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噴水の日



「そう言えば、あの噴水ってどうなってるの?」


家族で東屋で寛ぎ中、ふと見えた我が家の噴水を指差し聞けば、お父様が「魔石で動いているんだよ」と答えてくれる。



「魔石?」

「そうだよ。噴水の横に人工魔石があって、そこを通す事で水も浄化されて飲めるほど綺麗になり、しかも一定の水量を保ってくれているのさ」

「凄い万能ですわね。見てきても?」

「勿論どうぞ。あぁそれならシルク、お願いしてもいいかい?」

「はい、なんですか?」

「人工魔石だからね、水の魔力をたまに足してあげないといけないんだよ。僕は風だけで、水の魔力は無いからね。普段は年に一度程度ダラスが足してくれているのだけど…シルク、あの噴水の枠の内側にある出っ張りの蓋を開けて、水の中にある魔石に魔力を注いでみてくれるかい?」



わたしが東屋から噴水に向かえば、お父様がそう説明をするとシルクもやって来てくれた。



「出っ張りってこれかしら?」

「そうみたいだね」



噴水に近づけば確かに噴水の端に蓋のついた場所があり、その蓋を開ければ台座に固定された魔石が水に浸かり薄らと青く輝いていた。



「魔石で動いて居るのは知ってたけれど、こんなところにあったんだね…どのくらい魔力を流せばいいのかな?」

「普段ダラスが魔力をあげてるのでしょう?ダラスを暫く楽にさせる為にも少し多めに上げておいたらどうかしら?」

「そうだね。ダラスも歳だしね」



2人で覗き込みながら相談していると、ニコニコとお父様とお母様がこちらを見ている。


「お父様〜、これってどのくらい入れたらいいのかしら〜?」


距離があるために少し声を張って聞けば、

「シルク、水魔法のみで目一杯やっていいよ〜」

満面の笑みで楽しそうに答えられた。



「ならいくよ」

「人工魔石って魔力を入れる時に更に光ったりするのかしら?」

「どうなんだろうね?」


二人で覗きながら、シルクが手を当て…


「入れるのは水魔法だけって言ってたね…行くよ!」

「なんだかドキドキするわ!」


その手に魔力を込めた瞬間に魔石が輝き、噴水にあった水という水が空に滝のように登り、正にそのまま噴水よろしく、辺り一面に雨のように降り注ぐ。


そしてわたしとシルクは初動に顔面からその水を豪快に浴び、尻餅をつきながらその光景を見て2人で同じタイミングで目を合わせてからそのまま2人でお父様達を見れば、東屋の屋根の下でお父様がお腹を抱えて笑っていた。



「ははははははっ!!!シルク!!君の魔力量はやっぱり凄いねぇ〜!水系は主軸でも無いのに素晴らしく使いこなせているんだねぇ〜!勿論、これは魔石で増幅されてはいるんだけどね…っ、あははははっ!!ビックリしたかい!?ビックリしてるねぇ〜」


それはそれは楽しそうに笑うお父様に、クスクスと笑いながらお母様も「もうヴォルさんたらオチャメさん」みたいな顔してる。



「ははっ!!ほらロズ!!見てごらん!虹が出たよ〜、綺麗だねぇ〜」

「あらホントだわぁ〜。ユーリちゃんとシルクちゃんの上に虹よぉ〜見える?」

「いえ…」

「…わたくし達からは見えませんわ」


呑気な両親に言っても無駄だと、シルクは濡れた髪をかき上げながら、わたしに手を伸ばし立たせてくれる。



「お義父様、こうなることを知ってましたね」

「ははっ、いやぁ思った以上の魔力量で、僕の想像を超えたよ。真夏にいい水遊びが出来たね」

「僕も姉さんもそこまで子供じゃ無いです…タオルあったかな…」

「でもユーリは楽しそうだよ」



そんなタオルを取りに行ったシルクとお父様の会話を知らず、黒豹のクロモリを出してここまで濡れたならどこまで濡れても変わらないと、えいっと裸足になって噴水のプールに入る。



「姉さん!子供じゃないんだから!」

「わたくしはお父様とお母様の子供で、しかもクロモリはまだまだ子供だもの〜!」


浄化されたと聞いたなら遊んでも問題無いと、クロモリに水をかければ、クロモリもお返しとばかりに大きく飛んで全身で水を跳ねさせて来た。



「オホホホ…やるわねクロモリ…!」


楽しそうなクロモリにまた水を掛ければ、クロモリも顔で掬い上げやり返してくる。



「あっ!姉さん、噴水壊れてる!!」


改めてシルクの視線の先を見れば、先程まで中央から吹き出して居た水が止まっていて、慌ててシルクと2人で魔石を見れば真ん中にヒビが入って輝きを失っている。



「お父様〜!!大変〜〜!!」

「いいよ〜面白いものが見れたから。今度新しいものを入れて貰うよ」


ニコニコと笑うお父様にそれってお高いんじゃないんですかぁ〜?とか聞こうと思うけど、怖くて聞けないままお父様のお財布事情の豊かさに感服する。流石公爵様!!!



そんな事を思ってる間にシルクの後ろにクロモリが立ち、そのままズドーーーンと体当たりをするとシルクは飛ばされ噴水の中へとダイブする。


「あぶないわ!!」



慌てて飛ばされたシルクを受け止めれば、わたしもそのまま尻餅をつき、言うまでもなく二人ともびしょ濡れ。いや、元々びしょ濡れだけれども。



「クロモリ!頭打ったら危なかったわよ!」

「いいからッ!姉さん放して!!」



思わず伸ばした手で正面から胸に抱きとめて居たシルクから手を万歳と上げれば慌てて離れられた。これぞ正に姉離れ。ショボン。



「クロモリ!危ないだろう!?」

「ユーリ弱い シルクと遊びたい」



人型になってまでわざわざ自分の意思を伝えるクロモリに「シルクさん、うちの子がこう言っておりますので…すみません、少し遊んであげてくださらないかしら?」と、申し訳なさそうに言えば、「どこの親馬鹿なの?」なんて返された。




「わかったよクロモリ、ここまで濡れたなら僕ももう構わない。水魔法のいい練習にさせて貰おうか……行くよっ!!」



太陽に背を向けて髪をかき上げながら、ちょっぴりお怒り気味で立ち上がり言うシルクがちょっぴりカッコよくて、ちょっぴりドキリとしたことは秘密で。



その後は水鉄砲、その次は蛇口に直接ホースに付けたような勢いの良い水となり、そこからポイントを縛り高圧水圧をかけた様な水にしてみたりと、それをクロモリは次々と避けて躱して、時折攻撃に当たりながらもまたシルクに体当たりして倒せば、シルクも笑みを浮かべつつもお怒りマークを浮かべまた参戦するのを、お母様とお父様が自分達には被害がないように、東家に風魔法のガードを纏わせ笑って見ているのに、わたしもお邪魔させて貰う。



「シルクもクロモリも元気ねぇ〜」

「そうねぇ〜ユーリちゃんは一緒に遊ばないの?」

「ロズ、あの二人の遊びにユーリが入ったら飛ばされて終わりかな?ここでゆっくりと眺めるといいよ」

「ふふっ、ホント邪魔しないのが1番のわたくしの役目ですわねぇ〜って…イーッキシッッ!!」



我ながら良い加トクシャだったと満足して顔をあげれば、慌てたようにシルクとクロモリが戻ってくる。



「あら、おしまいにする?」


ニコリと笑って聞けば、シルクが近場のタオルをわたしの頭に掛けて拭き出し、


「姉さんはすぐ風邪引くんだから…水遊びしてないで屋敷に入って湯船にでも入って身体温めて」

「エリュー、クロモリ乗って」


ワシワシと吹かれながら、目の前でクロモリが黒豹へと変わる。


「2人とも大袈裟ねぇ〜真夏よ?」

「そう言って風邪ひいたり倒れたりするのはどこの誰?」

「……ここのわたくし?」

「自覚があるならクロモリに乗って屋敷に帰って」

「えぇ〜まだ早いわよ」

「いつまでたっても髪も拭いてないし、本当風邪引くよ?」


今の今まで全身ずぶ濡れにして遊んでた2人が、妙に息を合わせてとんとん拍子にタオルを掛けられて、クロモリの背中に乗らされて、あっという間に飛び立たれていた。



「ユーリ、ごゆっくり」


ニコニコと手を振るお父様に手をふり返し、心配ばかりかけているし仕方ないと苦笑いを零す。






そして東家では、お父様とお母様に、


「ウチの息子と孫はユーリに過保護だねぇ」

「仕方ないわぁ〜、シルクちゃんにとってもユーリちゃんは可愛いのだもの。」


そんなニヤニヤニコニコとした視線に残されたシルクは当てられて、顔を朱に染めながら「お先に失礼いたします!」と、わたしの荷物と自分の荷物を持って、恥ずかしそうに早足に屋敷に戻った事は、わたしの見えなかったお話。





8月21日は「噴水の日」です。



シルクさんに地味にラッキースケベがあったことをお知らせ致します。




ユリエルの言う『加トクシャ』は、かの有名な加藤さんのクシャミを模しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 猫は液体などと言われるから闇魔力を込めればクロモリニュルンと噴水から
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