サラダ記念日
レイ目線です
「はいアーン」
「………」
「はいアーーーン」
「………」
「はいアーーーーーーーン」
「ユリエルくん、クロモリくんは食べたく無い様だけど?」
まるで恋人かの様に、生徒会室のソファで隣同士に座りユリエルくんがクロモリくんに頑なにサラダを勧めるが、クロモリくんも頑なに口を開かない。
「クロモリってお菓子とか甘いものしか食べないのですよ。場所が変われば気分も変わって食べると思ったのですが…駄目でしたわ。クロモリ、サラダも美味しいのよ?」
嫌そうに顔を逸らすが魔力になって逃げないのは、シルクくんかロットあたりに私しか居ない状況のお目付役でも頼まれたのかも知れない。
「美味しいのにね」
「そうですわ。ね、栄養バランスも大切よ?」
サラダをフォークに刺して進めたソレをそっと受け取り、
「はい、ユリエルくん、美味しいよ?アーン」
そう言うと少し目を見開いて「はい!アーン。モグモグ…ほら!わたくしも美味しいわ!クロモリもアーン」そう言ってまた私の手からフォークを取ってクロモリくんに進めると、一口パクリと食べ…細やかに眉間に力が入り嫌そうな顔をして、テーブルにあったクッキーを頬張った。
「ん・偉いわクロモリ。すこーしずつ慣れていきましょ!レイさんもありがとうございます!」
君に差し出したそれは、ただの子供への食べさせる協力体制だと思われたらしく、ニコッと微笑んで終わられた。
「でも実は私もあまりサラダが好きでは無いしね」
「あらまぁ!ならレイさんも慣れておかないとですわ!この先騎士になられたら色々好き嫌いも言ってられないでしょう?」
「そうだね、なら一口貰おうかな?」
「え?これはわたくし達が口をつけてしまいましたわよ?」
「気にしないよ」
言えばそのお皿ごと渡されそうになったので、微笑み口を開けば意味が通じたらしく笑って「アーン」と言って出してくれたが、私の口へと勢いよく差し出されたのは横から現れたクロモリくんからのサラダ。
多分自分に回されたくなくて、さっさと残りを食べさせようとしたのだろう。
一口にはやや多めのソレを咀嚼すれば、ユリエルくんが上手に出来たとクロモリくんを褒め、レイさんも嫌がらずに食べたと褒められた。
ーー…自分より大きな男に食べさせられる趣味はないのだけれどね…ーー
心で呟き、なんだかクロモリくんと同等の扱いをされたそれが、憎らしくも心地よくもあり可笑しくなる。
「美味しかったよ」
ーー嫌いだったのは子供の頃だけで、今は別段嫌いじゃないしね…ーー
そんな言葉も胸にしまって微笑めば、やっぱり嬉しそうにその美しい瞳で微笑み返される。
「あぁ、ユリエルくん、じっとして」
その紅い唇に指を滑らせ、微笑み「ごめんね、さっきサラダをつけてしまったみたいだ」なんて言えば、流石に少し頬を染めるがそれだけで。
「家族やお友達だと油断しすぎなのかしら?気が付きませんでしたわ。失礼いたしました」
なんて照れ臭そうに笑われて。
ーーホントはそんなもの付いてなかったって言えば、また頬を染めるだろうかーーー
しかしこれ以上君を困らせることは出来なくて、
「光栄だね」
なんて当たり障りのない言葉を返す。
その柔らかい唇に触れて居たいと思うのは初めてで。
なんならその唇を私の口で食べて、そして食べさせてしまいたいなんて願ってしまう。
なんだか可笑しくなって、クスクスと笑えば不思議そうなその瞳はこちらを見たが、クッキーを溢したクロモリくんに視界もその手もあっという間に奪われてしまった。
「美味しかったよ。ありがとう」
そう言って荷物を持って、なんだか少しだけ子供の頃嫌いだった野菜の苦味を思い出して部屋を出た。
7月6日は「サラダ記念日」だそうです。
有名なあの詩からの記念日。
クロモリさん、麗しの(元)生徒会長の口にサラダギュウギュウと突っ込む記念日です。
それでも麗しさを損なわない。それがレイです。
…脳内は麗しくなさそうですが……。