カクテルの日
「お父様は偉いですねぇ〜!まだ若いのに子供2人も居るのに〜お仕事も頑張ってるし、家庭も平和で浮気もしない…してない…してないですわよね??」
「してる訳ないじゃないか!」
「あーーーっ良かったですわぁぁ!!あんなマブくてグンバツボディなお母様がいて…、いいなぁ〜!!」
朝食を取ろうと食堂に行けば、お義父様の席の横に立ち、その頭を撫でに撫でまくる姉が目に入る。
「あ、シルク!ユーリなんだけど、可愛くて堪らないのだけどさっきから何言ってるか分からなくて、それにもう僕の頭を撫でられ過ぎて髪が抜けてしまいそうだよ〜」
「お義父様……もしかして姉さんにお酒飲ませましたか?」
聞けばお父様は苦笑いを浮かべる。
「そうなんだけど、違うんだよ。僕の為に準備されていたカクテルとユーリの飲み物の色が似ていてね、それで隣に座っていたら間違えて…」
「こんなに広いテーブルなのに…」
「だってたまの休みの日くらい天使と近くで楽しく食事をしたいじゃないかぁ〜」
「うふふっ。お父様の天使はお母様じゃないですかぁ〜☆あぁでもユリエルが可愛くて堪らないのはわかりますわぁ〜我が子ですものねぇ〜あばたもエクボどころか、わたくし可愛いもの〜うふふ〜」
「自分まで褒めちゃうんだ…」
困った様に頭を撫でられ続けるお義父様に、頬を染めて楽しそうな姉に思わず呟けば、小さな声だったにも関わらず聞こえたらしく、ズンズンとドレスの裾を摘んでこちらに来る。
「だってわたくし可愛いでしょう?」
「はいはい可愛いよ」
「〝はい〟は一回よぉ〜」
「あ〜ユーリ、その喋り方だとロズによく似てるねぇ〜!」
「うふふ〜?そうですかぁ〜? あ〜それにしてもシルクも色男に育ったわねぇ〜、ナウなヤングならキュンですってなっちゃうわねぇ〜」
楽しそうに笑っている姉がいつも以上に何言ってるのかわからなくて、お義父様に視線を向ければ首を左右に振られた。
「姉さんはそのよくわからない言葉はどこで覚える…考えるの?」
「うっふっふ〜、男の子と違う女の子には秘密が星の数ほどあるのよ」
目を細めて唇に人差し指を当てて笑う少し大人びて見えた姉に、思い掛けず胸が大きく鳴れば、うふふと笑って部屋を出て行った。
「まったく…姉さんは…」
ため息を吐いて用意された食事に近付けば、お父様が僕を見て言いにくそうに、
「あのさシルク。あのユーリほっといて…いいのかな?」
我にかえり即Uターンをし「良いわけありませんでした!」と食堂を出て探しに回る。
「あぁカヤ、悪いけど姉さんを見なかった?」
何故か佇むメイドを見つけ声を掛ければ、頬を染めてこちらを見上げる。
「お、お嬢様ですか?お嬢様でしたら…私に 『いつもお洗濯ありがとう!みんなが気持ち良い一日が送れるのはカヤが綺麗にしてくれてるからだわ!今度わたくしにも手伝わせてね!』 と、抱き締めてあちらの方へ…」
「うん、わかった。行ってみるよ」
そしてその先に居たメイド聞けば、
「お嬢様でしたら…お止めしたのですが一緒に少し窓掃除をして、私なんかにまで御礼をいって躍る様にあちらのほうへ…」
「ユリエルさまですか?たしかにキッチンに入って来られて『マグレーナ、いつも美味しいご飯を有難う!』て、コックには握手を…その上下に激しく握手をして、メイドや女性には抱きついてお礼を告げて…そこの食材を運ぶ勝手口から外へ」
「ユリエル様ですか?先程私に何故か御礼を言われて…『まぁ!!なんて今日もお庭が綺麗なの!?これはトーマスにお礼を言わなければ』と東家の方へ」
*****
「トーマス、姉さんを…」
東家のすぐ側で剪定してるトーマスを見つけて声を掛ければ、ニッコリと笑って東家を視線で指差す。
「寝ちゃったかな?」
そう呟いてトーマスの横まで来れば、東家の椅子にクロモリを出して、そのふわふわのお腹によしかかり眠っている姉が見える。
「トーマスにも御礼を?」
「はい、わたしが生まれる前からありがとうと」
「トーマスには生前からの御礼なんだね」
「勿体ない御言葉です」
姉を見つめるその目は慈愛に満ちていて、姉が愛されていることがよくわかる。
「でも流石に外で寝かしておく訳にはいかないからね。運ぶよ」
「この爺では腰をやってしまいますからな。申し訳ありませんが宜しくお願いいたします」
帽子を取って詫びてはいるが、そんなトーマスに微笑み言う。
「この前も大きな丸太を運んでいたじゃないですか。姉さんに聞かれたら『わたくし丸太よりは軽いですわ!』って怒られそうだね」
「丸太は落として割れたら新しく運び直せば良いのです。お嬢様の替えは御座いませんので…」
優しく微笑み返されるその言葉に「…そうだね」とだけ返して、東家に向かい獣姿のクロモリを撫でれば、嬉しそうに目を細める。
「姉さん運ぶからね。クロモリもいつもありがとう」
普通に考えたら召喚獣に御礼など笑われてしまう行為かもしれないが、この自意識のあるこの子には当て嵌まらない。
それでなくとも分け隔てなく、自分の周りの人には礼を尽くすべきだとこの家に来た時から、この…呑気になにかむにゃむにゃと言いながら昼寝をしている姉に再三言われて育った僕には、御礼は挨拶の様なものになっている。
「あの王族のロイ様にまで言ってる時は流石に肝が冷えたけど…」
まだ素直な子供だったせいか、この人に言われたせいか、ロイ様も王族の割に礼に事欠かず周りは人に溢れている。
「もっと我が儘で偉ぶってくれてたら、気も楽だったのにな…」
そして婚約者である義姉なんて気にせず、どこかの女性に気を取られてくれたらどれだけ良かっただろう。
そんな有り得ないことを考えて居ると、
「だれが?」
その声に聞かれていたのかと驚けば、まだボンヤリとした彼女がこちらを見ている。
「あぁロイ様ねぇ〜、うふふ〜そうねぇ〜、偉そうに傍若無人で…もしそうだったなら、わたくしも高慢ちきな我が儘令嬢で、シルクを蔑ろにして〜きっとシルクもわたしが嫌いだったわね」
「なんでそうなるの?」
「でもわたしはそんなのやだわぁ〜、シルクに嫌われたくないのよぉ〜、クロモリも居ないなんてもう考えられないもの〜」
突然子供の様にベソベソと泣き出して、そのままクロモリを抱きしめると「良い子ねクロモリ。愛してるわぁ〜」なんて言いながらその背を撫でている。
支離滅裂な酔っ払いのその言葉にため息を吐くと、今度は前に座っている僕に抱きついてくる。
「シルクも良い子よ? 幸せに…幸せにおなりなさいな。みんな…みんな幸せになってね。若人の幸多き未来を祈っているわ………」
ハイハイと背中をポンポンと叩けば楽しそうに嬉しそうに微笑んで「よっこいせ」とクロモリの背中に跨がり「そんじゃお屋敷までレッツラゴーよクロモリ!」とまた勢いだけの変な言葉を言えば、クロモリも楽しそうに駆け出す。
「お先にドロンするわね!またね、シルク!」
手を振り見送れば、トーマスが申し訳なさそうに、
「あの…シルク様、失礼を承知で申し上げさせて頂きますが…あのお嬢様ほっておいて宜しいのですか?」
その言葉で我にかえり「宜しくなかった!」そう慌てて屋敷に走って向かえば、屋敷の中は姉に褒められ、頬を染め喜ぶ使用人達で溢れていた。
それから暫くして部屋で寝て…アナに甲斐甲斐しく世話されてる姉を見て力尽きた僕は、よく頑張った方だと思う。
アナは人一倍褒められた模様。
5月14日はカクテルの日だそうです。
本編では主に16歳のユリエル達ですが、この世界の成人は16歳で飲酒も許可されております。
JAPAN法律では未成年の飲酒シーンで申し訳ありません。
でも異世界ですから!
日本ならば、お酒は二十歳になってから!!
お酒は二十歳になってから!!!
大事な事なので2回言いました。