ホットケーキの日
「……姉さん…、何をどうしたらそうなったの?」
「……ホットケーキ…って、爆発するのね」
「しないよ?」
厨房から出てきた姉の頭はクシャクシャに巻き上げられ膨らみ、口からコホリと煙を吐いた。
「アナに直してもらってくる…」
「それ直るの!?アナは技術はどうなってるの!?」
ショボショボと部屋へ帰る姉は「こぼれ話と番外編は、ギャグテイストだからきっと大丈夫…」と、よくわからないことを呟きながら去って行った。
そして姉の去った厨房には片付けに奔走する使用人達。
「…お疲れ様…」
思わず掛けた声にみんなは僕をを見ると、
「いいえ!お嬢様のされることですから」
そう言って楽しそうに笑ってまた働き出した。
「…あと、ついでに忙しいと思うけれど…」
願いを言えば、驚いた顔の後に嬉しそうに頷かれた。
「むむぅ、どこが間違えたらああなるのかしら?ふくらし粉が多かった?それとも魔力の関係?いや光と闇の魔力で起きる?そんなこと…無きにしも非ず??」
「姉さん、ちょっといい?」
彼女の部屋をノックをすればアナが開けてくれ、彼女はそんな事にも気が付かずに難しい顔でうんうんと唸りながら、しかしその顔も髪型もいつも通りに戻った彼女を不思議に思いながら声をかければ笑顔を向けられる。
「なぁにシルク………え?手に持ってるのはもしかしてホットケーキ!??」
「……うん」
少し照れくさいと少し辿々しく出せば、驚き顔とすぐに察したのか花の咲く様な笑顔を向けられた。
「もしかしてシルクが作ったの?」
「そう、簡単だけどね」
料理と言えるほどのものでは無いと困って言えば、彼女の頬が大きく膨らむ。
「それで爆発を起こしたわたくしに言う言葉じゃなくてよ!?」
「あの工程で何故爆発をするのかがむしろ聞きたい」
思わずジトッとした瞳を向けて伝えた正論に、彼女は何故だか得意げに胸に手を当て「それを今考えていたところよ!」と胸を張る。
「凄いね」
「わたくしも自分でもそう思っていたところよ!…それで?わたしが食べてもいいの?」
楽しそうに笑うその顔に頷けば、僕の手からお皿を取ってそのまま踊る様にテーブルへと置いた。
「うふふ〜!シルクの手作りだわぁ〜!」
ナイフとフォークはいつの間にかアナが並べてくれていて、それを手に取り嬉しそうに笑えばいつの間にかその隣にはクロモリ。
「クロモリ…も、食べたいわよねぇ」
コクリと頷く召喚獣に、彼女は顔には出さないがなんとなく残念そうな雰囲気を感じて、
「クロモリの分もあるよ。はい」
準備していた分を出せば、クロモリは人型なのに尻尾と耳が現れ立ち上がると、いそいそと近づいて来きて嬉しそうに受け取り、頬をベロリと舐められた。……ごめんクロモリ。それ、君は嬉しさや感謝の表現なのだろうけど、僕は嬉しくは無いんだ。
そっとハンカチで拭いた頃、楽しそうに「いただきます」と彼女がジャムをかける。
「クロモリも味付けするのね?」
彼女の行動を見ていたクロモリに姉がジャムを渡せば、重なった丸いホットケーキを横に並べて、そこの中心にジャムを落とし……
「えりゅーのおっぱい」
「ゴフッッッ」
思わず咽せてしまったが、その当の主人は、
「成る程!!自分で考えたの!?アートね!!!」
何故かベタ褒めを始めた……。
「クロモリ…食べ物で遊ぶならこれは無しだよ」
呆れて取り上げてしまおうかと思えば首を傾げて、
「なんで?えりゅーのおっぱいはもっと色が薄…」
そこまで言ってパンッッッと勢いよくクロモリの口を抑える主人の姿にクロモリはそのまままた首を傾げる。
「クロモリ、えぇっと、プライベートゾーンとやらの話から始めなきゃいけないわね……」
耳まで赤いその姿は珍しくて思わずクスリと吹き出せば、歯を食いしばってこちらを見るので笑って「それじゃごゆっくり」と、部屋を出た。
後からとても美味しかったと、まるで何事も無かったなかったかの様な感想を貰ったが、僕はその時間まで仕事に明け暮れて、秒単位の休憩も取らなかったのはわざわざ言う必要も無いことだと思う。
1月25日はホットケーキの日でした。
子供って悪気なく凄いこと言うことあるよね。ってお話でした。(190強の褐色猫耳美形なのはおいといて)