指定自動車教習所の日
「馬車の御者をしたい?」
「えぇ!お出掛けするなら馬車でしょう?この先出かける時にお父様もお母様もシルクも連れてわたくしが運転いたしますわ!」
ある日の休みの朝、可愛い娘の言い出した事に驚けば、胸に手を当て良いアイデアだとでもいう様に笑っている。
「うん。素敵なアイデアだけどね、ユーリは馬車の前に馬にも乗れないだろう?」
「そうでした!」
まなじりの上がった可愛い瞳が溢れそうなほど見開く娘に、苦笑いを浮かべれば、ユーリは人差し指を立てて、
「では、先ずは乗馬からですわ!」
「だから諦め…ん?」
…諦めないこの子に押されて乗馬を教える事になったんだ。
*****
「お馬さんがいっぱいですね」
厩舎へと向かえば、入った瞬間にその場にいた十頭の馬が一斉にこちらを向いた。
「ユーリは来たことが無かったかい?」
「乗馬は危ないって幼い頃からからお父様に禁止されてましたもの。だから馬車なら…と思ったのですが、ふふっ、乗馬出来るなら我が儘言ってみるものですね」
クスクスと楽しそうに笑う愛娘はさて置いて…、なんとなく馬の様子が違う様だ。
初めて来たユーリに驚いているのか…?いや、うちの馬はキチンと私設騎士団の為の馬でもあり教育されてる。誰が来ても然程驚かないはずだ。
ユーリがスキップでも踏みそうなくらいワクワクとした様子で馬を見て回れば、何故だか馬は視線を逸らしていく。
「…お馬さん照れ屋さんかしら?」
本人も違和感を持ったのかこちらを見るので、ならば僕の愛馬に乗せようかと近付けば、何故かイヤイヤとでも言う様に首を振り奥へ下がる。
……こんな反応されたことないな。
「お父様、その子は?」
「あ、あぁ。僕の愛馬で… チェスタだよ。乗ってみるかい?」
「…なんだか嫌がってませんか?」
「そんな、僕の愛する天使を怖がるなんて…ねぇ?」
微笑んでチェスタを見るとなんだか涙目で…しかし少し紐を引けば諦めた様についてきた。うん、良い子だ。
「ハアッッ!!」
「お父様!カッコいいですわ!」
試しにと乗馬をして見せれば、嬉しいことを言ってくれる。
ユーリの目の前を軽く駆け抜けると、颯爽と降りて娘を乗せようかと振り向けば、僕を下ろした直後に颯爽と逃げて行く愛馬。
「…ん?」
「あ〜……」
こんな事は初めてで、とりあえずしょんぼりとするユーリに詫びようと思うが、ユーリは先回りして「いいんです」と呟いた。
「わたくし…何故か動物に余り好かれない体質の様で…、馬車だけは大丈夫なので、それなら馬車なら運転出来るかと思ったのですが…やはり難しそうですわね。お父様ごめんなさい。チェスタにも謝っておいて下さいませ」
いつもキリッとした眉を下げ笑う娘の後ろへと魔力が集まると、黒豹型のクロモリが現れて一つ大きな欠伸をすると、その顔をユーリの腕へと擦り付ける。
「また動物さんに振られちゃったわ。わたくしにくっついてくれるのはクロモリだけね。ううん、貴方が居るから大丈夫よ」
優しく微笑みその頭を撫でると、仕方ないとでもいう風にその身を屈めて乗れと促す様子に、ユーリも嬉しそうな顔をしてその背に腰を据える。
「お父様、折角のお休みをごめんなさい。チェスタが嫌がるからわたくしは先に帰るわね。付き合ってくれてありがとう!」
そう言い終わると同時に、クロモリはトーーンと軽やかに飛び、木々の隙間へと消えて行けば……恐る恐るとチェスタが帰ってくる。
「なるほどねぇ」
愛馬を撫でれば、その身を僕へと寄せてくれる。
「ユーリ、君の召喚獣はヤキモチ焼きの様だね」
馬車は大丈夫というのは、きっとその箱の中は君たちの空間だから。
「あんなに召喚獣に愛されるあの子はやはり天使かな?」
チェスタの額と額を合わせ改めてその背へと跨り、久々に軽く愛馬との散歩をしてから屋敷へと戻ろうとすれば、チェスタはチラリと此方を見て、まるで…溜め息でも吐いたようだ。
『アレは愛というより独占欲ですよ』
そんな聞こえるはずもない声が聞こえた気もして。
苦笑いを浮かべて、愛馬に合図を送れば颯爽と駆け出した。
6月25日は指定自動車教習所の日だそうです。
(更新日は1日遅れましたが…(^^;
しかし教習までたどり着かないお話でした(笑)
こぼれ話も応援ありがとうございます。
こちらも評価頂けると凄くやる気出ます!ありがとうございます!!ヤッター
そして3話前の「ロマンスの日」ですが、某 青い猫型ロボの映画より「虹」をかけながら読んで頂けると、素敵な音楽のお陰で情緒が増しました。・゜・(ノД`)・゜・。
数日後に改めて読みかえしたら、突然頭の中で流れはじめたので、ぜひ読者様もお試しいただけると同じ気持ちが味わって頂けるかと…!!是非…是非に…!!