王子様と婚約するそうです。私が
「喜べ! お前に王子殿下から、婚約の打診があったぞ!」
「ほえ? お父様、冗談はお腹だけにして下さいね?
王子様は、今は傷付いているのですよ。その様な話が出るような状態ではない筈です」
「お腹の事は言わなくていい! 婚約の打診は本当の事なんだぞ!」
冬の長期休暇。
認知度が高くなっていれば王子様とのイベントがあるので帰宅しないのですが、そういった望みはすでに捨てています。
私は大人しく、男爵家の領地に帰ることにしました。
実家に帰ってきて最初に聞かされたのは、当主になったばかりの、お父様の寝言でした。
仕事用の部屋に呼ばれ、二人きりでの話し合いです。
お父様……。まだ若いのに、もうボケが始まってしまいましたのね。
メタボなお父様は、顔を真っ赤にして怒りました。
「だーかーらー!! お前の方こそ、現実を見なさい!
忘れているようだが、お前は公爵級の高魔力者なんだぞ! 資格はあるだろうが!」
そう言ってお父様は一つの封筒を取り出しました。
王家の印を押された封筒です。
お父様? 王家の印を偽造するのは死刑なのですよ?
「ふぅ。なんでこんな、話を聞かない娘になってしまったのだろうね? 兎に角、当主として話は受ける方向で進めておくので、そのつもりでいなさい。話はそれだけだ」
私は、女性に怯える王子様を見ています。
その王子様がなぜ、私を婚約者にと言い出したのか想像がつきません。
信じられず戸惑う私にお父様は嘆息し、理解を求めず、ただ事実だけを突き付けるようにしたようです。
言いたい事だけ言い終えると、自室に引っ込んでしまいました。
そうして、部屋には私だけが取り残されたのです。
もう諦めた筈の、王子様との婚約。
訳が分かりません。
王子様は女性が苦手になったのではありませんか? そもそも話など全然していないので、私の事などほとんど知らないのではありませんか?
お父様の妄想ではなく、イタズラでもなく、本当の事なのですか? 手紙は本物なのですか?
私は、頭一杯に「なぜ?」を抱え込み、答えを出せず、確認する方法もなく、その状態で長期休暇を終えるのでした。