横町の日
「いらっしゃい!!…って、ペンニーネの坊か。年末に親父さん買い溜めてたのに、もう終わったのか?それとも坊が親に隠れて食っちまったか?」
「おっちゃん!オレのこと幾つやと思っとんねん!もう華も恥じらう立派な成人男子やで!!」
「ちびっちゃいまんまだけどなぁ!」
「それは言わんお約束や」
年末年始の休み時期に家ののど飴はシルっくんに全部上げてしまったので、年明けの開店と同時に来たのは子供の頃からの馴染みの飴屋。
相変わらずおっちゃんの軽口に笑って「いつものヤツ」と言えば、迷うことなく紙袋に沢山入れて出してくれる。
「そんで坊よ、前に物凄いかわい子ちゃんと歩いてたって噂になってるけども、お前もそろそろ婚約とかそんな時期か?」
「うひゃひゃ!そらありえへんわ!」
お代を渡せば「こんな良い男なかなかいねぇけどなぁ〜」と笑って釣り銭を準備される。
「おっちゃん、オレの幼馴染知っとるやろ!アレが横におったらオレの恋は始まらへんのよ」
釣り銭を渡されながら、
「ありゃもうしゃぁねぇな!!うちの母ちゃんも『次はレイくん何時ごろに来るかしら♡』なんて歳も考えずに言ってたしなぁ!…じゃぁ噂の嬢ちゃんもそっち狙いか」
ショーケースの上から飴屋のくせに無駄に太い腕を出し、頭をポンポンとされる。
「いやいやレイでもないし…なんやろねぇ〜」
笑って店を出ようとすれば、おっちゃんが何かを投げてきたのを、紙袋を落とさない様になんとかキャッチする。
「坊、オマケだ!うちの新商品、お得意の喋りで宣伝頼むぜ!」
「ほな次は勉強したってな!!」
「いつもしてんだろ!!」
笑って受け取り手元のそれを見れば、ピンクのハートで『恋の実る飴』と書いてある。
「どの面下げて売るんやコレ!?」
「大きなお世話だ!」
軽口を言ってる間に扉が閉まり手を振り店を出れば、隣の店のおばちゃんにも挨拶されて、向かいの花屋のおっちゃんに飴の入った紙袋の中に売り物の花を一本刺される。
「おおきに!」と笑って返すが、ここで育ったオレにはわかる。
『ちょっとロット、あのお嬢さんはどこの子なのよ』
『一緒にいた男はライバルか!?花でも送って一歩リードだ!』
『来年には卒業なんだから、そろそろ…』
なんて心を読む力もないけど、ニヤニヤとされて見守られ居心地の悪さは最上級。
「いや〜!おっちゃん可愛い花やな!!5年か10年後くらいに彼女でも出来たら改めて買わせてもらうわ!!」
ニカっと笑って言えば周りが『そうか振られたのか…』といった雰囲気に変わる。
「元々ちゃうわ!!」と言いたいが、もう色々しんどいので小走りで帰宅する。
この商店街は好きやけど、時折ちょっと重い!
「姫さん風に言うなら…とほほ〜やな」
口に出してちょっと笑って、もらった飴は袋に入れて、ちょっと苦味のある喉飴を一つ袋から出して口に放り込んだ。
4月5日は「横町(横丁)の日」だそうです。
一年生の年末年始のユリエルの風邪っぴきあたりのお話しでした。
レイとロットは子供の頃から遊び場感覚で走り回ってたので、みんな子供の様に可愛がってくれてます。
ペンニーネ商会は町の中で一番の高級店ですが、ロットの親しみやすさのおかげで一段と町に馴染みました。
そして一緒にいるレイの子供ながらの整った顔立ちに町のレディー(おばちゃん達)はメロメロでした。
「レイがおるとめっちゃお菓子もらえるな!」
「私もロットが居るとお菓子がもらえるよ」
当時の親しみやすいロットに、麗しいレイの、
「お菓子ありがとな!」「いつもありがとうございます」の声や笑顔が聞きたくて見たくて、お菓子屋じゃないのに、オヤツを準備してたお店が多かったとかなんだとか。
今は成長や立場を理解して、みんな笑顔で手を振ったり、声を掛ける程度になりました。
でもやっぱりロットは色々貰ってる。(下町で一番デカい店の倅なのにww)