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たまご料理の日



「皆様、たまご焼きですわぁ!」


「お!姫さん差し入れか?」


魔法祭で忙しい放課後、生徒会室でお重を持って声を上げればロットさんが明るく答えてくれる。



「ちょっぴりお焦げはご愛嬌で、味は保証しますわ!毎日遅くまでお仕事で、お腹減りますわよね」



多分かなりお腹がペッコリーノだったのだろう、ロットさんが立ちどころにソファ前のローテーブルを片付けてくれたので、その中央に3段お重を置いて開けば「言うほど焦げてないし、美味そうやなぁ!」とニコニコとしてくれた。



「バッグの中はシルクに氷を入れて貰って冷やして、時折溶けたらまた氷にして貰ってを繰り返しましたので、安心して召し上がって下さいませ」


「あの…ユリエル…。もしかして三段とも卵焼き?いくらなんでも多過ぎない?」



驚いて見ているミラとお重の間に入り、わたしは悪役令嬢顔で口の横に手を当て言い放つ。



「オホホホホホ!ミラさん、いつもわたくし達とご飯を未だ別に食べてる貴方は知らないのよ」


「何がよ…」


少し眉間に皺を寄せてそう言うミラの前から退けば、既にロットさんの持っていたお重が一つ空になっている。



「は?どこに消えたの?」


「姫さん、これどこまで食べてえぇの?」

「あ、ロットさんあともう一段までにしてくださいますか?普段お料理に慣れてない手前、一品のみで申し訳ないですわ」


「いや、美味(うま)いわコレ。ジュワッと中から美味いの出てきて、それに味が違うのもあって止まらへんなぁ」


「は!?」とお重とロットさんを見比べるミラに頷き、


「ロットさん、それはだし巻き卵ですの。 …ミラ、ビックリするわよねぇ。言ってるわたくしも予想以上の速さにビックリしてますわ」


「は〜、ご馳走さん!シルッくん先貰ってごめんな!なんや腹が起きてもぉたな…パンかなんかあったか?」



2段分の御重を空にして、ゴソゴソとバッグを漁り出したロットさんにミラはフリーズ。


食堂で見慣れてるシルクは微笑みながら自分のバッグを覗いて「うちの料理長が小腹が減ったらと持たせてくれたものがたしか…」なんて言ってる。



「ではミラもどうぞ」


「…いや、えっと、折角なのでひとつ頂くけど、あとはロット先輩…まだ入るのでしたらお食べください。アタクシ、お昼を食べておりますのでそんなに入りませんわ」



そう言ってミラは座ってお行儀良くひとつフォークに刺して食べると「あ、本当に美味しい」と笑ってくれた。か〜わ〜い〜い〜!



「ロットさん、僕も姉さんの試作品を今朝も食べてきましたし、良ければどうぞ」

「ロイさんの分は別に有りますので、シルクとミラがいいのなら是非食べて下さいな」


「ホンマにええんか!?なんや今年の生徒会は至れり尽くせりや!アベイルと代わってむしろラッキーやなぁ!」


嬉しそうにそう言うと「飲み物なのかな?」と思えるレベルでパクパクと口に運ぶのを見ていれば、扉の開く音がした。



「なんだ?良い匂いがするな」


「ロイさん、お疲れ様でした。打ち合わせは終わりましたか?」



微笑みながら聞けば「滞り無く進んだからな」と、微笑みを返してくれる。



「はーごっそさん!美味かったわぁ!」


「あ、今ちょっとだけ休憩を…ロイさんの分も」


「エリュー もっとない?」



振り向けば、お重を空にしたロットさんと…いつの間にやら出てきていたクロモリが…別にしていたお弁当の箱を空にして、口の横に小さな卵焼きを付けていた。



「ロイさん、只今お茶をお入れいたしますわぁ〜」


「おい、待て。まさか…ユーリが作ったものを俺無しで食べたとかじゃないよな?」



王子スマイルの爽やかな笑顔なのに、何故か効果音が ゴゴゴゴゴゴゴ… とかなりそうなロイさんに、みんな状況を察したらしく血の気が引いたようだった。



「オイ、ロット、なんだそのお重は」


「いや、これはみんなでって…姫さんがな?ロイはんのは別にって言われたもんで…」



助けて!とこちらを見るロットさんに頷き、


「いや、ちゃんと別にはしてたのですが、えぇっと…」

「エリュー クロモリたべちゃだめ? ごめんなさい…」



クロモリは人型なのに珍しく耳と尻尾を出して、それがションボリと下を向いていて…



「ロイさん!ごめんなさい!わたくしがクロモリの分を準備し忘れたのが悪いのですわ!!仲間はずれみたいで悲しかったのよねぇ〜!ごめんなさいクロモリ!」

「いや、俺の分…」



そんなわたしにそっとシルクが先程バックから出した焼き菓子を渡す。


「疲れた時には甘いものですわ!はいどうぞ!今お茶をお入れしますわね」

「またお前が俺の分まで食ったのか?」



お菓子を渡そうとしたがその上に手を置き、ロイヤルスマイルでわたしにではなくクロモリへと聞くと、「エリューのたまご焼き おいしい」真っ直ぐ眼を見て頷くクロモリに、素直に育ったと感動すらしてしまう。



「1度ならず2度までも…」


そういえば東屋でミラたちと食べた時にもそんな事があったなぁと思い出し、「まぁまぁ、子供のしたことなので」なんて言いつつ間に入るが……2人ともわたしより頭ひとつ分以上大きいので、間に入れてるけど入れてない!問題なくわたしの上で会話されてる!!



「子供だというなら一度躾をし直す必要がありそうだな」


何故か指をバキリと鳴らすロイさんに、


「ロイにおしえてもらうのヤダ エリューがいい」


何故だか不満気で反抗的なクロモリ。



「ちょっ、2人ともちょっとお待ち…」

「お待ちくださぁぁぁぁぁい!躾!?躾でございますか!?ユリエル様の躾でしたらこのワタクシめが喜んで受け…!!」


「ベレト ウルサイ」



勢いよく扉を開けて入ってきたベレト先生に、クロモリはわたしの背後から一足飛びで、躊躇いなくベレト先生をグシャリと潰す。



「センセ、日に日にヤバなっとるけど、大丈夫なん?」


「ワタクシめ、ユリエル様の忠実なる物ゆえ、ユリエル様の前以外では問題ないです!!」


「…いや、クロモリはんに踏まれてそないキリッとして言われてもなぁ…」



ロットさんが思わずしゃがんで聞けば、無駄に顔のいい状態で返事をしている先生からクロモリは降りて、先生を扉の前から蹴って退けると、キチンと扉を閉めた。賢い!!



「ところでなセンセ、今な、姫さんの手作り卵焼き食べ終わったとこやねん」


「!!!!!!!!!」



絶望…!!


ベレト先生、そんな絶望感を全面に出して落ち込むのやめてくださらないかしら!!?



何故ロットさんがそんな事を言ったのかとアワアワとして見れば、その顔は笑みを浮かべて、



「ロイはん。全部食べた俺が言うのもなんやけど、これに関してはロイはんとベレト先生は同じ状況やんなぁ〜。どっちがええ子に姫さん困らせんで済ませられるんやろな?」



ニヤリと悪戯っ子な笑みを浮かべられたら、ロイさんも二の句も告げられず、眉間に一度皺を寄せて堪えると、


「ユーリ、また作ってきてくれるか?」なんて苦笑いで言われたら、「勿論」と笑顔で頷く。


ベレト先生も一瞬で立ち上がり、何事も無かったようにキリッとしてる。うんそれもちょっと気持ち悪い。



「姫さん!せやったら…カラアゲ?カラアゲやったっけ?鶏肉のアレ!!アレまた食いたいわ!そん時はオレにもお裾分けしたって!!」


「勿論ですわ!お料理上手のロットさんに褒めていただけて光栄です!」


「カラアゲ?お料理上手??」



その瞬間2人で気がつく。


そう言えばその唐揚げの日も王太子としての視察があって、ロイさん生徒会珍しく休んでたなぁ〜って…



「いや、みんなでやで!?シルっくんやミラはんは勿論、あの日はアベイルやレイもおったよな!?」

「そうです!それにロットさんがお料理されるのも、たまたま知りまして!」

「仲良さそうでなによりだな…」



仲間外れ状態で拗ねてるのか、地味に魔力漏れちゃってるからねロイ様!!



…それから暫くは拗ねたロイさんのご機嫌取りに、差し入れを作った日にはロイさんが一番に食べさせるという暗黙のルールが出来ました。




(まぁ試作品とか何かと一番に食べてるのは僕ですけどね)


そんなシルクの心の声は言えば更に面倒なことになるので当然言わない。心の中のマウンティング。




5月22日はたまご料理の日です。


ユリエルは、だし巻き卵作ってます。

こんな異世界には顆粒だしが無いから、試行錯誤したのだと思います。


卵焼きも最初はくっついてしまって、何度となく、

「テフロンカコウッ!ダイヤモンドコゥティングゥゥゥ!!」

と嘆きながらフライパンを振り、料理長はそんな謎の言葉を叫ぶお嬢様を見て、恐怖に陥れられていた事があったとかなかったとかあったとか…



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