫ケラを見るような目で見ると口を開いた。
「我が主ミハエル様の命により貴様達を排除します。」
「何?!まさか・・・村の奴か?!」
「お、俺達を排除する?!」
するとクラーケンは村の侵入者と対峙していたデイル達と目が合った・・・しかしデイル達はクラーケンの圧倒的な魔力に声も出せないでいた。
「あら?貴方達は我が主ミハエル様のご友人様ですね?私はクラーケンと申します。以後お見知り置きを。」
クラーケンはデイル達に温かい笑みを向けて頭を下げた。
「あぁ・・ミ、ミハエルの知り合いか・・お、俺はデイルだ。こ、こちらこそ・・・よろしく・・」
デイルはぎこちなくクラーケンから目を離さず会釈した。
クラーケンはデイル達に微笑むと対峙していた帝国騎士団に目を向けて打って変わって鬼の形相になる。
「貴様達・・・ミハエル様のご友人様に剣を向けるとは・・万死に値するわ!!!」
クラーケンが怒りに任せて帝国騎士団の男達に手をかざすと男達一人一人が水の玉に閉じ込められてもがいていた。
「ごぼぼぼぼぼ!!!!」
「ぶぼぼぼぼぼ!!!!」
「だ、だずげべぇぇ!!!」
「ふふふ・・デイルさん。私はミハエル様からこの者達を排除するよう命を受けておりますのでここで失礼致します。」
「あぁ・・・き、気を付けてな・・・」
クラーケンは男達を頭の上まで浮かすとニッコリ笑って柵の外へ降りて行った。
「ぐぼぉぉぉぉぉ!!」
「た、助けてくれぇぇぇ・・ぶぼぉぉぉ!」
「く、来るな!く、来るなぁぁぁぁ!!ごぼぉぉぉぉ!!」
柵の向こう側からは男達の断末魔の悲鳴が森にこだまするのであった・・・
デイル達はしばらくの間柵の向こう側から聞こえる男達の悲鳴を聞きながら立ち尽くしていた。
「こ、ここは・・異常無さそうだな・・・引き続き・・警戒して見回りをするぞ・・・」
「お、おう・・・」
「た、確かに大丈夫そうだね・・・」
「なぁ・・デイル・・ミハエル君は・・一体何者なんだ・・・?」
するとデイルは首を横に振る。
「詮索は無用だ!ミハエルはメルト村に住むただの子供だ!それ以上もそれ以下も無い!!ただ、皆より強いだけだ!!」
「う、うん・・そ、そうだな・・・余計な詮索は無しにしよう・・・」
村の男はデイルの言わんとする事を察して口を閉じるのだった。
「さあ!仕事だ!行くぞ!!!」
「おう!!!」
村の男達はデイルを先頭に歩き出すのだった。
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