青汁の日
299話辺りユリエルが2年で、3年生とお弁当を食べてる頃のこぼれ話。
ちょっと下ネタが入ります…。御了承お願いいたします。
「くぅ…っ!マズイっ!もう一杯っ!!」
「姫さん何飲んどるの?」
わたしの独り言のつもりのそれは、ランチの約束をしていた東家へといつの間にか来ていた三年生組の耳に入ってしまったようだった。
「聞こえちゃいました?」
「ユーリちゃんホント何を飲んでるの?ふふっ、唇に…緑色?」
リランさんが伸ばした手は色合いの為か止まり、その横からレイさんが親指でそれをすくってペロリと舐めて「…不思議な味だね?」などとしれっとされた行動に驚く。
「御見苦しい姿で失礼いたしましたわ」
「姫さん、謝るのはコイツの方や。すまんな…」
「ユリエルくんにとっては今更だよね。シルクくんは同じ事するのだろう?」
「うん?あ・そうですわね。でもほら、普通にお友達にされるのは申し訳ないなぁと」
そう困って言えば、レイさんは微笑んだまま少し固まると、ロットさんが「流石姫さんやね」と笑った。
「で・ユーリちゃん?その…水筒の中の不思議な飲み物は何なのかしら?」
「青汁ですね」
「アオ…汁?」
「野菜をすり潰して作ったジュースです」
「それは美味しいのかしら?」
明らかに微妙な顔をされて問うリランさんに「マズイです」とハッキリと伝える。
「ユリエルくんは何故そんな物を?」
「あの…内緒ですよ?実はわたくし…元々は野菜があまり得意ではなくて。舌に合わないかったのです」
前世では家庭菜園をするくらいは好きだったのに生まれ変わってからの野菜の衝撃のマズさ。味が不味いというより、正に舌に合わない。
味覚なのか脳の構造なのかわからないけれど、ユリエル的には兎に角マズイ。ユリエルが本当に幼い子ならテーブルの上からガシャーーンって落としたくなるレベルだと思う。これが伝えられないと悪役令嬢のスタートになりかねなかった。しかし大人なわたしなので涙を堪えて食べてました。
「幼い頃からなんとか食べてたのですが、侍女が気付いてくれまして。どうにか短時間で食べ終わらせる方法としての…元々は苦肉の策でしたの」
「せやったんか。姫さんいつも学食で普通に食べとるし知らんかったわ。……あっ!!すまんな!!オレ知らんで前に野菜炒めかなんか出したな!」
それはペンニーネ商会で働いた時の賄いの事だと思い出し、慌てて首を振り、
「今はもう慣れたし大丈夫ですわ!ロットさんのお料理美味しかったです。古い話はお気になさらずに、また機会があれば是非お願いしたいくらいですわ」
微笑み告げれば「なんの話よぉ〜」なんてリランさんが口を尖らせている。ちょっと可愛らしい。
「ええっと…、それで今は慣れましたが、でも野菜ジュースは続けてますの。美容にも良いしお肌の調子もいいし、色々良いところはあるので」
「そうなの?たしかにユーリちゃんお肌すべすべだものねぇ。少し飲ませてくれる?」
「多分美味しくないですよ?」
「ふふっ、美しくなるっていうのならある程度は仕方ないわ。ありがとね」
そう言ってわたしの水筒からコクリと飲むと、リランさんが固まってから………口を抑えて下を向き、その身にもの凄い闇を落とした。
「リランはん…そんなにマズイんか?!」
「え〜っと?そこまでじゃないと思うのですが…」
リランさんが無言でロットさんに渡すと、水筒の口元を拭いて「なら試しに」なんて口に運ぶ。
「………マッッッッッズ!!!!!」
「そんな力一杯…」
「多分…その辺の草を食べた方がまだ美味しく感じるんやないか……っ!」
そのままレイさんに渡すが、先程ちょっとだけ口に入れて居た為か手を出さないのを、テーブルの逆側からわたしが手を伸ばして受け取る。
「2人とも大袈裟ですわねぇ〜」
「姫さん…あのリランはんが…飲んでから一言も話さへんよ……」
「リランくんは流石の王族だけあって…口にしたことのない位のものだったのかな?」
「…え〜?そんな酷かったかしら?」
改めてゴクリと飲めば…たしかにゴクリというよりドロリ。口の中で広がると青さと、喉を素直に通らない感じで口の中に広がり抜けない…青臭さ。
「うん。改めて飲むと確かにマズイですわね!!昔はこんなんじゃなかった筈だから、年々少しずつ濃くなっていって騙されて飲まされてた気もしますわ!」
「騙されんなや…」
ロットさんが必死でお茶を入れて飲んでいるので、お弁当のデザートを先に出してあげれば、さっぱりさせようとしてるのか、口にいれて咀嚼している横で、レイさんが顎に手を当て何か考えている。
「…ユリエルくん。私は飲んでいないから少し聞きたいのだけれど……その飲み物は薄いのかい?」
「いえ、濃いですわ」
「私は飲んでいないから、もう一度どんな感じなのかゆっくりと教えてくれるかい?」
「え?えっと?…その、口の中で濃くて…青臭いのが広がって…その…喉を通らない感じです。たしかに…ドロっとしていて美味しくはないですわ」
「うん。ありがとう」
「そんなに気になるなら飲みます?」
「いや私は飲みたくない」
ハッキリしたお断りの言葉に「あんな口の端についた程度の物でも美味しくないのわかっちゃいました?」などと聞けば、更に麗しく笑って頷かれた。
ロットさんが何か言いたげに隣に座るレイさんの胸ぐらを掴むが、お茶のお代わりとフルーツを食べることをやめない。そんなにも不味かったのね…。
そしてリランさんもロットさんがさっきから無言でお茶を淹れてあげれば、やはり無言で受け取りゆっくりと飲んでる。……国が国なら不敬罪で罰せられそうな事をしてしまったのかしら??
「ちなみにシルっくんは飲んだことあるんか?」
「我が家に来た頃に『なら僕も…』って飲んで………その後危うく野菜嫌いになりかけてましたわ」
「不憫やな…」
「そう考えればその頃にすでに濃くされてたのですね」
「鈍過ぎるんと違うか?」
「最初は牛乳とかで飲み易くしてくれてたのもそれすらいつの間にか消えてた気も…」
「鈍過ぎるんとちゃうかなぁ!?」
お茶とフルーツで回復してきたロットさんはツッコミも回復してきたが、リランさんの顔はまだ暗い。
「リランさんごめんなさい。繊細なお口には合いませんでしたわね」
「大丈夫よ……出来る事ならユーリちゃんかシルクちゃんの舌と共有して癒されたいくらいだけれども」
「わたくしはまだ普通に飲めますが…シルクは飲みませんわ」
貴族特有の『不味いからその舌の上にも同じものを乗せてやりたい』的な意味を暗に込めた物言いに素直に返せば、3人に首を振られた。
「とりあえずお弁当食べませんか?」
「せやな…オレも忘れたい」
「ユリエルくんと間接的にキスしたこともかい?」
レイさんの言葉に改めて考えたら、渡された水筒をそのまま飲んでいたなと気が付いた。
「あらやだ気にしなかったわ。ごめんなさい」
「ロットはリランくんから受け取るときに気にして拭いてたよ」
「そうでしたか?失礼いたしました。でも好きな人だから回し飲みも気にしなかったわ…ね、リランさん」
途中ロットさんが咽せたけど、先に回したのはリランさんだと名前を呼べば、
「嬉しい言葉だけど…次からはウチはユーリちゃんからの無垢なお誘いに気をつけるわ。あとウチもロットは好きだしね」
そんな風に回復しない顔色のままなんとかウインクをして答えてくれた。王家と平民でも友情は成立する心の広さ。しかしそんなにも不味かったのね…そんなにお茶飲んで午後の授業は大丈夫かしら?
「ユーリちゃんはそうやって好き嫌いを克服して色々食べるからそんな可愛いのね」
「ふふ、リランさんに言われるとまた別段に嬉しいですわね。栄養バランスの取れた食事が健康体と、なにより成長期の若い身体を成長させてくれますしね!」
胸を張り手を当ててドヤ顔をすれば、
「確かに健康的に…素晴らしく育っているね」
また素直にレイさんに褒められたわ。そうなんです!わたしの160センチ越えの身長は自慢です!!
「って!そんな話をしてる場合ではありませんわ。本当に昼休みがなくなっちゃう。お弁当食べませんか?明日こそ誰か女の子のお友達と食べたいけれど…日に日にお弁当が大きくなってるし、皆さんとじゃないと食べ切れない量になってきましたわね」
苦笑いを浮かべれば、ロットさんが「それはそれでええんと違うかな?」なんて笑えば、リランさんが「もちろん明日も無理ならウチが食べてあげるわ。でもさっきのやつは抜きでね!」そう言って笑うと、「ユリエルくんは他の人の前ではさっきのを飲まない方が良いかもしれないけどね」と、フォローをしてくれた。
たしかに気心の知れた3人にここまで言われたものを、よそのお嬢様に知られたらとんでもない噂をまた流されてしまう恐れに気が付き頷く。
「今日も卵焼きだけはわたくし作ですの」
「ふふ、卵焼きはいつも美味しいから…そんな味覚がおかしい訳じゃないのかしら?」
リランさんの失礼ともとれる物言いは気にせず、手を合わせてからお弁当を今日も三年生達と食べました。
10月26日は青汁の日です
うちのR -15のRは麗しいと言われる彼の頭文字なのでは…??