愛犬の日
「ユリエル様。噂に聞くところによると、今日は愛犬の日だそうです」
「あらそうなんですの?可愛らしい日ですが、残念ながらわたくしワンちゃんと暮らしておりませんの」
放課後誰もいない廊下を一人で歩いていれば、ベレト先生に珍しく呼び止められたが、それはわたしには関係の無い話のようだった。
「折角教えて下さったのに申し訳ないですわ」
「ユリエル様はお犬様を飼うご予定は?」
「う〜ん残念ながら今のところは…わたくし最近何故か小さな動物に…その…あまり好ましく思われないようで…」
眉を下げて残念さを伝えれば、ベレト先生は何故だか嬉しそうな顔をする。
「ならペットは…」
「いや…ですからね。予定は無いのです」
しかしそう言われてみれば、屋敷には折角広い庭園があるのだから、可愛らしいワンちゃんと戯れるのも素敵ねぇ〜なんて少し夢を見る。
「でしたら!!!」
ワンちゃんと戯れるイメージをして無意識にも微笑んでいれば、ベレト先生の声に驚いて顔を上げると同時に目の前に首輪とリードを出されて思わず手を出し受け取ってしまう。
「これは?えぇっと」
想像はしたが飼う予定は無いのだと返そうとすれば、ベレト先生は何故だか満面の笑みで跪き、
「ならワタクシめが、ユリエル様のペット第1号で宜しいでしょうか!?犬とお呼びいただいても、いつかのようにクズとお呼び頂いても構いません!!!」
胸に手を当てそのまま演技がかったほど大きく広げると、膝まずきその両手をわたしに向ける。
「テイッッ!!!」
空いていた横の3階の窓から全力投球でそれを投げ捨てれば「あぁぁぁぁぁなにゆえにぃぃぃぃ!!!?」と先生が嘆く。
「ではわたくしはこれで」
手をパンパンと叩きその横を通り過ぎれば、
「はっ!!これはまさかユリエル様からの第一のペットへの試練!!ユリエル様の匂いのついたあれを探して拾ってこいと!!そして見つけるという苦難から、それを巻いて頂く事で互いに喜びが生まれ侍従関係の構築に!!?成る程…ワタクシめなどが思うよりユリエル様は深くお考えになりっておるのですね!!!行って参ります!!!」
「先生ちょっとお待ちになって!?言ってない!!一言も言っておりませんわ!!てゆーか匂いって言い方凄く嫌!!」
振り向き慌てて告げるがもうベレト先生は走り階段にでも行ったのか姿が見えない。
「クロモリ」
呼び出し現れた黒豹姿のクロモリに、
「さっきわたくしが投げたものの行方わかるかしら?どうか…どうか先生に見つかる前に全力で見つけて、屋根の上か焼却炉か、とにかく2度と見つからない場所に捨ててきて頂戴!!!!」
両頬を掴んで目を見て必死に言えば、その目は「え〜めんどくさーーい」とでも言っている様だった。
「クロモリの好きなオヤツ、今度沢山買ってあげるわ」
その言葉に尻尾を立てて、楽しそうに窓から飛び出して、投げた方向へと木々を飛び移り消えて行った。
「姉さん…何やってるの?」
「いや、わたくしも何をやっているのか…」
そんなタイミングで通り掛かったシルクに問われても、わたしもよくわからない。
「ところでシルク。愛犬の日らしいわよ」
「へぇそうなんだ。でもうちは犬なんて飼ってないじゃないか」
当たり前な事を言われて一つ頷き、
「実はここにいつか探し出した犬耳があります」
「は!!?」
ゴソリとカバンからそれを出せば、シルクの顔が引き攣る。
「シ〜ルク?」
ニッコリと首を傾げて笑えば後ずさられる。
「エイプリルフールネタは引っ張らないで!!!」
「違うわ!!今日は愛犬の日よ!」
「違わないっ!!」
そんな愛犬の日の放課後。
勿論犬耳はシルクにまた風に乗せて捨てられました。しょぼん。ワンチャンかと思ったのに。ワンちゃんだけに!!!
最後の首を傾げて「シ〜ルク」のトコは、某「マ〜キノ」のノリでお願いします。
5月13日は愛犬の日だそうです。
ベレト先生はどうなったのか!クロモリは無事見つけられたのか!!その辺のオチもどこか遠くに風魔法で飛ばしてしまいましょう⭐︎