ダズンローズの日
「あらあらまぁまぁ!ロイ様!珍しいですね。突然どうしましたか?」
園庭を眺めていれば、太陽の光で輝くロイ様が目に入る。
久々に会うが、男の子の成長は目まぐるしい。
しかしまだ12歳と言う年齢のせいか、わたしの方が少し背は高い。そのうち抜かれるのかとは思うけど、まだ少し膨よかな頬が愛らしい。
「あぁ、ユーリ、暇か?」
「そうですね、もうすぐ家庭教師の方が来られるので、一時間程度なら」
「そうか。なら少し馬車で…林道だけで構わない。一緒に少しいかないか?」
何故だか落ち着かない様子で居るロイ様だけど、まぁ王家の方にお断りなんぞ出来るわけも無いので、近くに居たアナに家に伝えて貰うことにしてそのまま馬車に向かうことにする。
「突然すまないな…」
「いえそれは構わないのですが、時間が取れず申し訳ありません」
アナが家庭学習を休む提案をしてくれたが、ロイ様はそれはしなくて構わない、すぐに帰ると言うので、小一時間の馬車での散歩。
箱入り娘のわたしは実は馬車での散歩もレアなので、一時間とはいえ浮かれていることを御令嬢として察しられてはならないわ!
「楽しそうだな。こんな木々ばかりの外の景色はそんな変わったこともないだろう?」
速攻バレてるし。
「ふふっ、1日として同じ日はございませんもの。この前まで美しかった木々の葉はもう茶色の絨毯になって、動物たちは冬支度に忙しそうですわ」
「ユーリは…あまり私にない考えをするな」
「そうですか?あまり外に出ないからかもしれませんね。景色の移り変わりが如実に感じられ、春夏秋冬それぞれの趣きが心地よく視線が奪われてしまいます」
そう微笑めば「なんだかお祖母様と話してるようだな」と驚かれ、思わずビクリとすると「あぁ、失礼な言い方だった。詫びよう」と慌てた様に言葉を繋げられた。
こちらこそ子供らしくなくてすみません!!
「ユーリは…学園には行かないのだろう?」
「はい。色々詰め込んでおりますので、引き続き屋敷の方で教師や色々な方のご指導頂くことにいたしましたわ」
「そうか。寂しくはないか?」
「そうですわね…義弟のシルクもロイ様と学園に行かれるのでしょう?それが正直少し寂しくはありますわね」
頬に手を当て溜息をつけば「ほう…?」と、なんだか少し不機嫌そうな返事が聞こえた。
…はっ!!もしやこれはロイ様にうちのシルクの良さが伝わって無いのでは!?お会いする数も少ないし、可愛くて可愛くて仕方ないけど元を問えば義理の弟。
まさかとは思うけど、何処の馬の骨が公爵家を継ぐのだとか思われて、来年から学園でイ…イジメられたり!?シルクもわたしと一緒で屋敷でずっと家庭教師での勉強だったし、もしかして人見知りかもしれないわ!?そうだわ!!我が家にやってきた時も物凄い緊張してたじゃない!?
これは姉として、誤解を解いておかなければ!!!姉馬鹿だと思われても構わない!だって姉馬鹿なんだもの!!!
「ロイ様、シルクはとても良い子なんですよ?ニコニコと笑って可愛くて、そりゃ時にはわたくしに注意することもありますけど、ちゃんと考えてキチンとした考えも持っている様ですし、それに勉強や運動も進んで頑張っておりますの!屋敷ではわたくしと一緒に色々な事も学んでおりますし、真っ直ぐとした良い子です。家族や、姉のわたくしにも優しいですし、学園でも周りと上手くやっていけると思います」
「…ほぉ」
なに!?まだ不機嫌だと!?これでもロイ様のご希望に足りないのかしら!?
思わずムキになり
「今はまだ幼さ故に至らぬ所もあるかもしれませんが、この先立派な男の子…引いては立派な男性に成長していく事は明白です!どうかシルクを学園でも仲良くしていただける様、お願いいたします」
王子であるロイ様に気に入られてないとかなったら、うちのシルクがハブられちゃったら大変よ!?と、必死でシルクの良さを告げれば、眉間に手を当て「わかったわかった。もういい」と言われてしまう。ショボーン…ごめんねシルク。お姉ちゃん失敗したかもしれない。
「あぁ、弟の話はもういいだけだ。来年なにかあればユーリに私からも報告しよう。学園でも目を掛けておくしな」
「ありがとうございます!とても良い子なのできっとロイ様とも仲良く出来ると思いますわ!」
安心して微笑めば「それはどうかわからんが…」と呟かれて、めっちゃショックを受けると「あぁ大丈夫だ!前に何度も話したが、うん!いい奴だったしな!!」そう言われ一安心する。なんだシルクの良さ、わたしが言うまでもなかったかしら?
「あぁ、もう時間か。忙しいところ悪かったな。なんだかもっと他の事も話したかったが…」
「こちらこそお忙しい中来て頂き、お会い出来て楽しかったです。今更ですけどロイ様身長も伸びましたわね。もうすぐに抜かれてしまいそう…男の子には敵いませんね」
そう微笑んで話せばもう屋敷に着いた。
ロイ様は少し慌てたように座っていた椅子の横の布を取るとソレを取り出し、わたしに渡す。
「あらまぁ綺麗な薔薇ですこと!頂いても?」
「他の国のヤツに聞いてな…今日はダズンローズデーとか言うものらしく…」
「だずんろーず?」
「あぁ…うん、その12本の薔薇だが…」
ゴニョゴニョ言ってる間に馬車が止まり、ふと外を見て目に入る。
「まぁシルク!!迎えに来てくれたの?」
そう言うと微笑んで手を振ってくれ、ロイ様へは胸に手を当て深いお辞儀をする。ほら見てロイ様、シルクってばちゃんとしてるでしょう!?
馬車の扉は従者によって開かれると、ロイ様は先に降りて、エスコートしてくれる。
「ロイ様、楽しいひと時をありがとうございました」
薔薇を片手にカーテシーでお辞儀をすれば、その手を取り唇を落とし「またな」と微笑み、シルクにも視線を送ると馬車に乗り込む。
その馬車が遠のくまで2人と侍女達とお辞儀をし、見えなくなると「ふふっ、照れちゃうわね」と、シルクに話す。
「姉さん?その薔薇は?」
「ロイ様に頂いたのよ。えっと…なんだったかしら…なんとかデー…」
なんだかお洒落な名前で頭に入って来なかったのよと首を捻れば、シルクも不思議そうに首を捻る。
「なんとかデイ?」
「あ!!江戸っ子じゃないのよ!?」
「江戸っ子ってなに?」
「…何かしらね。えっと、なんかこう…未来のサイボーグが現れそうな音だったわ…」
「姉さんが何言ってるのかわからないよ?」
うーんうーんと首も頭も捻るが出てこない。
なんかほら…筋骨隆々のサイボーグが出てくるBGMみたいな…
「ダダンダンダズン…みたいな…デイ」
「……さっぱりだね」
「そうよねぇさっぱりよね…あっ!追いかけて聞いてみる!?」
「王家の馬車を!?」
「駄目ね」
「うん駄目だね」
君がそう言うから、今日はサイボーグ記念日。
って事にしておこう。
12月12日は「ダズンローズデー」
恋人に12本の薔薇をおくる日だそうです。
12本のバラは「感謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊敬・栄光・努力・永遠」という意味が込められ、『全てをあなたに誓います』という意味で贈るとのことです。
説明しなきゃ伝わんないっすね!!ロイ様ファイト!