孤児院の日
神父様目線
「ユリエリママ来ないねぇ〜…」
「サーシャ、ワガママ言うな」
「サーシャちゃんユリエリママに会いたいなぁ〜…」
ホースは妹のサーシャがユリエル様が孤児院に置いてくれた本を眺めながら呟く言葉に少し乱雑に頭を撫でる。
「お兄ちゃんは?ユリエリママに会いたくないの?」
「……別に。忙しいんだろ」
「サーシャちゃんは会いたいなぁ〜…ユリエリママに〜」
「…仕方ないだろ」
毎日の繰り返しにホースもよく付き合ってあげるものだと思いながら二人の前に紙を出す。
「神父さま、これなぁに?」
「ユリエル様へのお手紙ですよ。サーシャはまだ文字が書けないですし、ユリエル様に絵を描いたら届けて貰いますよ」
「サーシャちゃん描く!」
「……でも手紙って届けて貰うのにお金がかかるんだろう?」
喜ぶサーシャと対照的にホースが呟くのを思わず苦笑いをして受け止める。
「安心して下さい。ユリエル様のお陰でその程度のゆとりはあるのですよ。それでも心配なら、セルリア家からのお使いの方に渡すか…またペンニーネ商会からロットさんが来られた時にでもお願いすることにしますよ」
「……それなら、おれもかく…」
私の言葉に安心したのか、以前にユリエル様に貰った文字の本を横に、拙いながらも短い文章を一生懸命書く姿を見て、涙が溢れそうになるのをなんとか堪えて席を離れる。
ユリエル様は以前大したことはしていないと仰って居たが、こうして子供達の心の拠り所となり、支援という形をして下さることで、痩せていた子供たちは少しずつふっくらと子どもらしくなり、笑顔が増え、学ぼうとする気力が現れた。
『学ぼう』は『生きよう』だ。
今までの『生きる』だけではなく、『未来を見据え生きる』と言うこと。
その違いの大きな事を子供たちの瞳の輝きが知らせてくれる。
そして今日も礼拝堂で何度目かの手を合わせ膝をつき祈りを捧げる。
「今日も子供たちが生きながらえて…、いえ、幸せに生きていける事を感謝致します」
小さな孤児院に似付かわない立派なステンドグラスのアマテル様より光が差し込み、今日も子供達を見守って下さっているのだと喜びを胸に刻んだ。
9月22日は孤児院の日です。
ユリエルはあまり行けていませんが、子供たちからは手紙が届くととても嬉しそうです。
ユリエルは「ありがとう」の言葉より、「〇〇が楽しかった」「どんなことしたよ」そんな普段のお手紙を何よりも嬉しそうに読んでは箱に閉まって、そしてたまに読み返してます。