第110話 メルト村襲撃 4
メルト村の裏手の森に待機していたゼガル率いる斥候部隊が黒いオーラに包まれていた。
「ゼ、ゼガル隊長!こ、この黒いモヤは何でありますか?!か、身体に纏わり付いて・・」
「お、俺にも分からん!!だ、だが・・・この身体の底から溢れるこの力は・・俺達にとって悪いものでは無いらしいな・・・」
ゼガルは黒いオーラが身体に纏わり付き消えて行く度に今までに感じた事の無い力に打ち震えていた。
それは今からどんな戦場に行っても敵を討ち滅ぼし生還出来る程の感覚であった。
「お前ら!!村に入るぞ!!今なら正面から入った団長達に気を取られている筈だ!背後から攻めて村の奴らを混乱させるんだ!今の俺達なら怖いものは無いぞ!!」
「はっ!!」
ゼガル率いる斥候部隊は騎馬隊の肩を踏み台にして次々と村の柵を飛び越えて行くのであった。
「「あっ!!」」
ラルとイルグが同時に顔を見合わせる。
「〈索敵〉に反応が無いけど・・この悪意は森の中で会った奴だ・・・村に入って来たよ!!」
「そうだな・・あいつだ。あいつには借りがあるからな!・・10人か・・今、デイルさん達が戦っているな!・・よし!俺達も行こう!」
「うん!あいつに借りを返しに行こう!」
ラルとイルグは頷くと悪意の方向に走り出すのであった。
ゼガル達がメルト村の柵を飛び越えて着地するとそこにはメルト村警備隊副隊長デイルが仲間5人を引き連れて待ち構えていた。
(ちっ!あのガキの言った通り探知されたか・・・)
「おい!何処の盗賊団か知らないが勝手に入って来るなよ!力ずくで出て行ってもらうぞ!!そりぁぁ!!!」
(なっ?!は、速い!!)
ギンッ!!ギギィィン!!
「くっ!!」
ずざぁぁーー!!!
デイルが村に侵入して来たゼガルに斬りかかり2合ほど斬り合うとお互いの剣圧で弾け飛んだ!
「くっ!こいつら・・・強いぞ?!・・ただの盗賊じゃ無いな?!
・・・皆んな!警戒してくれ!!何としてもここを死守するんだ!!」
「おう!!絶対ここは通さんぞ!!」
「久しぶりの実戦だ!!やってやるぜ!」
デイル達は剣の柄を握り直し真剣な眼差しでゼガルを見据えるのだった。
(な、何なんだ?!この村の奴らは?!この力を持ってしても互角なのか?!くそっ!!こうなったら・・・んんっ?あ、あいつらは・・)
「デイルさーーーん!!」
デイルが振り向けば砂煙を巻き上げながらラルとイルグが駆け寄って来た。
(くっ!あ、あいつらは・・め、面倒な奴らが来やがった・・・)
いつも冷静沈着のゼガルの眉間に全力の皺が刻まれる!
「やっぱりあいつだ!!デイルさん!あいつが森で僕達を捕まえた奴です!」
「なんだと?!あいつがお前らを?!なるほど・・・通りで強いはずだ・・・」
「あいつは魔法を使って来るぜ!!俺達はそれで捕まったんだ!もう二度と同じ手は食わないけどな!!」
そしてラルとイルグが剣を抜いて構えるといつの間にかゼガルの姿が無くなっていた。
「し、しまった!!奴は?!奴は何処へ行った?!・・くっ!ま、不味い!!あの家には!!」
デイルが悪意を辿って動き出すとゼガルの部下達が行手を遮った!!
「ふん!!隊長の邪魔はさせんよ!行くなら俺達を倒してから行きな!!」
ゼガルの部下達は剣を構えてデイル達の前に立ちはだかった。
「くそっ!万事休すか!!」
デイルが奥歯を砕く勢いで噛み締めたその瞬間!とてつもない魔力の波がデイル達の身体を包み吹き抜けて行った。
「な、何?!こ、これは・・・この魔力は・・・ミ、ミハエルか!!・・相変わらず凄げぇな・・」
デイルは全身に鳥肌を立たせながらもミハエルの魔力を感じ同時に次に何が起こるのか期待に胸を躍らせた。
「こ、これがミハエル君の魔力・・・まだ解放もしてないのに・・・凄すぎるよ・・・」
「あ、あぁ・・・こ、これで次は何をしようってんだよ?!こ、こんな魔力を下手に解放したら・・・みんな吹き飛ぶぞ・・」
そしてラルとイルグが顔を見合わせたその時だった。
蒼白い魔力が勢いよく立ち昇りデイル達の身体を包み込んだ!!
「な、何だよ・・・か、身体に力が漲って来る!!・・・す、凄げぇ!凄げぇぞ!!」
「ち、力が・・・身体の底から噴き出して来るよ!!これが・・・ミハエル君の力・・」
「この力・・ミハエル・・お前はとんでもない奴だよ・・・よし!!確かお前らを倒せば良かったんだよなぁ?!」
デイル達はニヤリと笑いながら立ちはだかる男達を見据えると、ゼガルの部下達は何が起こっているのか分からずに膝をカタカタと笑わせていた。
「ラル!イルグ!お前らは奴を追ってくれ!こいつらは俺達がぶっ飛ばす!!」
「うん!!」
「分かった!!」
デイルの檄を受けてラルとイルグはゼガルを追って忽然とその場から消えるのであった。
「あ、あれ?・・・君達は・・・どうしたんだい?」
ミハエルが目を丸くして固まっていると四人の上級精霊達が目の前に跪いていた。そしてエントが顔を上げると目を潤ませて微笑んだ。
「ミハエル様。私達はこの度のミハエル様の力により進化の壁を破り更なる力を得る事が出来ました。
皆と話し合いその御礼と尊敬の念を込めてミハエル様をサリア様と同じく私達の主としたいのです。どうかこの願いお聞き届けください。」
エントが深々と頭を下げるとそれに同調する様に他の三人の上級精霊達も頭を下げた。
「えっ?・・あ・・あの・・・」
ミハエルは跪く上級精霊達を横目に〈神精霊使い〉のサリアの顔を恐る恐る見るとサリアは肩をすくめながらミハエルの隣へ行き上級精霊達の前に立ちミハエルの肩に手を置いた。
「はぁ・・まぁ良いんじゃない?こんな力を見せられたら誰だって崇めたくなるわよ!特に精霊達が進化出来るほどの力は神様でない限り不可能と言われているわ。」
「そ、そうなんだ・・・ぼ、僕はサリアさんが良いなら構わないよ・・・」
ミハエルが戸惑いながら上級精霊達に声を掛けると四人の上級精霊が目を輝かせながら顔を上げた!
「ミハエル様!感激至極で御座います!このエント全身全霊でお役に立ちましょう!!」
「ミハエル様!!いつでもこのジンをお呼びください!ミハエル様の元に真っ先に馳せ参じます!!」
「ミハエル様!さあ!このベヒモスに”村を襲う愚か者を排除せよと!!”御命令を!!」
「我が主!ミハエル様!このクラーケンにも御命令を!!一番の働きを見せましょう!」
上級精霊達はミハエルの命令を眩しい程の期待の眼差しでミハエルを見ていた。
ミハエルはその圧力に耐え切れずに口を開いた。
「あ、あう・・・そ、それじゃあ・・村を包囲している奴らを・・・排除してくれるかな・・・・」
ミハエルの言葉を聴き上級精霊達は目を見開き唇が震え身体の底から歓喜が押し寄せていた!
「ミハエル様ぁぁぁ!!!御命令ありがとうございます!!
村を襲う愚か者で花を咲かせて見せましょう!!」
「ふふふ・・・ふふふ・・・ミハエル様!奴らを俺の風で斬り刻み森の肥料にしてやります!!!」
「くくくっ・・待ちに待ったミハエル様の御命令!!!奴等を大地の栄養にしてやります!!!」
「あぁ・・・ミハエル様からの初めての御命令・・・嬉しさの余り大洪水を起こしそうですわ!!」
上級精霊達は光悦な表情を浮かべて立ち上がると村の四方へとそれぞれ消えて行った・・
ここはメルト村から遠く離れた山賊と盗賊の観客席。
「な、何なんだこの力の波は?!こ、こんなに離れているのに・・・ま、まさか後で攻撃されないよな・・・」
山賊の頭と下っ端達がカタカタと震えていた。同じく盗賊の頭も膝の震えを押さえながら望遠鏡を覗く。
「そ、そうだな・・・メ、メルト村には・・やはり化け物が巣食っているんだ・・・だが・・多分手を出さなきゃ大丈夫だ。
そ、それより賭けはまだお互い準備段階だ・・・お、お互いがやり合った所からが賭けだからな・・・」
盗賊の頭が緊張で固まった首をロボットのようにゆっくりと山賊の頭に向けた。
「お、おう・・・そ、そうだな・・・こ、これから何が起こるか・・・た、楽しみ・・・だな・・・」
山賊の頭はミハエルの魔力に当てられながら強がりを言うので精一杯であった・・・
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