姉の日
「ねぇねぇ、ミラ姉様!ユリエル様と友達なんだろ?」
「ヒュー…口の聞き方をキチンとなさい」
まだ7つの弟のヒューゴはヤンチャ盛りで、屋敷の図書室で本を読もうと向かっていれば、パタパタと走りながら話しかけらた。
「おれはしゃこうかい?とかにもまだ行かないからいいんだよ。でもこの前母様に連れて行って貰った茶会で、ちょっと歳上のやつらが『ユリエル様って凄い美人だ』って言ってた」
「そう…」
なんだか誇らしくて笑みを返せば…キラキラとした目で食いつかれてしまった。
「ねぇねぇ!美人ってどんな感じなの?」
「美人は…美人よ。目は…キリッとしてて、鼻筋も通ってて…黒い髪と黒い瞳が美しい方よ」
「へーー!珍しいんだなぁ〜!」
最近では見慣れてしまったが、あの黒髪と黒い瞳は神秘的で美しいと改めて思えば、アタシと同じ茶色の髪に毛先がオレンジ色に変わる短く切り揃えられたヒューは仕切りに「会わせて」と懇願してくる。
「…なんで会いたいのよ」
「あいつらに自慢する為」
「そんな呆れた理由で合わせられるわけないでしょう。公爵家のお方よ」
「ケチーー」
「ケチじゃない」
我が弟ながら歳が離れたせいか自由に育ってしまったと呆れれば、こんな無礼な弟でも会わせればあの子はきっとデレデレに可愛がるのかもしれない。孤児院でも子供に乗られても、踏まれても、礼儀の知らない子供達にニコニコとそれはそれは幸せそうに笑っていた。
「ミラ姉様〜、一回でいいからさ〜」
「アタシだって学園以外で会うこと殆どないのにどうやって会わせるのよ」
「茶会とかさー」
「王太子妃になられるお方をそう簡単にお誘い出来ないわよ」
溜め息と共に言えば、ヒューは詰まらなそうに手を頭の後ろで組んで、
「それって友達って言っていいの〜?」
「そう言うなら違うのかもね」
「ちぇ〜っ、なんだよ〜」
明らかに落胆した様に去る後ろ姿に、
「友達じゃないわ。……まぶだちってやつよ」
そう、ユリエルに言われた言葉を呟けば、なんだか頬が熱くなって、唇の端がふにゃりと情けなくも上がった。
12月6日は「姉の日」です。
本編で少し出ましたが、ミラは兄と弟がいます。
ヤンチャな弟と手を焼いていましたが、孤児院の元気な子供達に囲まれて『まだ…マシなのかもしれない』と、少しだけ弟に優しくなったのはミラ当人も気がついていない話。