カフィトル編
「ゆりえるさま〜!」
「あらあらカフィ、どうしたの?」
ゆりえるさまの見上げてくるその視線に気が付いて、自分の手を見れば明らかに大きくガッシリ……とはいかないまでも、ふにふにと柔らかかったはずのそこは大きくなり筋張っていて大人になっているのだと示していた。
「ゆりえるさま、ぼく大人?」
「そうよ。もう立派な大人よ」
微笑んで言うその言葉を聞いてこれが夢だと確信を持つ。
だってきっとあのロイさまやシルクさますら子供扱いしてた彼女が、背が伸びた程度のぼくを立派な大人扱いするわけないと自傷の笑みが溢れる。
「なれるかな?ちゃんとぼくも、ゆりえるさまの隣に立って恥じない人に」
「?」
夢のゆりえるさまは意味がわからなそうだけれど、いつもみたいに優しく笑って頷いてくれる。
「ゆりえるさまならきっと急いで大人にならなくていいって言ってくれるんだろうなぁ……。ぼくはこんな風に早く大きくなりたいけどさ」
夢を夢だと気付いたせいか、その手はみるみる小さくなっていく。
「あ〜ぁ。気が付かないで要られたら良かったのにな」
偽物のゆりえるさまはぼくが成長したにも関わらず変わらない姿だとか、手掛かりが多過ぎると思いながらもその姿に笑みを返せば、ゆりえるさまは一度ゆっくりと目を瞑るとまた目を開くと力のある瞳を向けて、子供になった……いや、いつものぼくを抱きしめて、
「カフィは素敵な大人になれるわよ。ふふふっ、このわたくしが保証するわ!!だってカフィは今でも素敵だもの! どんなカフィになってもわたくし大好きよ!!」
抱きしめられたその手は力強くて……ぼくの知ってるゆりえるさまだと嬉しくなって、まだ少し見上げる背のまま顔を上げれば優しい笑顔をうかべてくれる。
「ゆりえるさまぁ〜☆ ぼくも大好きだよ!!」
「嬉しいわ」
本物でもきっと返してくれるその返事は、ぼくの欲しいは答えとは違うけど……それでも優しいその顔に夢ならいいかと背伸びしてキスをすれば、ゆりえるさまは吃驚して「おませさんね」と赤い顔して笑って消えた。
その言葉の意味が早熟だということならばその通りだと……夢の彼女を見送れば自分の世界も日常の音が聞こえて来て、それは目覚めが近いと示している。
「ふふっ、ゆりえるさま、ぼくがんばるね」
消えてしまった光のカケラに言葉を告げて、アベイルさまが見えるというゆりえるさまの魔力の残滓とはこんな感じなのかと、見えない世界を垣間見た様な気持ちでその世界を後にした。