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目の日・ウインクの日





「姉さん」

「わぁっ!!」



約束の時間に彼女の部屋に行けば、なんだか妙に鏡に近くの距離にいる彼女へ声を掛けると驚いた声を上げてオデコを鏡にそのままつけている。


「どうしたの?」

「シィ〜ルゥ〜クゥ〜」


恨みがましい声と共に振り向く彼女の顔には、目の上には思い切りズレた謎の線と…なんというか…左右非対称のお化粧。



「どうしたのソレ?」

「お化粧失敗したのよ」

「そう言う問題じゃない気もするんだけれど…」


思わず言ってしまったのも仕方のない話で、左右が均等ではないアイシャドウや、アイラインもガタガタだ。



「そうよね。シルクのせいにしたど、やっぱりダメねぇ〜」


やれやれと蒸しタオルで顔を拭って化粧とは言えないそれを落とすのを見ながら「ちょっとね」だけ言葉を返す。



「ほら、わたしウインクが出来ないじゃない?あれってアナや誰かしらが目を瞑ってる間に化粧しちゃうから、片目を開ける必要がない事が原因なのかと気がついたわけよ」



何だか妙にしたり顔で言う彼女に「そう言うなら僕らは化粧なんて元々しないけれど…」と口に出せば、目を見開いてショックを受けた様子だが、気を取り直したのかフッと小さく笑うと、



「…ま・それはそれとして、お化粧くらい一人で出来ないと将来的に女性として困るじゃない?」

「出来てはいなかったけどね。それにしてもなんで?侍女にして貰えばいいんじゃない?」



サラッと言った最初の言葉が姉に刺さったらしく、ウグッっと小さな悲鳴を上げてから、視線を逸らした。



「も、もしよ?仮に一人暮らしするとかになったら…」

「お父様が許す訳ないでしょう?」

「勘当だーーってなるかもしれないでしょ」

「だから姉さんは何をやらかすつもりなのさ…」



こめかみに手を当てて呆れて言えば、口を尖らせてぶつぶつと何か言ってる。



「それに騎士団の寮に入った時に何か思うところなかった?僕は色々足りないところが見えたけれど…姉さんは?」

「…アナに沢山助けて貰いました…ぱおん」

「…ぱおんて何?」

「ぴえん超えた」



よく分からない言葉は無視をして、化粧を落としてまた再度挑戦しようとするその道具を取り上げる。



「ユリエル不器用だけど、練習あるのみよ」



この歳でも時折自分の名前で呼ぶのは少し可愛いと思ってしまうのは欲目だろうか。



「ちょっとやらせて」



初めて触るその化粧道具を手に言えば、笑ってこちらを体ごと向けて「はい」っと、目を瞑り当たり前の様に信頼という重しを置かれる。


「いいの?当たり前だけど僕やったことないよ?」

「ふふっ、どうぞ。こんな時じゃなきゃ知れない女性の大変さを知るといいわ」



妙なしたり顔で笑うその顔へ、ここ数年僕にとって待ち時間になる義姉の化粧の時間に何度か会話相手をする合間合間に見ていた化粧をその瞳を閉じた綺麗な顔へと…見様見真似で施してみる。









「どうかな…やっぱりアナみたいには出来ないね」

「ふふ、やってみると難しいでしよ。でもお化粧品間違えなくて使えるだけでも凄いわよ…うふふ、どれどれ〜」



楽しそうに鏡へと向かう前に待ったを掛けて、最後の仕上げとその唇へ赤い筆を走らせると、〝ン〜ッパッ〟と音を立てて口紅を慣らして改めて鏡に向いなが、によによ頬を緩めた変な笑顔で話しかけられる。



「目のラインて難しくてなかなか上手く引けないでしょ?」

「そうだね」

「お姉ちゃんや女性の苦労がこれでやっと…んんん?」



鏡に向かって乗り出す姉へ「変かな?」と聞けば、「シルクはリランさんみたいに女性の格好するの好きだったりする?」などと驚く事を言われた。



「そんな訳ないよね。姉さんと同じ家で、学園でもほぼ一緒に過ごしてるでしょう?」

「なら…闇の日のお出掛けとか…」

「アレは違うよ。…ちょっと勉強をしに行ってるだけだって何度も言ってるよね」



振り向く彼女の目は微妙に涙が浮かんでいて、思わずドキリと胸が音を立てれば、



「この器用!!」

「………えっと? それは褒められたの?怒られてるの?」



よく分からないそれに疑問を持てば、頬を膨らませている様子的に怒ってはいる様だ。



「お姉ちゃんは怒ってます」

「理由がわからない。アレかな?僕の方が上手く出来たから?」



困って聞けば更に頬を膨らませて、それは食料を運ぶリスの様で思わず吹き出してしまえば、今度は目を見開いてショックを受けた。



「アハッ、姉さん…頬袋が…」

「お姉ちゃんには頬袋なんてありません!もう、お姉ちゃんは言いつけてやります」

「誰に?何を!?」



止められない笑いのまま聞けば、また改めてプウッと頬を膨らませて、部屋を出ると、



「アナーーー!!シルクに可愛くされたーーー!!!」



そんな、やっぱり怒ってるのかなんなのか分からない事を大声で叫びながら出ていくのを、やっぱり僕も笑いながら見送った。


とりあえず彼女から『次回のテスト対策をしよう』と持ちかけられた今日の約束は忘れられてて、そのうち思い出せば、照れ臭さを誤魔化すために胸を張って堂々と返ってくるのかな?なんて想像しただけで、やはりまだ笑いは止まりそうもなかった。







10月10日は目の日

10月11日はウインクの日です。


横にすると、目に見えるのと、ウインクのして見えるからだそうですよ^_^




ちなみに本編でも少し触れているのですが、前世では不器用と言うほどでもなく、それなりに色々と出来てましたが、ユリエルの身体になって手先の不器用さに苦労してます。しかしそれも個性と、努力と根性と愛情でなんとかこなしてます。



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― 新着の感想 ―
[一言] >だから姉さんは何をやらかすつもりなのさ やらかさなくても勘当·追放されるのが悪役令嬢の生き様
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