バレンタインデー
「ユリエルくん、貴族街のオススメお菓子だと聞いたんだ。これ良ければどうぞ」
「まぁまぁそんなお気遣いを…、わざわざありがとうございます」
朝、騎士として馬車で迎えに来られたレイさんは麗しい笑顔でコッソリと綺麗な白い包のプレゼントを下さった。
「ユリエル様、学園に来るまでに薔薇を売っておりまして、貴女様にお似合いになるかと思いまして買わせて頂きました。宜しければこちらもどうぞ」
「くっ…!なんだか黙っていたなら悔しい程に似合いますわねっ。…いえ、なんでも。むしろ聞こえなくて良かったですわ。有難う御座います。…うふふ、綺麗ですね」
学園に着くなり、シルクが生徒会室に先に行った間に現れたベレト先生の珍しい行動に驚きつつも久々の花のプレゼントに頬が綻ぶ。
「ゆりえるさまぁ〜。ぼく今日お砂糖とお水でお菓子作ったんだぁ〜食べてぇ〜」
「あらぁ。べっこう飴?懐かしいわ有難う」
昼休みになる時に研究室に声を掛けたら、カフィは笑顔で甘い甘いソレを笑顔で口に入れてくれるのを流れる髪を抑えて頂いた。
「姫さん、コレ試作品やて。なんや変わった味のプリン。あげるわ」
「まぁ〜有難うございます」
食堂へ行く途中の購買を覗けば、タイミングよくお客さんが途切れたタイミングでロットさんが渡してくれた。
「あ…あの、ユリエルさん。国の…お菓子が届きまして…宜しければその、どうぞ」
「あらあら〜珍しいお菓子。ありがとうございます」
「あとこれ…」
アベイルさんのお菓子と共に渡された手紙を開けば『ユーリちゃぁぁん♡リランから愛の込めたプレゼントよぉ♡』可愛い靴下と共にそんな嬉しいメッセージも付いていた。
「お嬢ぉ、なんじゃぁ、その、アレじゃぁ、お菓子をそのアレじゃ、おすそわけ?ってやつじゃぁ!」
「あらまぁ、嬉しいわ。有難う御座います」
何故か辿々しく言うグラヴァルドさんに笑顔を返して受け取れば、可愛らしい小さなリボンのついたジャムのようだった。
「ユーリ…あぁよく似合うな」
帰りに馬車に乗り込もうとしたところで、ロイさんに突然ブローチをつけられて驚けば、甘い笑顔で言われて思わず頬が熱くなる。
「気をつけて帰れよ」
そして家に帰れば、手元には一つ一つは大きくないけれど、誕生日でもないのに沢山のプレゼント。
「偶然にしても被りすぎじゃないかしら?」
「お嬢様、本日はバレンタインという日です」
「バレンタイン…!!!」
前世では女性が男性にチョコレートを上げる日だったが、アナに聞けばこの世界では男性から親しい異性にプレゼントする日だと最近流行り始めているらしく納得する。
「にゃるほど…みんな流行に敏感なナウなヤングだものね…」
うんうんと頷いて、照れ屋さん的には素直に渡しにくかったのだろうと、『お菓子』と言っていたのに明らかに買った様な可愛らしいジャムのグラヴァルドさんや、珍しいチョコレート味のプリンのロットさん。
レイさんの白い陶器に入ったスフレのようなお洒落なお菓子に、少し異文化の雰囲気のするアベイルさんのお菓子や、リランさんのお洒落なストッキングのような靴下。
学園で食べたカフィの甘いべっこう飴に、ロイさんに頂いた宝石のついた素敵なブローチ。
そしてなんとなく最後に見つめる先は…、
「………いや、なんかそう思うと気持ちが重く無いかしら?気のせいよね?気のせいだわ…」
朝買って来たと言う割に改めて見ればリボンまでもレースが重ねられた凝った作りのベレト先生からの赤紫の薔薇の花束。そして………思い返せば、さり気なくベレト先生の手首にもリボンが付いてた……気もするけど気のせいだと見なかったことに記憶から消す。てゆーか『こちらも』って言った!?『も』って何かしら。レイさんのプレゼントがあったからだと思ったけど、先生はレイさんから頂いた事を知らなかった筈だし…!?ならば『も』って…!?…………改めて記憶から抹消することにする。
「でも皆さん心を込めてくださったのよね」
珍しく頂いた沢山のプレゼントのその気持ちが嬉しくて頬が緩んでいれば、コンコンとノックの音が聞こえる。
「ユーリ、ちょっといいかい?」
「お父様?」
呼ばれて向かった先は食堂で、ディナーには少し早いと思いながらも会話を愉しみながら歩いていけば、扉の前にはシルクと人型のクロモリ。
二人はお辞儀を一つすると観音開きのその扉を開ければ、綺麗に飾り付けられたまるでパーティー会場の様なその部屋に目をぱちくりとさせれば、先に入っていたお母様が手招きをする。
「うふふ、ユーリ。お父様とシルク、それに屋敷のみんなからわたくしたちへのプレゼントですって」
驚いて声を上げることも出来なくなったのは目の前の色とりどりの料理や、どうやっているのかチョコレートの滝?マウンテン?ファウンテン?なんか前世でテレビで見た様なそんなものまであって…、部屋には生花もいつも以上に飾られている。
きっと驚く顔でも見に来たのか、ダラスや執事達、それに屋敷の中にはあまり来ない庭師のトーマスも来ていて…
「驚いたわ…あはっ、バレンタインってやつなのかしら?嬉しい!ありがとう!」
驚いて言葉少なくお礼を告げればみんなが嬉しそうに微笑み返してくれる。
「エリュー、はい。」
苺にチョコレートをつけてクロモリに口に運ばれ食べればクロモリも嬉しそうに小さく小さく微笑んでくれるその姿をギュッて抱きしめて。
跳ぶようにお父様もシルクも抱きしめて、使用人の皆んなに片っ端から握手と御礼を告げればみんな嬉しそうに笑ってくれて。
そしてクロモリが嬉しそうに運んでくれる食べ物をその手から食べていれば、シルクに少し呆れたように口元をハンカチで拭かれて、
「口元ついてるよ。クロモリもあげるならもっと丁寧にあげなよ」と、何故か見本という名のわたしへの餌付けを始める。
「ちょっと待とうかシルク。ユーリはさっきから甘いものばかり食べ過ぎだ。ユーリ、お父様のサラダを食べなさい」
などと言うと何故かお父様にも口に運ばれて、クロモリが不満気にぎゅむぎゅむとサラダの入った口にイチゴを入れてくるところに「いや、姉さんは何気に普段からバランスの良い食事ですので、たまにはいいんじゃないですか?」とかシルクも珍しくお父様に言い返す。…いや待って目の前にめっちゃランダムに色々くる。
「そんな食べられませんわ」
なんとか騒がしい中で飲み込み言えば、
「よし分かった!ユーリ、誰の膝の上で食べるんだ!?」
「わたくし幼児じゃありませんわよ!?」
お父様の言い出した言葉に何故そうなったのか驚いて返す。
「エリューはクロモリの上」
「クロモリは背中だろう?仕方ないなぁ、姉さん。お父様の膝じゃ流石にもう年齢的にも恥ずかしいよね…僕でいいよ」
「まてシルク、年齢を言うのはずるく無いかな?お父様はお父様だからいいんだよ。弟の膝より僕の方がいいよねユーリ?」
謎の親子喧嘩なのか面白掛け合いなのかを始めるお父様と義弟と愛息子に頭を痛めれば、スッと横にダラスが現れ、
「旦那様もシルク様も…仕方ありませんね。お嬢様、このダラスでよろしいですか?」
「いやいやお嬢様、幼い頃からのお友達と言ってくれたトーマスの膝はもう歳ですからな、この先では無理かもしれんので、今日を最後と膝に乗ってみますか?」
「……ぷっ☆ あはっ…あははっ!みんなわたくしを幾つだと思ってるのかしら!?」
悪ノリ始めた人達まで居ると思わず吹き出してしまえば、家族は苦笑いを、そして周りの人々も笑みが溢れる。
いつの間にかお母様後ろから抱きしめられながら、
「ユーリちゃん、幸せねぇ〜」
なんて言われて、満面の笑みで頷いた。
2月14日はバレンタインデーですね!
あとベレトの誕生日。
ハッピーバレンタイン!