爪切りの日
「爪切りの日よシルク」
「うわぁ…まだ覚えてた…」
爪用の小さな鋏を持って部屋の前に現れた姉さんに、きっと僕はとても疲れた顔を見せてるだろう。
「ここ数年は用事でお父様と出掛けてたり中等部が忙しいとかで、帰ってくるの遅くてできなかったけど、甘かったわね!!わたくし、高等部に入学いたしましたわ!!今日のシルクのスケジュールは把握済みよ!!」
「忘れていいよ…この日だけは僕の爪切っていいとかそんなルール」
「クロモリは魔力のせいか無駄に爪伸びないのよね」
「前も言ったと思うけど、姉さんの魔力を切って捨てるのやめて!?」
涙目になれば「でも約束したでしょう?」と、7つの頃の約束を持ち出される。
「したね!たしかにしたよ!でも僕ももう成人したから!爪を姉に切ってもらうほど幼くないよ」
「ならわたくしに甥でも姪でも孫でも連れてきて頂戴な!!猫可愛がり…はクロモリにしてるから、激可愛がりしてさしあげますわ!!!…………シルク?え?なんか悪いこと言った?ご、ごめんね?」
チーーーーン ときっとそんな効果音が聞こえるほど壁にくっついて悪気のない姉の言葉をなんとか堪える。
「うん。僕の爪切って…もう、いいから」
「わたくしも成人しましたし、大人のテクニックお見せしますわ!」
「もうヤダこの人…」
言い方ってものを考えて欲しい…。
「…切りにくいわ…っ!!」
爪切りといえば、小さな爪切りの用の鋏。
きっと未だに小さな手のつもりで僕をソファに座らせて向かい合って切り始めてみたものの、腕も、手も伸びているせいか、悪戦苦闘してる。
まぁ5年くらいは逃げてたからね。
「なら諦めて?僕としてもそんな不安げに鋏をうろちょろさせてると怖いんだけど」
「自分の手なら簡単なのにねぇ…あ、そうね、自分の手ね!」
「そ?諦めてくれた?」
そうホッとしたように手を引くと真横にペタリとくっついて手を掴む。
「姉さん!?」
「ほら!これなら自分の手と同じ向きだから!!切れるわ!!」
ナイスアイデアとばかりに目を輝かせて言われて、諦めたように手を出した。
「最初っからそうすればいいのよ」
「何様なの?」
「お姉様よ!!」
「はいはい…」
僕の右側に座って、右手を掴んでパチリパチリと爪を切る。
「ふう…なんとか無事終了ね」
「はい、お疲れ様でした」
「じゃ、次左手…」
「……はい」
諦めて手を出せばやはり切りにくいのか鋏を右往左往してる。
「切りにくいならいいよ。もう片手切ったし、いいでしょ?」
「いやよ!また5年後とかまで逃げるでしょ?」
「そしたらその頃僕21だよ?流石に姉さんに切られないよ」
呆れたように言えば、勢いよく立ち上がり、僕の前を抜けどこかに行くのかと思えば…逆隣へ座ると、僕の手をその身体に巻きつけるようにし脇に挟み、
「これなら切れるわ!!」
また目を輝かせる。
「いや、姉さん…流石にこれは……」
密着度が強すぎると、困って思わず開いた扉を見れば、通りすがりの執事長のダラスと目があった。
「違ッ…!!」
と叫ぶが、ダラスは無言で親指を立てて一つ頷いて通り過ぎていく。
「……終わったわ!!!どう!?なかなか綺麗でしょ?」
そう言って僕の手を掲げて至近距離で微笑む彼女に「僕は来年から今日は居ません!」と宣言すると、信じられない物を見る顔をされる。
「てゆーか、僕成人だから、この歳なら親でも切らないからね!!?」
「爪のコーティングする人には切らせるじゃない!!」
「あの人達はプロだから!!姉さんみたいに鋏持ってウロチョロしたり……」
密着してきたり…
「しないからね!」
「ならわたくし資格を取ってきますわ!!ちょいとお稽古増える程度屁でもありませんわ!」
「口が悪いし、なんなのその無駄な努力!?」
「やるなら全力投球ですわ!」
…そうだった。大変な王妃教育さえ、こっそり一人で陰で嫌だなぁとか言いながらもモノにした人だった…
言えばきっと本気で手に職つけて戻ってきそうだ。
「はぁ…まぁちゃんと切ってくれるなら、高等部の間ならいいよ…」
「やったーー!!この爪切るのクセになるのよ!!ロイさんの爪は流石に切ったらダメかしら?」
「王家の人を傷つけそうなことしないで!!」
それだけじゃないけど。
「やっぱりそうよねぇ〜…アナに頼んだら取り付く島もなく断られたわ」
「僕もそうしたいんだけど…」
項垂れて言えば、頭を撫でられ、
「残念ね!シルクが誰が素敵な人を連れてくるまで、貴方は私の可愛い義弟だもの」
そうニッコリと笑う。
「……は〜〜〜〜ぁっ」
僕のでっかいため息に、彼女はまた楽しそうに笑った。
1月7日 「爪切りの日」
だそうです。
今日突然書きたくなった上に、この〇〇の日縛りの当日あげないといけない罠ww
楽しいです!!!