初夢
タイトルでオチはバレてますので、頭を空っぽにしてお楽しみください。
自室で寛いでいれば部屋の扉が開き、黒豹姿のクロモリがいつかの富士山ドレスを背中に乗せて歩いて来た。
「クロモリ、ありがとう!それはわたくしのドレスだわ!!」
久々に見つかったドレスに嬉しくて駆け寄ればクロモリに首を振られる。
「クロモリだけど、クロモリじゃない。クロモリは鷹」
黒豹姿なのに喋ったことに驚けば、その背からは羽が生えて、富士山ドレスを背中に乗せたまま鷹になって飛んでいってしまった。
「クロモリ!!どこへいくの!?ご飯までにはちゃんと帰ってくる!?」
「姉さん、どうしたの?」
窓から叫んだところで掛けられた声は飛行に走った我が子の助け舟だと振り向けば、シルクの端正な顔立ちがあるはずの場所には代わりに大きな茄子が付いていて…………ただヘタが銀色だわ…。
「シルク!?どうしたのその顔は!?つるりとしちゃってまぁ!スベスベお肌だけど羨ましくないわよ!?」
「だってナスビだからね」
「懸賞で生活でもするの!?」
「ちょっと姉さんが何言ってるかわからないなぁ」
わたしもこの茄子からどうやって喋っているのかわからなくて困っていれば、わたしと茄子…いや、わたしとシルクの間に開いた扇が入り込んできた。
「オホホホホホ、ユーリちゃぁん。ナスビになったシルクちゃんなら頂いてもいいわよねぇ!」
どこから現れたのか面を喰らって、その扇で視界が覆われている間に窓の外に移動されたらしく、急いで視線を移せばヘリコプターから吊り下げられた縄ばしごに全身タイツに腰にスカーフの様なものを巻いたリランさんが捕まっていて…そのもう片方の腕には大きな茄子になったシルクが赤子の様におくるみに巻かれて抱き攫われていく。
「リランさん駄目ですわ!!茄子でもヘチマでもシルクはシルクだもの!」
「なんだユーリ。シルクよりヘチマがいいのか?」
「そんなこと言ってませんわ!!ロイさんどうかシルクを助け…」
振り向けば煙草を咥えてアベイルさんの頭を剃髪するロイさんが居る。
「何をしてますの!?!?」
「頭を丸めたいと言うからな」
「アベイルさんが何をいたしましたの!?」
慌ててその顔を見れば、何故か眼鏡ではなくアイマスク。
「アベイルさん!?」
「ユリエルさんボクは気が付きました!皆さまのお顔を見ると緊張するのでこうして見ないと大丈夫です!!ボクはすっごく元気になりました!!」
「誰!?!?」
ヒナタさん張りの元気な声でいうアベイルさんの青髪は剃り落とされてアイマスクでハキハキ喋るアベイルさんはなんだかアベイルさんではなく、動揺を隠しきれなければリランさんとシルクが消えた窓の方から声が聞こえる。
「お〜姫さん、どないしたん?」
「ユリエルくん、困り事かな?」
「ゆりえるせんぱぁ〜い、相談に乗るよぉ〜」
「お嬢ぉよぉ〜!ワシにまかしとけぇ!!」
そちらを見れば空中の豪華な宝船に乗った彼らは…ロットさんは鯛と竿を持って、レイさんは琵琶を持ち、カフィは米俵に乗り打ち出の小槌を持って、グラヴァルドさんは兜と武器を持っていて…きっとロットさんが恵比寿様でレイさんが弁財天様、カフィが大黒天様、グラヴァルドさんは毘沙門天様なのだと、そんな神様達に縋る想いで「シルクを助けて下さいませ」と願う様に手を合わせて告げれば、
「せやったら彼らがええわ」
そう言ってロット恵比寿様が言うと、後ろにいたこちらから見えなかった三人の神様が突然わたしの目の前に現れれば、それは少し丸みを帯びて大きな袋を持ったベレト先生に、頭の形が伸びたベレト先生に、桃を持ったベレト先生。
「多いッッッ!!!!!!」
思わず叫べば、
「ユリエル様」「ユリエル様」「ユリエル様」
「なんでも」「このワタクシめに」「お申し付け下さい!」「喜んでやらせて」「頂き」「ます!!」
リンクしてるやらしてないなら誰が喋ってるやら喋ってないやら、とりあえず七福神の寿老人様、福禄寿様、布袋様に囲まれてヒィィと涙目になれば、後ろから肩を叩かれ振り向くとそこにはミラとヒナタさん。
「助けて…!」
「わかったわ…はい」
「ユリエルさま!それでなんとかして下さいね!」
そう言って渡されたのは札束で、これは違うと首を振って改めて見ればもうミラもヒナタさんも消えていて…
相変わらずわたしの周りには三人のベレト神様で、恵比寿様はわたしの部屋に次々に財宝を他の神様に手伝って貰い運び込ませ、今度は横の窓からフードくんが「ユリエルに土産だ」そう言って鳥居を投げ込んでくるのを、慌てるわたしとは対照的にわたしに巻き付いたジュリが嬉しそうに左右に揺れながら見ているのを、どこから対処していいのかそしてシルクとリランさんがどこに行ってしまったのか心配で………
「姉さん…大丈夫?」
「ふぁっ!!!?シルクこそ大丈夫!!?」
気が付けば目の前にシルクで、その茄子ではない顔を両手で握る。
「そんなに掴むと痛いんだけど……。そうだ、凄く姉さん魘されてたってアナに聞いて…、勝手に部屋に入ってごめんね」
「あぁ…そうなの?……大丈夫よ」
ヘタではないそのサラサラの髪を思わず撫でて言えば、困った様な笑顔を浮かべられてしまう。
「どんな夢を見てたか…聞いてもいい??」
申し訳なさそうなその顔に、改めて夢を思い出せば………………
「………ものすんごい縁起の良い夢???」
「魘されまくってたけど!!?」
「いや、魘される気もするし…駄目だわ。夢はすぐ朧げになっちゃって…」
思い出そうとすればするほど、夢は消えていく気がする。
「なんだか…シルクが茄子で…リランさんに攫われて…?」
「うん、完全に朧げで曖昧になってるね」
苦笑いのシルクに確かにそうだと笑い返せば、やっぱり笑われて、なんだかつられて二人で笑う。
「起こしてくれてありがとう。おはようシルク」
「おはよう姉さん」
そうして爽やかな朝は今日も始まった。
あけましておめでとうございます。
1月2日の夜に見る夢が初夢とされてるのが一般的だそうですが、何日でも初めて見た夢が初夢説もありますし、その辺の定義は曖昧なところがあるようなので、遅れたのではなく、今日が初夢の日なのだと言い張ってみます!
縁起の良いとされる「一富士二鷹三茄子」それの続きが「四扇五煙草六座頭」だそうです。
あと七福神やお金、鳥居や蛇の夢もいいとされている様なので、ユリエルの夢はとんでもなく縁起がいいのかもしれません…?