スイカの日
「お嬢様、旦那様が珍しいフルーツがあるので東屋でお待ちしているとのことです」
夏のやや熱い日差しの中、アナから伝えられた庭園の東家へと行けば両親とシルクが既に揃っていた。
「お待たせ致しました。お父様、今日はお仕事お休みですの?」
「午前だけ行ってきたよ。久々にユーリ達とゆっく」
「スイカですわぁぁぁぁぁ!!」
「……うん。スイカって言うらしいね。ユーリよく知ってるね。まだ珍しいものなのに」
「文献で!!文献で見たんです!!」
「そうか。ユーリは博識だね。冷やしてあるから食べようか」
「はいっっ!!」
テーブルにあった縞々のスイカに思わず食いつき、そして元気に返事をすれば執事長のダラスがナイフで半分に切ってくれる。すると中からは鮮やかな赤い色。
切り分けられて、ナイフとフォークを出されたことにより、かぶり付いてはいけないと知る。
あとお嬢様はタネ飛ばし競争もダメ。知ってる。ユリエル大人だから我慢します。今世初スイカにテンション上がってやりたくなってる、某シム○喰いも駄目。知ってる。ユリエル大人だから。
「どうしたの。姉さん、食べないの?」
「ふふ、赤くて綺麗だなって」
ニッコリと笑えば「そうだね」と、素敵な笑顔でシルクが返してくれた。しなくて良かったシ○ラ喰い。
ナイフを入れてフォークで口に運べば、シャクリと口の中に水分が広がり幸せも広がる。
「…美味しい」
思わず頬が綻べば家族が嬉しそうに笑ってくれる。
「ユーリが喜んでくれて良かったよ」
「うふふ、これはねユーリが好きなんじゃ無いかって、お父様が送ってくれたのよぉ」
可愛らしく微笑んで言うお母様の言葉を「お祖父様が?」と返せば頷かれた。
「なら御礼のお手紙を書かなくちゃ。美味しかったですって…ハッッ!!!ちょいとシルクさん、このキューブにしたスイカを凍らせてくれやしないかしら?」
「え?いいけど…」
ふわりと冷気を漂わせて、あっという間にスイカが凍ると、その一つを口に運べば、
「わたくし天才的な食べ方を…!!これ普通に売るより売れるんじゃないかしら!?」
しゃりしゃりしててすっごく美味しい!!!とシルクに目を輝かせて言えば、
「姉さん、その前にスイカが手に入らないんだよ」
そう言われればと、最初に言われた事を思い出す。
「そうだったわ〜…」
「とりあえず大きくて食べきれないし、残った分、姉さん用に凍らせといて貰おうよ」
「駄目よ!折角ならみんなにも食べさせたいわ」
思わず言えばお父様もお母様も笑って、
「ユーリならそう言うんじゃ無いかと、お祖父様が僕達用と使用人用に二つ送ってくれてね。だからみんなはそちらを食べるから、ユーリは遠慮なく好きに食べなさい」
ニコニコと言われた言葉に、微笑み頷く。
「それにしてもスイカはこの辺りでは育たないのかしら?ここに種はあるし駄目で元々、トーマスに頼んだら来年我が家で収穫出来たりしない?ふふっ、そうしたら来年は孤児院にも届けられるわね。ね、お母様お父様、トーマスに頼んでみてもいい?」
「この辺の気候や土壌で何処まで育つか不明だけど…うん、それも面白そうだね。ダラス、庭師のトーマスにタネを届けておいてくれるかい?」
「畏まりました。後ほど準備をして届けて参ります」
「ありがとう!ホントに育たなくても仕方ないから気にしないでとも言っておいてね!」
わたしからも御礼を言えば「畏まりました」とダラスも笑顔を返してくれた。
「でも…もしも育ったら、1個目は毎年家族で食べましょう。お裾分けは2個目からね!」
微笑み言えば、お父様達は少しだけ間を置いて「そうだね。それは楽しみだ」そう言ってとても嬉しそうに笑った。
夏の幸せな日常にわたしも嬉しくて笑い返して、またシャクリと凍ったスイカを口に運んだ。
7月27日はスイカの日です。
ユリエル達の住む地区は、日本の気候に似てますが夏の暑さと冬の寒はもう少し優しく過ごしやすい地域です。
そしてユーリが来年から最初の一個は家族でと言われて、…嫁に行ってしまう予定の娘に言われて正直その約束がどうなるかわからないけど、パパリンは泣きそうなほど嬉しいです。ホントにそう出来たらいいなと願ってるのは口に出さない親心。