いい夫婦の日
「珍しいねロズ。僕の執務室に来るなんて」
珍しく執務室に顔を出したロズに聞けば、ソファに座りなんだか楽しそうに微笑んでこちらを見ている。
「ユーリがねぇ、たまにシルクの執務室でお茶してるって聞いたのよ。わたくしもたまにはヴォルさんのお仕事してる姿見たいなぁって思って」
「今はちょうど立て込んでいる仕事も無いしね。僕もたまには君とこの場所でお茶でもしようかな?」
いくつになっても可愛らしい妻の横に座れば、彼女の侍女が紅茶を淹れてくれる。
「ユーリちゃんはね、シルクにお茶を入れてあげるのだそうだけど、真似しようとしたけど上手くできなかったわ〜」
少しだけ残念そうな彼女は娘以上に生粋のお嬢様と育てられ、指先まで柔らかいその手を取って、手の平へとキスを落とす。
「この手が火傷でもしたら大変だ。やってもらえる事はやって貰いなさい」
「あらぁ〜?それならわたくしの手は何のためにあるのかしら?」
「それは僕に触れる為さ」
その白く柔らかな手を僕の頬に当てれば、その蒼い双眼を細め紅色の唇は柔らかく弓形を描く。
「そうね。わたくしはヴォルさんと出会う為に生まれたのかもしれないわ」
そう言って近づく頬へ唇を落とせば、侍女は静かに扉を閉めて出て行った。
「ロズ、愛してるよ」
「ヴォルさん、わたくしもよ」
どちらともなく唇を合わせれば、廊下を楽しげに走る音とそれを追う様に「姉さん、それにクロモリ!ちょっと待って!」と慌てて追い掛けている様な声。
思わず互いに目を合わせて、
「幸せね」
と、君が笑えば、
「そうだね」
と、僕が返す。
君と出会わなければ知らなかった幸せを山ほど感じながら、もう一度君の唇を味わった。
11月22日は「いい夫婦の日」です。
本編のどこよりも甘〜〜いお話でした。
いつかこの2人の出会いの話も書き上げたいです。