* ある団欒のお話
カルヴァルカ国に行くちょっと前のお話。
シルク目線
「下さい」
「……何を?」
「シャクシャクの氷よ!」
人型のクロモリと二人でお皿を持って、僕の執務室に来た2人を呆れ顔で見つめ返す。
「来客もない事はダラスにも確認済みで、仕事がひと段落ついてそうなタイミングのお知らせを聞き馳せ参上致しましたわ!!」
「クロモリも 聞いて 来た」
その綺麗なお皿を二人で出してくるのを……、確かにタイミングは計られていたらしく「手が冷えるといけないから」とテーブルに置いて、そこに雪の様な氷を乗せれば、二人の顔がパッと明るくなる。
「氷を食べる時期にはまだ少し早いんじゃない?」
「さっきまでちゃんとポブコフ夫人も来られてて、ちゃんと教育も受けて宿題もやったのよ。その宿題中にクロモリと話してて、あーシャクシャクと甘ぁい氷食べたいねってなりまして」
「そしたら クロモリ 食べたくなった」
既にその手には厨房から甘そうなシロップが持ち込まれていて、彼女は手際よく僕にもお茶を淹れてくれたので休憩がてら共に頂くことにする。
「ん〜っ美味しい!今日は天気もいいしね。もう少しで雨の季節も終われば夏到来ね!ねぇねぇ、シルクはリランさんトコに行く準備した??」
「リランさんトコって…」
そんな気楽な友達のように言うその姿は、相変わらずリラン王太子としてではなく、リランさんのままなのだと天真爛漫なその姿に頬が緩んでしまう。
「ね・ね!楽しみよね!!わたくし生のお魚食べるのよ。楽しみ〜!」
「オサシミだっけ?僕はどうかな…食べたことないからね」
「絶対美味しいから食べた方がいいわ!」
「姉さんはあるの?」
勢いよく言ってきた割に聞き返せば目が泳いで、「無いかもしれない」と、何故か少し挙動不審な様子は問い詰めれば逃げられるのかもしれないと、溜め息を内心に隠して「そうだよね」なんて会話を終わらせる。
僕に対して隠し事の下手すぎる事は気付いているのか居ないのか、ホッとした様に「買い物をするのが楽しみ」「お土産は何がいいかしら」とか会話を逸らしてやはり楽しそうに笑っている。
「それでわたくし、この旅行では計画的に同じ部屋に泊まろうと思って」
胸の前で拳を握って突然言い出した言葉に咽せそうになりながら、
「…誰と?」
「勿論ミラよ!ミラって真面目に貴族だから、なかなか馬車すらも一緒に乗ってくれないし、この前泊まりに来てくれたのだって、きってシルクかお父様のわたくしの足止め作戦なのか、翌日にスムーズにドレスを着せてあの場に行かせる為でしょう?」
鈍い様で鈍すぎないその推理に苦笑いを返せば、やっぱりねとでも言うような笑みを浮かべられる。
「シルク おかわり」
「だめよクロモリ。食べ過ぎて冷えてお腹壊したら大変よ」
「小さな頃の姉さんみたいにね」
「…!!」
口をパクパクさせて「それは内緒よ!!」なんて伝える顔は赤くって、ついつい笑いが溢れれば更に顔を赤くされてしまった。
「なんだシルク、今日はユーリが来てるからちゃんと休憩を取ってるんだね。ダラス、僕にもお茶を」
執務室に来たお父様は、後ろにいた執事のダラスに告げれば頭を下げて準備に向かうその背に、
「そうだ、ロズにも伝えてくれ。折角だ、ロズもたまには此処でお茶をさせてあげてもいいかな?」
「勿論ですわ!」
答えたのは部屋の主の僕ではなくて苦笑いを返すがそんな事を気にせず「みんなでお茶なんて久しぶりね!」と嬉しそうに微笑まれたら頷くことしか出来なくて。
運ばれてきた温かいお茶は、やはり氷で冷えてたらしいその顔に赤味を差して、そして家族の会話が始まれば、幸せそうに微笑むその顔を横目で眺めた。
4月25日は「拾得物の日」です。
……とっくに書きながらもボツにするつもりだった話。
どうしようかとカレンダーを見れば、本日「拾得物の日」!!…ということで拾わせて頂きました!!!
平和なセルリア家のお話でした。