ほめ育の日
「ロイ様は賢いし頑張ってらっしゃいますわね」
「シルクも毎日慣れない場所で偉いわね。困ったらお姉ちゃんにいうのよ?」
そのまだ小さな手で同じようなその手を掴み微笑み、それからいくつも歳を重ねていっても、
「お母様、今日も美しい御髪ですわね」
「アナ、今日もユリエルであるわたくしが美人なのはあなたの腕のおかげよ。ありがとう」
「クロモリ!おやつ我慢できたのねぇ〜!成長したわね!偉いわぁ〜」
「トーマス。今年の薔薇は一段と綺麗に咲いたわね。やはり腕が良いのね」
「ジュリ〜!あなたが来てからわたくしなんだか安心してるのよ。ありがとうねぇ〜」
「お父様、いつもわたくし達の為にお仕事お疲れ様です。肩…は無理ですが、手のひらくらい揉ませて頂きますわ」
「あらやだ!今日のご飯は一段と美味しい!!料理長にこの感動を伝えなければ」
家族だ使用人だと糸目をつけずに笑顔で声を掛ける。
「ポブコフ夫人のご説明は的を得ていて分かりやすいですわ」
時には引き締めた格調高い笑みを浮かべて、家庭教師すら褒めている。
そんないつも何かにつけて誰彼構わず褒めて回るお嬢様を、最近入ったメイドが目を白黒させて見ている。
「アナ様。ユリエルお嬢様は、その…いつもあの様な感じなのですか?」
「そうですね。前にも言いましたが、セルリア家に勤めるものとして、屋敷外ではこの事を口にすることは許されてないわ」
ハッキリと言い切れば「それは勿論です」と、少し慌てた様子で頷いた。
「ただ…その、お噂で怖いお方だとの話もあったので…面を食らったといいますか…」
「お嬢様があの様に自由に振る舞うのは、主に屋敷の中だけです。将来は……王妃になられるご予定ですので、外では凛々しく威厳を保つと己を律しておられるのです」
「そうなのですね」
納得したのか目を輝かせる新人に頷きながら、最近…高等学園に行き始めてから外でも綻びが見えるけれども…とは、心の中だけで留めておく。
「その…そんな噂は聞いていたのに、セルリア家の使用人の入れ替わりが少ないと…皆不思議がっていたのですが、本当に雰囲気のいいお屋敷ですね」
「このお屋敷はユリエル様を中心に廻ってます。…とはいえ、そう言ったことも」
「他言無用ですね。畏まりました」
少し控えめな笑みを浮かべる新人は、ユリエルお嬢様よりも1つ年が上なだけだが、旦那様とシルク様のお眼鏡にかなっただけあって仕事は早くよく気がつく。それにこの感じでは簡単に口外はしないだろうと思える。…それに万一のそれを旦那様や、それこそロイ王太子も良しとはされないでしょう。
「大丈夫です。口は固いので、何よりお給金もいいですし馬鹿な真似は致しません」
ニコッとしたその笑みに頷けば、彼女は頭を下げて次の仕事へと向かっていった。
いつあの新人もそんな褒め言葉に絆されて、口外するのを〝馬鹿な真似〟ではなく、セルリア家の宝石からそんなことで離れたくない気持ちになるのかと思わず笑みを溢してから、そろそろ着替えたであろう制服を受け取りにその愛らしい人の居る場所へと歩を運んだ。
10月19日は「ほめ育の日」です。
「褒めて伸ばそう!」を信条に、ユリエルは褒めて回っているようです。
そして絆されまくってる人々でした。