ありがとうの日
「はい!ロイさんメッセージカードです」
そう言ってにこやかにユーリから小さな封筒に入ったカードを渡された。
「なんだ突然?」
高鳴る胸を抑えながらそれを開けば、
『いつもありがとう。
お身体には気を付けて下さいね』
そう綺麗な文字で書かれている。
「今日はありがとうの日なんですよ!なのでお世話になってるみんなに配ってます!」
と、話したのが今朝の話。
「で、これはお前たちでは無いのだな?」
「違います」とシルクが言えば、
「あの…ボクも頂きましたが、今も持ってるし…内容も違います」そうアベイルも同意する。
生徒会室のソファに座り、その中心のローテーブルには今朝貰ったメッセージカードに『いつもありがとう!大好きです♡』の文字。
「姉さん…大量に書いてました。時間が足りない〜って、昨日も夜遅くまで…」
「何故遅くまでユーリが起きて居たのを知っているのか問い詰めたいが、そこは置いておこう。」
小さく「うぐっ」とシルクが言ったのはスルーして、
「これは学園に落ちて居た。と、言う事は学園内か…帰りに誰かに渡すつもりだったのか…」
「こんにちはーー!!えっへっへっ!!ユリエルせんぱいからメッセージ貰っちゃったぁ〜…って何ソレ。」
ハイテンションで入ってきたカフィトルが、机の手紙に気が付き、明らかにテンションが下がった。
「えーーー!!大好きですって告白!?告白なの!?だれ!?だれがもらったの!?まさかロイさま!?シルクさま!?アベイルさん…は、無さそうだなぁ〜?」
「ウッ」
小さく呻くアベイルはさて置いて、
「おい、まさかとはなんだ。俺は婚約者だぞ。貰ってもおかしくないだろう!」
「その言い方が貰ってないんじゃないですかぁ〜。え〜シルクさまでも無いなら…やっぱり前の生徒会長かなぁ〜…やっぱりユリエルさまもあの顔に弱いのかなぁ〜」
その細く長い指で封を開き、目を通せば蕩ける様な笑みが浮かぶ。
『あぁ嬉しいよユリエルくん…。私が君の全てを…髪の先から全て余す事なく幸せにしてあげるよ』
そう告げて麗しく微笑むと細い肩を抱きしめ、そしてその黒髪に唇を………
「ちっっ違うな!!」
突然浮かんだイメージを頭を振って必死でかき消し叫ぶ。
「えぇ!そうですね!きっと違いますとも!」
「せ、生徒会長はそんな事しないと思います!!」
「アベイル!そんな事ってなんだ!?」
わーわーと騒ぐ俺たちに「こわーい」とカフィトルが笑って言ってくる。
「ならロットさんかな?あの人にユリエルさま随分心ゆるしてるでしょ〜?」
ロットはメッセージカードを手に取り、少し驚いた顔をして、
『姫さん…その…、ありがとな。…言われへんかったけど俺もや。……あかんっ!なんやコレ、めっちゃ照れるな』
はにかむように笑って手を繋ぎ、目線が合えば屈む事なく近づくその顔と顔……
「無いな!!うん、ロットがそんな…ないな!!」
なんとなく頭上のイメージを消そうと手を上にあげ左右に振って消そうとすれば、何故かシルクとアベイルも同じ動きをしているのが目に入る。
「そうですね!ロットさんは姉さんの暴走をいつも止めてくれますから」
「そうです!ロットさんですから!!」
うんうんと皆で頷き合えば、
「じゃぁ誰だって言うの〜?ユリエルせんぱいがあと仲がいいの…ベレト先生と、グラさんと前の副会長くらい??」
「「「それはない」」」
声を合わせて返事をすれば「じゃ、やっぱりだれなのさ〜」とカフィトルは不満げに頬を膨らませる。
皆で珍しく頭を悩ませれば、いつの間にかミラが入ってきており、
「ノックは致しましたが…何か大切な会議ですの?」
申し訳なさそうに言いうと「ではアタクシは席を外しますね…あっ」
そう言って「なんでここに…」と机のカードを持って出て行った。
その背を見送ったあとの、男どものクソデカい溜め息は、聞かなかったことにして欲しい。
3月9日はありがとうの日です。
そして読者様にはきっとオチが見えてた気もするのです。




