保湿クリームの日
「幸せすぎる…」
お風呂で長い髪を洗って貰い、指先までマッサージ。
そして只今風呂上がりに寝ながらクリームを塗られて……
「は〜……幸せ」
今日も何度目になるのかわからない呟きに、目の上に載せたホットタオル越しにアナの小さな笑いが聞こえた。
「アナ…笑ったわね。アナも体験出来たらいいのに、アナのケアマッサージ」
「アナは一人ですので、自分で自分にやってもそこまでには感じませんね」
「それは残念だわ。もうホント、この瞬間こそお貴族様〜って感じがするからね」
「どの瞬間もユリエル様はお貴族ですよ」
「いや、まぁ、実際にそうなのよね。ご飯も美味しいし、朝も起こしてもらえるし着替えまで手伝って貰って……はっ!!たまにはアナと交換こする!?」
「お断りさせて頂きます」
「アナの専属ユリエルメイドになるわよ!?」
「被害者はシルク様だけで充分です」
「被害者!!?ねぇ今被害者って言っ…」
マッサージの振りをして指で口を抑えられた。むぐぐ、貴族様っぽくないけどこれはこれで愛があるので良い。
「…は〜…幸せ…♡」
「このまま肩の周辺もお揉みしますね」
「ふぅ〜……いい気持ち〜っ…ねぇアナ、調べて欲しい事があるのだけれど」
「はい、何用でも」
「おっぱい小さくする方ほ…イタタタッ!!肩!めり込んでる!アナの指!!!」
「すみませんつい驚いて。お嬢様を美しく仕上げようと幼い頃から仕えさせて頂き、肉という肉を胸に回して育てて参りましたが、何か御不満でも?」
顔はタオルで見えないけど声色が半トーンくらい落ちたアナに微妙に引き攣る笑顔で返す。
「いや、それについては色々感謝しか無いのだけれど…ホント重くて。ダイエットしても胸だけ減らないし、もう二回りくらい小さくても生活する上で困らないじゃ無い?」
「そうですね、一回りと言わず二回りと言うあたりお困りのようですが無いです」
「調べすらしない!!」
「無いです」
「ほら、肉という肉を胸に回したなら、程よく分散させてもわたくし気にしないわよ?」
えへっと笑ってそっと目のタオルを取ってお願いすれば、保湿クリームを手につけたアナも見下ろしながらいつも以上にニッコリと笑い。
「無いです」
改めて同じ答えを言われて、なんだかいつもより表情筋に直接くるマッサージが始まった。
「なんか強い!!変な顔になっちゃう!美人なユリエルがちんくしゃになっちゃう!!」
「チンクシャとはよく分かりませんが、ユリエル様はじっとしてればどうしたって美人ですよ」
「今、絶対タレ目にして遊んでる〜!…あ、でもそれもいいかも。ユリエルの目尻が垂れてれば可愛いかも」
「リフトアップを心掛けて育てて来た私の実力がご希望に伴わず申し訳ありません」
「骨格痛い痛いッ!!もう小顔だから!!ユリエルもう小顔だから!」
「ユリエル様。美人は1日にしてならずです」
「ユリエルは生まれた時から美人よ」
「自信満々にお育ち頂き嬉しいです」
「骨格ぅぅぅぅ〜〜っっ!!!」
文句は無し寄りの有りだけれども、アナの実力は有り寄りの有りなので、アナのお陰で明日もお肌スベスベでボインちゃんなユリエルが出来上がるのです。
しかし、ユリエルの美人さで、このゴージャスボディを持ってすれば、ファビュラスなボーイズ達を侍らせる、願いの叶う感じのゴージャスな姉妹風な生活も出来てしまうかもしれないわ!!
そんな事を考えて、マッサージを終えソファでバスローブを着てワイングラス片手にしようとしたら、「ユリエル様は溢すのでこちらで」と、下町で買ったクロモリっぽい黒猫柄の可愛いグラスを渡された。
………ジュース冷えてて美味しいな!!
9月16日は「保湿クリームの日」です。
ファビュラス!!!