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雷記念日



「姉さん、何してるの?」

「………座禅よ」



白いズボンに白い服を着て、真剣な顔で瞳を閉じて何故か床に座り脚を組む彼女を見かけたのは……東屋の中。



「……ザゼン…って、よくわからないけど、なんでこんなところで?」


相変わらずたまに思い立ったようにする彼女の謎の行動理由もわからず、とりあえず質問すれば、ゆっくりと目を開けてこちらを黒く凛々しい双眼で見つめてくると、



「なんかほら〜……洋風の室内だとちょっと違うなぁ〜って気がして、なんとなく自然の香りを入れるってソレっぽいかな? とかなんとか?」



相変わらず曖昧な行動理由に眉尻を下げれば、「いやいや!わたしにも理由があってね!?」などと、這いずって聞いてもいない言い訳を始めるのは、きっと足でも痺れているのだろう。



「チャーラン☆ さてここで問題です。お姉ちゃんの苦手なものはなんでしょう?」

「……長いこと真剣になること?」

「ぶっぶーー残念☆」



さっきまで真剣な顔が崩れて、人差し指を左右に振って、謎の音で間違いを表現されると、



「もう一度チャンスをあげます! テテテテテテ……テーレンッ☆ ハイ・シルクさん!!」


「……雨?」



相変わらず謎のリズムにとりあえず答えれば、今度は笑って、



「正解! 100ユリエルポイントプレゼントです!一億ユリエル目指して頑張って下さい!」



そんな謎の楽しそうな答えに笑いが漏れてしまうから、この人はこのままなのだと思うが、それでも笑えば彼女も笑う。




「それでそれがザゼン…?と、なんの関係があるの?」

「心頭滅却して感情の昂りを抑える練習を日々積み重ねてるのよ。ふっふっふ……秘密の特訓がバレてしまったようね……さすがシルクだわ」

「いや、今自分で言ったからだよ……?」



そんな言葉は聞こえているのか居ないのか、いや、聞いてないふりしてるだけなのはわかってるけど、あえて何も言わずに入れば、頬に指を当てて少し照れくさそうに笑って話し出してくれる。



「あのね、何故だかわたくし、怒りのボルテージが跳ね上がると雨雲呼んじゃう特異体質じゃない?」

「……それは特異体質程度ですませていいものなのかな?」

「ん・まぁ、その辺はどうとして」

「どうとされた……」



僕の言葉は無視されたまま、彼女は座ったまま腰に手を当てて胸を張ると、




「なので特訓してましたの!」


「つまり心を落ち着かせる特訓をして、それで天候を変えたりするほどの感情の昂りを起こさないようにしようと?」


聞けば下手くそすぎるウインクで「ピンポーン☆大正解ですわ!」と、両手で頭の上で丸を作った。



「そっか……それで成果は?」

「ふふふふふっ、見てごらんなさい、考えてごらんなさい、感じてごらんなさい! 最近のわたくしは雨雲よんだりなんてしてないわ」



胸に手を当てて物凄く胸を張ってシタリ顔で告げる彼女の横に行き、微笑みを向ける。



「そうだね姉さん」

「………シルクさん。出来たら今はあまり近付かないで頂ける?」



整ったその頬が引き攣るのを見逃さず、



「姉さんは僕が近付くのが嫌なのかな?」


「いえ、そんな訳ではないのよ?で、でもねぇ?」



ホホホと笑いながら身体を逸らしていくくせに、足はあまり動く様子がなく、そっとその白い足へと触れれば、



「〜〜〜〜ーーーーーッッッ!!!!!!」



声にならないその声に、僕も思わず自分の口を抑えて笑えば、恨みがましい涙目でコチラを見てくる。



「酷いことするわね!」

「姉さんが逆の立場なら絶対やるよね」



クスクスと笑って言えば、一瞬考えた後に、

「……うん。やるわね」などと真面目な顔で言うのもまた可笑しい。



「でもシルクはやっちゃダメ!」

「なんで?」

「痺れてるからにきまってるでしょう!?」



這うように逃げるその足に触れれば、「シビビビビビビッ」と、謎の奇声を上げると、



「シーールーーークーーーー?!」



と髪でも逆立ちそうな顔で……しかし涙目で振り向けば、空がどんよりと曇り始め……、



「姉さん、シントウメッキャク・シントウメッキャク」


そう笑えば、唇を噛み締めて瞳を閉じて……その足に触れると、勢いよく目が見開かれ、



「今のは僕じゃないよ?」


そう笑って両手を上げて言えば、現れていた黒豹姿のクロモリの尻尾がサワサワとその足に触れている。



「う……っ、クロモリ、今ね、わたくし……」



なんとか説得しようとクロモリに話しかければ、クロモリが彼女に向き直し鼻先をその顔に近付け前足が……その足の上に乗った。



「………ッッッ!!!!」



その身に掛けた電気のような痺れのせいか、彼女の後ろで一つ稲妻が光れば、クロモリは心配してるのか前の両足を乗せてその頬を舐める。



「………そうッッじゃ、ないの、ですわ……」



怒るに怒れず、ただただ堪える姿に思わず吹き出せば、涙目でこちらを見る彼女はなんと可愛らしいことだろうと、やっぱり堪えられずに笑ってしまう。



そしてその足にクロモリの足が動くたびに光る稲妻に、



「シントウメッキャクはどうしたの?」と聞けば、「痺れは滅却出来ませんっ!!」


そう言って情け無い顔でクロモリを前のめりに抱きしめて、無理矢理脚を上げたなんとも間抜けな格好のその姿に、そっと氷を落とせば、やっぱり声にならない声を上げてクロモリを抱きしめた。




6月26日は雷記念日です。


久々のセルリア家ののほほん生活なお話でした。

読んで下さりありがとうございます。



「無理矢理脚を上げたなんとも間抜けな格好のその姿」は、家族にしか見せない無様なユリエルの姿は、読者様のご想像にお任せいたします(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 調べてみたら割とアレな故事に基づく記念日だった 雷を操るという点でユリエルはこの故事の中では菅原道真だね
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