メンズバレンタイン
「ユリエルくん、これどうぞ」
「あらまぁ、どうかしたのですか?」
レイさんに渡されたその小さな包みはとても軽くて、袋越しに触ってみても、布のようだがハンカチにしても薄いような…柔らかな何か。
「世界には色々な文化があるだろう?ユリエルくんはそういったことに詳しい様だから、私も私なりに調べてみたんだ。どうぞ受け取ってくれるかい?」
「なんでしょう…秋のこの時期…?知りませんでした。開けてみても?」
「う〜ん…ここではどうかな?」
「なんだ。見られて不味いようなものをユーリに渡したのか?」
今この生徒会室には他にもロイさんとシルク、それにアベイルさんが居るのだが、レイさんにそう言われては開けない方が良いのかな?なんて思いながら手元の綺麗な袋を見る。
「ユーリ開けてみろ」
「え?でもレイさんはここではと」
「そうだよロイくん。私も包んでもらっただけで選んだ訳ではないからね。どんなものが入って居るのか知らないんだよ」
麗しく微笑んで告げるその言葉に、
「選んでいないものなど余計に怪しいだろう。ユーリ開けてみろ」
「えっと?」
困ってレイさんを見れば、どうぞとでも言うように表情を緩めて肩をすくめながら頷いた。
「では…」
ペリッと軽く糊の付いた封を開ければ、中から更に柔らかい桃色の紙に包まれた何か。
「随分丁寧だな。まさか指輪ではないだろうな」
「まさか。ロイ様がいらっしゃる目の前でそんな馬鹿な事を私がするとでも?」
「目の前でなくともするな」
おかしな掛け合いに仲が良くなったなぁと思いながら、そっとその綺麗な桃色の紙を開いてみれば、なんて綺麗なレースのハンカ……………パンツ。
思わず広げてしまったそれを改めて綺麗にたたみ直して何ごとも無かったかのように桃色の紙に仕舞い、更に最初の包装へと戻す。
「手違いがあった様ですわね」
ニッコリと笑って言えば、ニコニコしたレイさん以外は口を開けて真っ赤な顔で此方を見てる。
「手違いでは無いよ?」
「待てぇ!!貴様手違いでは無いならなんだと言うのだ!?」
「レイさん!嘘でも手違いだと言ってください!!」
「ユリエルさん、ボボボボクは何もみっ見てませんからっ…!!」
爽やかに言い放ったレイさんの声を皮切りにロイさんシルク、アベイルさんが慌てた様に声を上げた。
「メンズバレンタインデーなんていうイベントらしくて、その日は男性から女性へと感謝を込めて下着をプレゼントするらしいよ」
「ナ、ナルホドーー」
バレンタインなら義理チョコなのだろうけど、これ職場の上司とかにやられたらセクハラで訴えられるヤツよね。しかしレイさんにやられてはどう対応していいのか逆に分からず、しかも下心も無さそうに笑顔で言ってる彼にはどうこう言うことも出来ず…
「え〜っと…、有難う御座います?」
「受・け・と・る・なぁ!!」
改めて包みに手を伸ばせばロイさんに止められた。
「いや、ご好意ですし?」
「どこの世界にこんなモノを好意で送るヤツがいる!?」
「いや悪意で送られるよりはいいのでは?」
「問題点がズレている!!」
「そうか…そうだよね。やはりイベントだとはいえ、婚約者の居る人に送るべき物ではなかったね。失礼」
レイさんはそう言いながら、その綺麗な包みをゴミ箱にポイと捨てた。
「あっ!勿体ない!」
「姉さん黙って」
思わず出た貧乏症な言葉をシルクに咎められてしまう。だってレース凄くきれいだったのよ??多分かなりいいお値段の……いや、たしかに履けばスッケスケで下着の意味はあまり成さない感じもしたけれども!!
「感謝を込めてならミヤナ様に送るとかどうですか?」
「それもいいけれど…私が兄上に殺されますね」
「俺が殺してやろうか?」
新たな提案を出せば物騒な話になっていってしまったわ!!なんとか一歩前に出たロイさんの前に更に入り込み、「お兄様はミヤナ様にゾッコンラヴですものね!」などと世間話を入れてみれば、レイさんも笑って頷いてくれた。可愛く人差し指の腹を合わせ親指の爪部分を合わせてハートを作って言ったが…あれ?これじゃ桃だわ?ハートは逆ね??
「そうだ、そういえば今日は他にも『セプテンバーバレンタイン』と言うらしいね」
「ん?セプテンバーバレンタイン…ですか?」
「女性から別れを切り出す日らしいよ」
「まぁ〜そうなんですか。レイさんてば博識ですわね!」
「兄上は時折姉上から言われてたからね。エルサのおかげで最近は平和だよ」
クスクスと笑うレイさんに「それは何よりですわ」そう微笑みを返して、エルサちゃんの愛らしさを思い出す。
「成る程…。ところでそれは相手に断る権利はあるんですかね?その日だけは無いとか?」
おぉっと、終わったと思った話題にシルクが乗り出した。
「えっと、ボクの国にも似たような日があった様な…同じ日かな?」
珍しくアベイルさんまで乗り出した!?
「他にも男性に女性から下着をプレゼントする日もあるらしくてね」
レイさん…パンツの話はもう言わなくていいのです。
「そういえば姉さん、昔僕に手編みの下着くれたよね?」
「…下着?? あっ!違うわっ!だからアレは手袋よ!!?親指入れて、後は4本フリーで動くタイプの!!ちゃんと言ったじゃない!!」
「いや、もう何度見てもあれ…当時の僕には手よりブカブカだったし」
「大は小を兼ねるかなぁって」
「ユリエルくんは余り手先が器用ではないのかな?」
「そう言えば…えっと…ロットさんも、そんな事言ってましたね…たしか…『姫さん、字と絵の差が激し過ぎて思い出しただけで笑ける』とかなんとか…」
「ちょいとアベイルさん?それホントですの?わたくしロットさんに一言物申して参りますわ!」
ニッコリと微笑み一歩踏み出せば、ロイさんの手が肩へと乗った。
「お前ら…ホント、不敬にも程があるな…」
堪えているのかひくひくと引き攣る顔を見て思わず笑ってしまう。
「なんだユーリ」
「ふふっ!だってロイさんもシルクもわたくしに素が出過ぎとか言いますけど、ロイさんも此処では素が出て楽しそうですわ」
クスクスと笑えば毒気でも抜かれた顔をして「ユーリ程ではない」と、眉尻を少し下げながら口元を緩めてくれた。
「そんな事ありません。わたくしにはわかりますわ。だってわたくしはロイさんの…幼馴染ですもの!!」
堂々とわかってますよ!の気持ちを胸に手を当て告げれば、ロイさんは言い終わると同時にソファに手を付いて大きく疲れた様に息を吐いた。
「ん?ロイさんどうかなさいました?…えっと、とりあえずレイさん、ロットさんは何処におりますの?ロットさんに罰を与えて参ります」
「ん?多分まだ教室に居ると思うけど、罰??」
「はい」
「姉さん…それはまさか二時間椅子に僕を動かず座らせ、そして描かれた似顔絵を見て恐怖の余り慄いたあの罰?!!」
「お姉ちゃんが今泣くわよ!!?」
ワイワイと盛り上がる中、「お前らいい加減生徒会の仕事をしろ!!」っと、ロイさんからの叱咤が飛んで、みんな各々ちゃんと仕事を始めました。
あ、レイさんもちゃんと生徒会の引き継ぎの詳しい事をみんなに教えてくれました。
ちゃんちゃん☆
9月14日は「メンズバレンタイン」と「セプテンバーバレンタイン」でした。
バレンタインなので14日でした。
間に合わなかったのでボツにしようと思っていたのですが、レイにパンツをプレゼントさせたかったので、書き上げ復活させました!!
割り込み投稿とかしないッス!!
保湿クリームの日より前だけど、遅れた事を堂々と投稿するスタンス!
メンズバレンタインは、男性が女性に下着を送って愛を告げる日。
セプテンバーバレンタインは、女性から別れを告げて良い日だそうです。歌の歌詞からきてるので、ルールは少しあるそうですがお話では割愛です。