こどもの日
「うーん……ユーリにちょっと聞きたいんだけどね。これは何かな?」
「こいのぼりですわ!」
「コイノボリ?」
今年の夏には8歳になる、そんな我が家の可愛い天使のユーリがやることを止めるつもりはさらさら無いが、謎の魚?らしきものを布で作り庭園に棒を立て、そこから旗のように掲げて干してある。
「コイノボリ?」
「えぇこいのぼりですわ!」
同じ言葉を繰り返せば、同じ言葉を妙に自信満々に返されてしまう。
「何の意味があるのかな?」
「シルクの健康と成長を祈ってますわ!!」
「そうかい」
この謎の願掛けも、義弟であるシルクの為だと微笑みが溢れてしまう。
新しい家族として……、この家の跡取りとしとして入って貰ったあの聡明な子にやきもちを焼くのでは無いかと思って不安に思ったのも、出逢ってすぐに彼を輝く瞳で歓迎した時に杞憂だったと息を吐いた。
自分でもこの愛らしい娘にそんな疑惑を持ったことがいまだ疑問ではあるが、親というものはそんな心配が尽きものなのだろうと、その黒い瞳に太陽の光を受けて輝くのを見つめる。
「シルクの為かぁ。お父様は嬉しいなぁ」
「ふふふっ、男の子の成長を願う……そう!異国の風習ですわ。だから、お父様の成長も願っておりますの」
「男の子?」
この歳になって言われると思わなかった言葉に驚けば、ユーリは目を細めて笑った顔はなんだかとても大人っぽく見える。
「いつまでも成長し続ける、それが男の子ってものですわ」
「それは僕もまだまだ頑張らないとだね」
「ふふふっ、こんなに頑張ってらっしゃいますもの。お父様は大丈夫ですわ」
「はははっ、ユーリに褒められて嬉しいな」
年齢で重ねたものなんて大したことないと、この人を思いやれる齢7歳の娘を抱き上げ胸に抱けば、嬉しそうに微笑みを返された。
「可愛いねぇユーリ」
「シルクも可愛いのですわ」
「そうだね。それなら今から呼んでこようか」
「そしたらわたくしのように抱っこしてあげて下さいな。子供はいつまで経っても親の愛情を感じていたいものですわ」
そう言ってクスクスと笑うと、僕の首にその手を回し抱きしめると耳元で、
「お父様もお母様も、わたくし大好きですわ」
「うふふっ、お母様も大好きよ。うれしいわぁ〜」
いつの間にか来たのか後ろから愛妻の声に振り向けば、ロズの横にはシルクが気まずそうに立っている。
僕がその顔に声を掛けようと思うより先に、ユーリは僕の腕の中から降りると僕より先にその身を抱きしめている。
「シルクも大好きよ。わたくしの大切な大切な義弟ですもの。ふふふ、ねっお父様」
「そうだよシルク。見てごらん、これはユーリが君のために作ったんだよ」
跪き視線を合わせてコイノボリを指差せば、シルクは嬉しそうにそれでも恥ずかしそうに頬を染めて見上げると、
「でも……これは……なんですか?」
「こいのぼりよ!」
「コイノボリだよ」
僕たちの揃った声に、微笑みながらも隠しきれずに引き攣る頬のままに頷くシルクにユーリは笑って説明を始める。
「♪1番上は〜お父様ぁ〜、……えっと、2番目はお母様で、3番目からはわたくし達子供なのよ」
一瞬だけ歌ったような、そんな不思議な説明にシルクは照れ臭そうに聞きながら、
「でも1番上がお姉ちゃんの色だよ?」
その質問にユーリは顔を上げると腕を組み首を傾げ、
「う〜ん。確かにそぉねぇ。確かに黒、赤、緑……これだと緑の髪のお父様が子供の位置ねぇ〜。ソレ言ったらシルクの銀色が無いわね!!作る!?ハッ、でも銀色ってどうして色付けるのかしら?高い!?高いかしら!?年に一度のお祝いにやりすぎは良く無いかしら? いや、いいかしらシルク? 色で判別は良く無いわ。青がいつでもクールで無口とは限らないし、黄色がカレー好きとは限らないのよ?」
「何言ってるの?」
明らかに困った笑みのシルクにユーリは笑顔で、
「ツッコミはキビキビッ⭐︎と返した方がわかりやすいわ」
「……何言ってるの?」
今度はユーリをしたり目で告げるシルクに、ユーリは微笑み親指を立てて「それよ!」と、何故だか肯定している。
そこよくわからない2人の会話にロズが可愛らしく口に手を当てて笑っている。
「2人ともか〜わいいわねぇ」
ロズの素直なその一言を聞いて改めて二人を見れば、何か楽しそうに話しながら歩いていく。
「……そうだねぇ」
今までのユーリの大人のような笑みとは違う、なんだか年相応に笑うユーリとそれと一緒に笑い時折困ったようにも表情を変えながら付き合ってくれるシルクは、本当に可愛いのその一言に尽きるのだと、可愛い我が子たちを青空の下ゆっくりと2人で見つめていた。
久々のこぼれ話でした。
こどもの日過ぎてるけどね!!
いつでもこどもは主役だから、毎日がこどもの日さ!!!(?)