漫才コント「説教話」
【登場人物】
部長
部下
(二人ともスーツを着ています)
部長:どうするんだ!これからお客様と打ち合わせをするときに使う大事な資料なのに!何で食べたのっ!
部下:はい、すみません。部長。実は私、やぎ座なもんで
部長:契約書は持ってきたの?
部下:ありません
部長:何でないの!なくしたの?
部下:いえ、実は契約書はなくしたんじゃないんです
部長:どういうこと!
部下:実は私が食べました
部長:またっ?また食べたのっ?
部下:はい。喫茶店に入った時に飲み物を頼んだんですが、食べ物のほうを頼み忘れてしまい…
部長:だから契約書を食べたんだっ。どうしてそのときメニューを探さなかったの
部下:すみません。気づきませんでした
部長:気づかなかったじゃすまないんだよ!君この前も仕事中ハンコ食ってたよね。何でハンコなんて食べるのっ!ねえ、何でよ!
部下:はい。私が子供のころ、ハンコくださいというチョコスナックのお菓子があったんですが、仕事中それを思い浮かべてしまい、思わず童心に帰ってしまい――
部長:――もういいっ!君の言い訳はそんなのばっかりだ。私は社長に何て報告すればいいんだ!前に動物公園でお客様を接待した時も君は木に登ったコアラを追いかけて嚙みついたじゃないか!それもお客様の目の前でだぞ
部下:あのときはコアラのマーチを思い浮かべてしまい、つい
部長:そのあとゴリラの檻をこじ開けて、足に噛みついていたよな!
部下:足の匂いがよっちゃんイカに似ていたので、つい
部長:その後は取引相手の社長の秘書の耳の下に噛みついていたよな!
部下:あの方のイヤリングの形がカールに似ていたもので、つい
部長:接待ゴルフのときは10メートル上空にとんだボールを追いかけてキャッチして、空中で停止して食べていたよな!
部下:あれはフランスのお菓子でブールドネージュという球形のものがあって、それとボールが似ていて、空中での判別がつきづらく――
部長:――もういいっ!もういいよ!そんなのばっかり!ロシアから大統領が来た時もSPをなぎ倒して大統領を食べ始めていたよね!
部下:はい。群衆の中から「プッチンが来た」と言う声が聞こえたので、つい
部長:プリンと間違えたんだ、間違えちゃった!ああ!何で食べる前に一呼吸おいて、あれは食べ物かな?と確認しないの!
部下:サバンナでそんなことをやっていては獲物をライオンやチーターにとられてしまいます!
部長:ここはサバンナじゃないんだよ!日本なの!わかる?大型の肉食動物は街にいないの。いい?小さい頃からずっと日本に住んでいて何でそんな常識もないの!
部下:いますよ!日本には伝説のゴールデンレトリバーという大型の肉食龍がいて――
部長:――伝説の龍じゃないの!あれは犬よ!性格もおとなしいの!わかる?君みたいにガツガツしてないの。むしろ君よりゴールデンレトリバーの方が常識があるよ!
部下:私が犬より常識がないというんですか!
部長:そうだよ!プーチンに噛みついたときは外交問題になるところだったんだぞ!ロシア大統領暗殺未遂事件として歴史に残ることにはなったけども!まだそれで済んだからよかったんだよ!
部下:はい、すみません
部長:そのあとは係長をかごにいれて買い物してたよな!
部下:はい、バーコードがあったものでこれも食べ物かな、と
部長:あれは係長の髪型だよ!君はねえ、何か見たときにいつも重要なポイントだけ見て判断する傾向があるんだよ!他は見ないんだ。そういうのを何というか知ってるかね!「木を見て森を見ず」だよ!
部下:ええ。こだわりが強いって人からよく言われます
部長:君はいつもどういう心理状態で相手を特定してるのかね!
部下:まずターゲットを見ます
部長:ターゲット!ターゲットなんだ。狩りが始まってるんだね。それがもういかん。普通に何かを見ます、というふうにとらえられないのかね!それからっ?
部下:ざっと全体を見て、目印をさがします
部長:それだ、それだよ!そういうところがいかんのだ。目印なんてさがしてどうするのかね。いらないよ!次はっ!
部下:目印を見つけたらそこにフォーカスしていき、周囲はぼやけます
部長:ほら見なさい!それがいかんのだ、もう金輪際、そういうのはやめなさい。そしてっ?
部下:0.01秒で目印が食べ物に見えてくるのです
部長:自然に食べ物になっちゃうんだ!そこを制御できないのかね!そしてっ?
部下:そのあとは後ろ足で大地を蹴って接近し、前足でターゲットをとらえます
部長:動物じゃないか、君!わかる?その狩猟本能をどうにかしなさいよ!
部下:はい、子供のころは草食になろうと悩んだこともあったんですが、精神医学の本を読んだり、「アナと雪の女王」を見たりして、あるがままでいいんだと思うようになってから気が楽になりました
部長:あるがままになっちゃダメなんだよ!それは一般人の話なの!君は特殊なの!
部下:はい
部長:ほんとにわかったの?
部下:わかりません
部長:だろうな! 完