ベレト編
ここは森の奥の小さな家。
人がそうそう訪ねてくることもなく、ただ俗世界から切り離されたような空間。
「先生、大丈夫? 美味しいかしら?」
「美味しいですユリエルさま!!」
「そう言ってくれるのは先生だけだわ」
ワタクシめの姿を見てクスクスと笑って下さっているが、それはまた今回もいままで食べたことのないもの。
昔、ユリエル様のおかげで病気をした時に振る舞ってくれたパン粥というのが食べられたのは凝っていなかったからだろうか。
不思議なものでユリエル様が一度鍋を震えば取っ手が外れて飛んでいき、突然火の魔石が暴発するなどとありえないことが起きるのはきっと愛の試練。
その証拠に懲りずに毎週一度はこうして愛を試すように手料理を振る舞って下さるが、自分の中にはユリエル様の白濁とした美しき光の魔力があるお陰か、喉さえ過ぎ去ればお腹を下すこともなくワタクシめの栄養となり、この身を作って下さることへとただただ感謝をしてながら噛み砕けなくはないこの赤と緑の材料は不明ではあるが、ユリエル様がクリスマスだからと言って作って下さったソレを噛み締める。
「美味しかったです!」
「本当ですか? 先生はめきめき上達されるのに、わたくし全然上手くなりませんの……」
しょんぼりと項垂れるのはきっと一緒に住む以前は料理などしたことのなかった自分のこの腕を使って、ユリエル様のほんの一部になるのならと毎食振る舞い作る料理のせいだろう。
しかしユリエル様のお口に入れるものが、この料理のような……いや、ユリエル様のような高貴なお口に合わないものを食べされるわけにいかないと必死で学んできたことが、逆にユリエル様を傷つける事などあってはならないと己を殴る。
「先生!!?」
「いえ、上達なさってます!!ワタクシめはユリエル様が作ってくださったものを食べることが史上の喜び!!他の誰にも食べて貰えないというのでしたら、それはこのベレトの為にだけ振る舞って頂けるということ! きっとそれは天の情けであり恵みなのでございましょう!!」
自分で殴った勢いで倒れてしまえば、ユリエル様が慌てた様子で近付き、その頬に手を当て癒しを下さる。
怪我が治ることは無いが、その光の魔力はワタクシめの中へと入り、高揚感が増していく。
「先生?」
「ユリエル様……」
跪いたまま見上げれば、その美しく吊り上がった瞳が共に細まり笑みを浮かべて下さる。
「ユリエル様、ご馳走様です……食べ切った……ご褒美を」
「天の恵みだと言いながらも、食べ切ったらご褒美だなんて……ふふふっ、そんなクズの言うことを聞かなきゃいけないかしら?」
その名を呼ばれて手を合わせて指を組み、その美しい御姿にただただ幸せに胸を焦がす日々は、ワタクシめにとっての全ての神はユリエル様だと今日も全身へと刻み込まれていく……ーーー
本編もこぼれ話にもブクマや評価ありがとうございます。
クリスマス編まだ続きます!