たわしの日
「こ…これは…っ」
魔法祭前の忙しい中、姫さんが商会で手伝いをしてくれている最中に裏手に置いてあった箱の中を覗いて、小さく震えているのに気がついて声を掛ける。
「あぁこれな、兄貴の支店で入荷したんやけどイマイチ売れへんくて、どさくさ紛れに半分在庫を分けられたんよ。見た目地味やしなぁ〜。しかもうち基本は服屋やっちゅーに、付き合いで買うたらしくて…どうやって売ってこかって、とりあえずここに…」
「箱買いですわ!!」
「よし!姫さん、まず落ち着こか」
相変わらずの突然の意味不明さにその細い肩を叩けば、その手を握られ至近距離に迫られる。
「買います!買いますわ!!全部…いえ、このような便利なものがこの世に出回っていなかったのはこういった貴族の買い占めのせいかもしれませんわ!!!独占はよくありませんわね!!どうか下町の皆様にお配りください。いえ!20…くっ、せめて10個はわたくしに…、そして他のもお金は出しますので、ロットさんのお知り合いの皆様にお配り下さいませ!あぁ、いえ、まずは従業員の方に!!!」
「せやから姫さん落ち着き!!」
肩に置いたはずの手は両手で握られ上下左右に振られ続けている。
「これっ、たわしですわよ!!たわし!!!わたしのたわし!!!今までヘチマタワシでのお掃除でしたが、これはシュロで出来た正に万能たわし!!!孤児院にもいくつか…そうだわ!!ロットさんのお兄様にお願いして残りも全てわたくしが!!!」
「おーーちーーつーーきーー言うとるやろぉ!!」
ペチンと、その至近距離のオデコを叩けば、我に帰ったらしく普段は上がっとる眉を下げて笑った。
「失礼いたしましたわ」
「こないな掃除道具でそこまでのテンションになると思わへんかったわ…」
「こないなって…ロットさん!!これは万能の…!!」
「わーった!!わぁったわ!!エル仕事やぁ!接客してきぃ!」
言えばキリッと切り替えて「畏まりましたわ」なんて言って背筋を伸ばして店頭へ出て行く。
「ロット坊ちゃん」
「…イェンか。あれは見んかったことにしといてなぁ〜…あの姫さんはどうもオンオフが時折壊れとって、一応普段はあぁやないんよ?」
ぐったりと座り込んでしまった姿のまま言えば、苦笑いを浮かべた様子で「畏まりました」と姫さんを追う様に店に出て行く。
「…見んかったことにしといてなぁ〜」
オレの隠す様に下げた赤い顔も。
掴まれた手を思わず握りしめてしまった、言葉と行動の違いも。
「さて仕事や」
パンパンと膝を叩いて身なりを整えて、オレも切り替えて店に出た。
7月2日は「たわしの日」です。
ユリエルは最強の武器を手に入れた!!




