宇宙の日
ロイ目線
ある月夜の晩、ふと思い出した記憶。
「星が綺麗ですね」
その瞳と髪に星空を詰め込んだ様な幼い君が同じく幼い俺に話しかけた。
「そうか?いつでも見れる物だろう」
天気さえ良ければいつでも見られるそんな物より、10歳になった君の笑顔が見たいと宝石やドレスのプレゼントを送った日、少しだけ困った様に笑った君が今は満面の笑み。
「こんなに星が輝いているのですよ?」
「だからそれは当たり前だろう」
不思議に思って聞けば、やっぱりその笑顔は曇らなくて、
「なんて素敵な国でしょう」
そう言って楽しそうに笑う。
「地上が明るすぎては、こんな素敵な星が見えないんですよ。子供の頃は流れ星が私の元へ落ちてくれないかなぁなんて…ふふ」
「プレゼントは星が良かったのか?」
「うふふふっ、星はやっぱり見てるのが一番です。例え夜空に浮かぶ星にわたくしの名前をつけても、それはやっぱり見上げたみんなのものですもの」
誕生日パーティすらも、自分の屋敷で質素に行う君のその考え方は俺にはない物。
「ユーリは、欲しいものはないのか?俺が手に入れてやる」
言えばやっぱり笑って、
「誕生日だからこうして夜のお散歩を出来るだけで充分ですわ」
そんな欲のない答えが返ってくる。
「君は俺の婚約者だ。何か無いのか?」
「ふふふっ、仏の御石の鉢に蓬莱の玉の枝…とか言えばいいのかしら?」
「…なんだそれは。調べてみるか」
従者を呼ぼうとすれば、慌てた様子で手を振り、
「じょっ、冗談です!ごめんなさい!欲しいものなら…えっと、なんでしょう。う〜ん、やっぱりこうして健康で歩けていられればいいわ。ロイ様や、シルク、それに家族揃って笑っていられたら、それで…」
夏の夜風を気持ち良さそうに受けながら、髪を押さえて笑う君のその中に、自分の名前が入ったことに少しホッとしてしまう。
「お忙しいロイ様も、たまにはこうして当て無く歩くのも気分転換になりますでしょう?」
そう言って手を取り歩き出す君の暖かさに、少しだけ頬が熱くなるが、月夜の下では君にはバレないだろうと安心する。
「あぁ、たまにはいいな」
夏の終わりの少しだけ秋の気配が感じられる空の下、君と歩くこの時間が俺にも最高のプレゼントなのだと思った。
……いや、あれはこの共に歩く星を散りばめた君こそが、俺の一番欲しいものなのだと、心から渇望した日だった。
9月12日は「宇宙の日」
ロイの思い出です。